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変化する"覚悟"と新しさへの"挑戦" 光源を増して『紅月』はさらに光る
嬉しいーー
事の顛末を見届け、放心状態のなか、最初に私の中に浮かんだ感情がこれだった。
11月に解禁された予告動画に肝を冷やし、年の瀬に公開されたMVに高揚し、と思ったら雲行きが怪しくなるストーリー展開に顔をしかめて……。
そうしてこの2ヶ月間、ジェットコースターのように乱高下を繰り返してかき混ぜられた感情は最後、「嬉しい」の4文字として発露された。
本記事は「紅月」新曲イベント『浮雲*照らす翔装の華月伝』の感想戦です。
人が抱く感情は千差万別ゆえ、そこに正否や優位性など無いと私は思っています。
なのでこの記事も、一人のオタクが年末年始を返上して考え抜いた先に出した答えの一つとして、心に留めていただけたら重畳です。
変化の"必要性"とその"受容"
今回のイベントを通して、私が嬉しかったこと。それは、『紅月』が変化の必要性を受け入れただけでなく、それを形にしてくれたことだ。
彼らは"和"に捉われず、自分たちの更なる成長のために新しい要素を取り入れようとした。
"変化”とは、前回イベント【天地鳴動R】の番組制作を通して3人の中に芽生えたキーワードだ。内容が凝り固まり、視聴率も低迷していた長寿番組に新風を吹かそうと画策していくうちに、それぞれが自分たちも前に進むための変化が必要だと気づいた。
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しかし私は、"変化"とはふつう、受け入れることが難しいものだと思う。実際、それが簡単にできず年始から複雑な胸中になっていたのだから。
何が複雑にさせているのかを考えた時、私の中に2つの感情が相対していることに気づいた。
それは、"『紅月』のファンである私"と"『紅月』のプロデューサーである私"だった。
現状への固執︰ファン心理
ファンというものはつくづく厄介な存在だと思う。自分が「最高だ」と思った瞬間を丁寧に切り取って額縁に飾り、それが未来永劫続いてほしいと切に願ってしまう。というより消えてほしくないからこそ、変わらず続いていくものだと信じて疑わない。
そしてその"最高の瞬間"が大人の事情によって歪まされたとき、愛を注いでいた対象や事務所(運営)に対して「責任を取れ」と迫る。私自身、こういう思考は持っていると十分に自覚している。
だからこそ、ファンは"変化"に対して異様なまでに過敏になる。
そしてその変化が急激であるほど戸惑い、警戒心を強めてしまう……。
そう、今回はあまりにも展開が急だったのだ。
私が彼らの変化をすんなり受け入れられなかった原因はまさにこれだ。
周囲を驚かせないように、月の満ち欠けのように緩やかに変化していこう。彼らはそう言っていた。言っていたはずなのに……。
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『紅月』はこれまでずっと蓮巳くん、鬼龍くん、颯馬くんの3人で活動してきた。始まりこそ歪だったが、"血よりも濃い絆"で結ばれた彼らは、家族同然のように苦楽を共にしてきた。
この3人だから『紅月』なんだ
『紅月』はこの3人でなくちゃ駄目なんだーー
彼らの強固な信頼関係を見てきたファンとしての私は、無意識のうちにこう信じて疑っていなかった。
そんなファン心理に反して、激流のような変化の波が押し寄せた。
正直なところ、うまく乗りこなせと言う方が無理な話だと思った。
ESの新人、滝維吹くんをゲストに迎えてライブを行うーー
昨年の4月にニューフェイス5人のお披露目がなされ、それぞれのプロフィールと簡単なアイドルストーリーが公開された。
滝くんは沖縄生まれのアメリカ育ちで、同期の中では期待の新人と目されている男の子。
だがそれ以外の情報がなかった。
つまり私は滝くんの人となりをよく知ることができなかった。だから彼の存在に不安と恐怖を感じてしまっていた。
そしてあろうことか、彼の存在を無かったことにしようとしていた。
未知なるものに警戒心や不安を覚え、それを排除しようとする。そうして過去を美化して、頑なに現状を維持しようとする。
私はかつて似たような経験をしたことがある。
私は大学生の時、吉野裕行さんの追っかけをしていた。そして彼が所属する声優アーティストレーベル『Kiramune』の会員となり、横浜アリーナへライブ観戦に行くほど熱を入れて応援していた時期がある。
そんな『Kiramune』に新たに5人の声優さんが加入し、SparQlew(スパークル)というユニットが結成された。
しかし、私は彼らのことを受け入れることができなかった。なぜなら5人ともあまり存じ上げていない方たちだったからだ(決して彼らが無名だったわけではない)。
新ユニットの登場により、私の声優レーベルに対する熱は静かに冷めていった。そして「CONNECTが活動再開してくれればなぁ」などと妄言を吐いていた。
今思えば、大変失礼な感情だった。
しかし、当時の私は怖かったのだ。
表現を選ばずにいえば、どこの馬の骨かもわからぬ奴に、私の"最高の瞬間"に土足で踏み込まれることで、それが歪んでしまうかもしれないとする恐怖や不安に苛まれていた。
今回、イベントが始まる前に抱いていた感情はまさしくこれだった。
変化への挑戦︰プロデューサー心理
しかし、私は『紅月』のファンであると同時にプロデューサーでもある。
彼らの楽曲や人となりの魅力を、まだ知らない人たちに伝えたい。そして私と一緒に「良い」と感じてほしい。
向こうの世界でもこちらの世界でも、万人に愛されるアイドルになってほしいし、そのためにプロデューサーとして尽力したい。
そしてこれは特大なエゴだが、私は自分のことをそれができるプロデューサーだと思っている。
”ファンである私”と”プロデューサーである私”を天秤にかけた時、”プロデューサーである私”のお皿が傾いた。人数が増えることよりも、そんな変化を恐れない彼らがプロデューサーとして誇らしかった。彼らの夢の先を一緒に見たいし叶えてやりたいとも思った。
だから、私はあまり深い悲しみに囚われることなく前を向くことができた。そしてそんな彼らの姿を見て嬉しいという感情が湧いたのだ。
“異分子”を取り込むことで蓮巳敬人が求めた“化学変化”
今回【華月伝】のイベントストーリーを読んで、【天地鳴動R】後、蓮巳くんは変化を形にするために我々の知らないところでひとり奔走していたことが分かった(一人で抱えず、仲間に報連相をするべきなのは蓮巳くんなのではとも思ったが……)。
だが、突き抜けた成果は出せなかったようだ。
敬人:俺は事務所の意向に真っ向から対立することなく、『紅月』を望み通り操ることはさせないと拒絶の意思をはっきりと示したかったんだ
やれる範囲のことはいろいろ試した。『紅月』の新曲に流行りのアレンジを取り入れてもらったりな
だが、周りの反応は対して変わらなかった。どの曲も〝『紅月』らしい〟のだそうだ
そもそも、"和を基調としたユニット"というコンセプトは事務所が提示してきたものではない。学生アイドルだった『紅月』が、自分たちの個性を十分に発揮できる土俵だとして自ら選んだ道である。
「自分たちの」と書いたが、実際には、蓮巳くんと鬼龍くんが颯馬くんのために打ち出したコンセプトだった。
紅郎:俺らは勝手にてめぇの気持ちをわかっているつもりになって、てめぇが修めた伝統芸能や和風の音楽を中心にして
それを個性にして『紅月』を形作った
てめぇが、俺たちにとって最大の武器だったからだよ
その上で今の事務所に所属しているわけだが、だからといって事務所にも過去にも囚われるつもりは毛頭ない様子だった。
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そんな蓮巳くんに転機が訪れる。それがオーディション番組【4piece】でタッグを組んだ滝維吹という少年との出会いだった。
オーディション初日、滝くんとペアを組むことになった蓮巳くん。序盤から自由な滝くんに振り回されながらも、彼はこう考えていた。
敬人:柔よく剛を制すだ。貴様とペアを組むことで、何か得られるものがあるかもしれない
迎えたオーディション2日目。"百人の音楽好きを満足させろ"というお題に対し、蓮巳くんは滝くんがギターで奏でる『紅月』の楽曲に三味線で応酬した。即興セッションの末、彼は今後の『紅月』がさらに輝くための光明を見つけたようだった。
敬人:(……ふん。滝の独断専行には困ったものだ
(中略)だが、こんな『百花繚乱、紅月夜』は初めてだ
『紅月』の曲が滝の風を受けて天高く翔ぶ……何だこれは……
(中略)俺たちの周りに光が見えるーー楽しい)
滝維吹という"異端児"を取り込むことで、蓮巳くんは『紅月』に化学変化をもたらそうとした。
滝くんに限らず、この"異端児"という存在に対して、蓮巳くんは以前から好意的な印象を持っていたように私は思う。
なぜなら彼は一昨年度のニューイヤーライブでルールの隙間をついてまで貪欲に勝利を狙ってきた『Trickstar』を見て、「こういう連中を待っていた!」と舞台袖で嬉しさを滲ませていたからだ。
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敬人:(だがしかし、貴様らはルールの抜け道を見いだした。
いつもそうだったな。その発想は自由で、奇抜で、恐ろしいぐらいだ
こんな連中が出てくることを、俺たちはずっと願っていた!
すべてが手のひらの上なんてつまらない、新風を吹かせてくれ!
時代を前へ前へと進めてくれ!)
型に嵌まらず、大胆な発想で常識を突破していく。
そういう存在を誰よりも渇望し、凝り固まった慣習が崩れていく様子を痛快に感じていたのは、他でもない蓮巳くんだったのではないだろうか。
なぜなら、彼もまた自分が理想とするアイドルとなるべく夢ノ先学院に一石を投じた革命児だったのだから。
ゆえに、蓮巳くんは【4piece】での滝くんとの出会いを、またとない好機だと捉えていたようだった。
滝維吹という"異分子"を取り込むことで、事務所や世間が抱く自分たちへのパブリックイメージを変えられる。俺の、俺たちの『紅月』はさらに天高く舞えるーー彼はそう直感した。
では、そうまでして蓮巳くんが『紅月』にもたらしたかった化学変化とは何だったのだろう?
それは『紅月』らしさを残した全く新しい『紅月』になることだったのではないかと私は思う。
『紅月』"らしさ"とは一体なんだろう?
ストーリーの内容とこちらのファンが抱いている印象から察するに、世間一般の『紅月』"らしさ"とは、着物を身につけ扇子や番傘を巧みに扱いながら、和楽器が奏でる音色に合わせて優雅に舞うスタイルを指すように思われる。
しかし、本人たちが考える『紅月』"らしさ"は少し異なる。
和風で伝統を重んじるユニットであることに違いはないが、それに固執することなく時代に即したものに昇華させていく。
それが彼らが大切にしている『紅月』“らしさ”だ。
そんなアイデンティティを曲げずに新しい『紅月』になるとはどういうことか?
滝くんと即興セッションをしたときに蓮巳くんが感じた「楽しい」という感覚。
時代や事務所に束縛されずに、自分たちがやりたいことを存分にやる。存分にやった結果、それが「楽しい」と思えたならそれに勝るほど尊いものはないだろう。
そしてその楽しさが形として現れたのなら、『紅月』の新しい可能性を見出せるはずだ。
蓮巳くんは【4piece】を通してこのような感情を抱いたのではないか。私はそう解釈したのだ。
かといって、自分たちが"やりたいこと"が必ずしも"できること"とは限らない。これについては以前、鬼龍くんが颯馬くんに話していたことがある。
紅郎:(前略)だがよ。『できる』ってことが、『やりたい』ってことと一致しているかはわかんねぇよな
(中略)俺たち全員が、ひとりひとりが命懸けで追い求めてぇって思えるような何かを、見出さなきゃいけねぇんだよ
(中略)その『何か』が、『和風』や『伝統』とまったく関係ねぇものだったとしてもいい
そういう文言を看板に掲げなくなったとしても、『紅月』として続けてきた活動は無駄にはならねぇしな
自分たちはどんなアイドルになって、どんなことをやりたいのかーー
昨年度、彼らがそれを掴んでホンモノになろうと模索し続けたテーマだ。
この壮大な問いに対し、『紅月』は【天地鳴動R】を通じて、答えを出すには"変化"が必要だと知った。
そして今回、【華月伝】のステージを通じて、自分たちの目指す姿にもっと貪欲になっていいのだと気づいたのだ。
私はこれこそが、蓮巳くんが、『紅月』が出した"answer"なのだと思う。
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"和"とはなにも、"和風"という意味だけではないと蓮巳くんは言う。
時代や空間との調和、前からそこに存在していたかのように溶け込む曖昧さこそが"和"であり、日本文化の妙なのだそうだ。
【華月伝】ステージにて『紅月』がゲストを招いてライブをする。
そして、今まで聴いたことのないアップテンポな曲に合わせて激しいダンスを踊る。おまけにラップまで披露している……。
向こうのファンは、最初は戸惑いこそあったものの、早くも調和の兆しが見られた。しかし、こちらのファンはなかなかそうはいかないだろう。
それでも私は、彼らのこの選択が間違いだったと悔いてほしくはない。
和風というコンセプトすらも飛び出していこうとする彼らの新たな"挑戦"を、私は素直に応援したいと思っている。
新しさを纏った「紅月」に対して私が出した"answer"
見える形が変わっても、それが『月』であることに変わりはない
それは空に昇るものも彼らも同じこと
これが、『紅月』のプロデューサーとして私が出した"answer"だ。
昨年、アルバムシリーズ『TRIP』発売を記念して一本の記事を書いた。
その中で私は、『金色千夜夢舞台』のある歌詞に対する印象をこう綴っている。
君よ 満ち欠けに惑うなかれ
遥か 姿は変わらぬ月と
「天地鳴動ライブ」を通して、わたしは彼らが「月の満ち欠けのように絶えず変化する」ことを誓ってくれたと思いを寄せた。
たとえばこの先、彼らが奇を衒ったパフォーマンスを行い、わたしを、ファンを「このまま応援し続けてもいいのだろうか」と不安にさせることがあるかもしれない。
しかし、案ずることなかれ。自分たちが「紅月」であることに変わりはないのだからー
この歌詞で、彼らがそう応えてくれた気がして胸が熱くなった。彼らの進む道をこれから先もどこまでも、ともに歩ませてほしい。
月は満ち欠けを繰り返すものだが、形が変わってもそれは紛れもなく月である。
時には品行方正なお坊ちゃんではなく、悪ガキのように悪知恵を働かせてでも欲しいものを取りに行く。
そうして理想を体現し、より強い光を放つ月になるーー
鳥肌が立った。
彼らは『金色千夜夢舞台』を聴いて感じた私の思いに、【華月伝】を通じてこれでもかというくらい特上の"answer"を突きつけてくれた。
そんなの、嬉しくないわけないじゃないか……!
今回、新曲として書き下ろされた『天翔KAGETSU』にこんな一節がある。
揺るがぬ自信これまでを 誇りだと纏い
進め華月
3人で『紅月』として積み上げてきた実績は決して"無駄"にも"無かったこと"にもならない。むしろ、揺るがぬ"自信"となり、新しい未来へ突き進むための"誇り"となる。
『紅月』は常に未来を見据えて前を向いている。その覚悟がこの歌詞に込められていると私は感じた。
だったら、プロデューサーである私も前を向かなくてどうするよ。
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この世は諸行無常。こうしている間にも万物は刻一刻と変わり続けている。
時間は止まらない。そうであるならば、うだうだ過去にとどまり続けていては彼らの無限の可能性を見逃してしまう。
そんなの、すごく、すごく勿体ない……!!
以上が、私が【華月伝】のイベントストーリーを読了して今日までに湧き出た、思いの一切である。
おわりに 4人へ贈る言葉と本記事への補足
さいごに。新たな門出に立った4人へ贈るプロデューサーとしてのメッセージと、本編に入れるか迷った内容を補足として綴っておく。
まず鬼龍くん。
今回の功労者はあなただと思っています。一人思い悩む蓮巳くんを放置せずに歩み寄ってくれたこと、そして颯馬くんを蚊帳の外に置かなかったこと。あなたは決して『紅月』の"癌"などではありません。精神的にもたくましく成長してくれて本当にありがとう。
次に颯馬くん。
誰よりも『紅月』のファンである颯馬くんだからこそ、蓮巳くんが下した決断にいちばん葛藤しただろうと思います。
だけどステージ上で観客の反応に高揚している姿を見て、私は少し安心しました。
自由に何でもやりたいことができて、なりたいものになれるーー
あなたが【天下布武】ライブの時に思い出したアイドルへの憧れを、今回の件を通して再び思い出してくれていたら嬉しいです。
そして滝くん。
まず最初に、あなたの存在を見てみぬふりをしてごめんなさい。
改めて、ようこそ『紅月』へ。私からも言わせてください。
まだまだあなたについて知らないことだらけです。
だから私に教えてください。
そうやって、私にあなたのことをもっとプロデュースしたいと思わせてください。
報連相よりも、5分前行動よりも、守ってほしい大切な"約束"です。
最後に蓮巳くん。
ようやく、ようやく、自分が物語の主人公だと気がついてくれたね。私にはそれが何より嬉しかったです。
常に正道をいく人間などいません。躓いたり迷ったりして周回遅れになる。それがあなたが愛した人間という存在です。
そしてそんな人間臭い一面がある蓮巳くんだから、私はあなたが愛する『紅月』ごと応援したいと思えたのです。
これからも、自分が正道だと思った道は迷わず進んでください。
補足1 : 「あんず」というプロデューサーの存在について
欲張りな感情とは思うが、私は自分のことをファンでもありプロデューサーでもあるというスタンスでこのコンテンツを楽しんでいる。決して「あんず」という存在を否定しているわけではない。
補足2 : 鉄虎くんが『紅月』に加入できなかった件について
そもそも、滝くんと鉄虎くんとでは『紅月』に入りたいとする動機が異なっているのではないかと私は考えている。
滝くんは”本物の和風”を見つけるべく『紅月』への加入を希望していた。その背景には、彼が「沖縄生まれアメリカ育ち」という特殊な出自が関係している。
対する鉄虎くんは、鬼龍くんのような"でっかい男になりたい"という理由で『紅月』への加入を希望していた。
しかし鬼龍くん自身が「自分は他人に憧れを抱かれるような男ではない」と思っていた。そして彼が目指すべき"でっかい男"は守沢くんであると、全幅の信頼を寄せて『流星隊』に託した。
これが両者の大きな違いだと私は捉えている。
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