鬼龍紅郎は乗り物酔いを克服できる
「弁慶の泣きどころ」ということわざがある。
源義経の忠臣であった武蔵坊弁慶は、大きな体で刀を振り回す屈強な兵であった。しかし唯一の急所が向う脛だったそう。
そこから派生し、「強者の最も弱いところ」という意味で用いられる。
学院最強と言われた屈強な男にも弱点はある。
鬼龍くんにとって弁慶の泣きどころは「乗り物」だ。苦手ではなく"嫌い"という表現に、相当な嫌悪感が滲んでいるのが伝わってくる。
なぜ彼は乗り物が嫌いなのか?それは重度の乗り物酔いを発症してしまうからである。
鬼龍くんが乗り物を拒む描写や、乗らざるを得ない状況に陥って散々な目に遭う描写はこれまで幾度か描かれている。
今まで私はこの「乗り物酔い」という弱点について、単にキャラクターを肉付けする要素(ギャップ)としか考えてこなかった。
しかしストーリーが追加されるにつれて、鬼龍くん自身が乗り物酔いとの向き合い方を模索していることに気づいた。
これは面白いぞ!と思い、記事を書いた次第である。いっちょやるか♪
鬼龍くんと乗り物
鬼龍くんは、とにかく乗り物との相性が悪い。その事例を挙げていく。
車
乗り物酔いと聞くとまず、車が思い浮かぶ。
アイドル、ひいては芸能人にとってスタジオやロケ先への移動などで車(バス)は主要な交通手段であり、避けては通れないだろう。
案の定、鬼龍くんは車移動に難儀していた。
…むしろまっすぐ綺麗に舗装された道の方が少ないのではないだろうか。
船
不規則な波に逆らわない船の揺れは、自身の体幹だけではとうてい制御不能だ。
それはボートであってもクルーズ船であっても船は船。揺れるものは揺れる。
自身が所属する事務所と他事務所との不仲説を解消するために企画されたドラゴンボート対決。鬼龍くんはアドレナリンで自分の身体を騙していたが、次第に気分を悪くしていた。
また、【SS】予選会に参加するべく沖縄に向かう道中、鬼龍くんは船上で死人のような顔をしていたそう。
「船酔いごときに負けるな」と仲間に体を揺さぶられるその心中を思うと、なんだかこちらまで気分が悪くなってくる。
ふと、東京から沖縄まで船だと何日かかるのか気になって調べてみた。
旅行総合研究所タビリスによると、東京から沖縄までの航路は2014年に廃止されており、現在運航しているのは鹿児島発着船のみという。
また、東京からの長距離フェリーは1航路しかない。東京から徳島を経由して福岡に向かうというものである。
つまり東京から沖縄まで船で行くとなると、まず東京から福岡に向かい、そこから鹿児島まで移動した後、別の船に乗り換える必要がある。
長距離フェリーの運航スケジュールを見るに、単純計算で東京から福岡(新門司港)までおよそ32時間かかる。
さらに、鹿児島から沖縄本島までは別のフェリーでおよそ1日かかるらしい。ということは、合計3泊4日ものあいだ船上で過ごさなければならないのか…め、めまいがしてきた…
「紅月」の3人が乗った船がどのようなルートで沖縄まで向かったか、その仔細は描かれていない。しかし、蓮巳くんと颯馬くんは船上で時間を持て余している様子だったのでかなりの長旅だったことは想像がつく。
…やはり飛行機で行くべきだったのでは?
飛行機
沖縄までの移動を蓮巳くんに縋ってまで海路で希望したくらいだ。恐らく、鬼龍くんは飛行機がいちばん嫌いなのだろう。
以前鬼龍くんは、旅番組の企画でパリを訪れる羽目になったことがある。
日本からパリまで空の旅。
こちらもAirfranceの公式サイトを確認すると、直行便だと平均13時間半、乗り継ぎ便であればおよそ20時間ものフライトになるという。
新人アイドルゆえ仕事を選べない立場であるとはいえ、酷だなぁ。
遊園地のアトラクション
広義的な乗り物という意味でいえば、遊園地のアトラクションもそれに当てはまると思う。
仕事で3Dライドの試乗に訪れた際、緩急をつけながら左右に揺れるマシンと臨場感あふれる3D映像に、鬼龍くんは耐えきれずに画面酔いしていた。
自転車
自走する乗り物でも鬼龍くんは酔ってしまうらしい。もう重症である。
幼い頃に練習したが、今でも結局乗れずじまいなのだそう。
乗り物酔いのメカニズム
そもそも、なぜ、乗り物酔いが起きるのだろうか?
現代医学では解明されているのだろうか?
かくいう私も乗り物には弱い方だ。何か突破口がないか探るべく、乗り物酔いの研究に関する論文をいくつか読んでみた。
しかし残念なことに、医学や心理学など今日まで様々な側面から研究がなされてきたが、乗り物酔いが起こるメカニズムは解明されていないと分かった。
では鬼龍くんはどうだろうか。
彼は自身が乗り物酔いしてしまう要因について、こう分析している。
これまでの経験から、「乗り物に乗ると絶対に酔う」と鬼龍くんは無意識のうちに暗示をかけていた。
この、思い込みによって乗り物酔いが引き起こされるという因果関係はあながち間違っていないようだ。
関西造船協会の創立75周年を契機に、1988年9月から2005年1月まで創刊された「纜(らん)」という会報誌がある。
1993年7月に刊行された第20号によれば、乗り物酔いの発症には心理的要因も大きく関与しており、船に酔うのではないかという悪いイメージを膨らませることで酔いを誘発することがあるという(東,1993)。
くわえて、同誌によると心身の健康状態も乗り物酔いに影響するという。
東(1993)は、疲労や睡眠不足は乗り物酔いの重要な誘発因子であるため、体調を万全に整えておくことが大事だと述べている。
先述した船での移動後、なんとか沖縄に辿りつけたものの、鬼龍くんは10日間も体調不良で床に臥せっていた。
この時鬼龍くんは自分が気づかぬうちに封じ込めていた疲労が、乗り物酔いを深刻化させたと考えていた。これも的を得た自己分析だと思う。
「何とかなるだろ」から「何とかしていこう」へ
これまで、鬼龍くんは自身の弱点に真剣に向き合って来ようとしなかった。
なぜなら、「何とかなる」と思っていたからだ。
確かに、終わってみればそうだったかもしれない。
乗り物酔いは結果的に「何とかなった」と思えるような、時間が解決してくれる症状だと思う。とはいえ、快復するまで周りに心配をかけてきたことは否めない。
さらに、鬼龍くんは自身が乗り物に弱いことは(近しい人たちには伝えていたと思うが)公にしてこなかったと思う。
なぜなら、周囲に情けない姿を晒してがっかりさせたくなかったからだ。不良とは、格好つけたがりの生き物である。
しかし、人間の帰巣本能を試すバラエティ番組に出演した際、乗り物に弱いことだけでなく、自転車に乗れないことも共演者にバレてしまった。
もしこの場面がオンエアされたとなれば、世間的にも認知されることだろう。
思わぬかたちでバレてしまったが、自転車に乗れない鬼龍くんを馬鹿にする者はいなかった。
むしろ、乗れるように練習に付き添ってくれるとまで言ってくれた。
舐められることを誰よりも嫌う不良上がりの鬼龍くんだから、プライドが邪魔をして練習することも避けていたと思う。どのみち、練習しようとしても酔ってしまうので八方塞がりだったに違いない。
乗り物酔いが仕事に支障をきたすーそんなことは分かっているのに。
しかし、バラエティ番組の出演を機に、苦手に真剣に向き合う覚悟が固まったように思えた。それは仲間たちの応援や、幼馴染の成長に後押しされて自分だけがいつまでも立ち止まっていられないと奮起したからだ。
「纜(らん)」第60号に掲載されている『乗り物酔い』という論文には、乗り物にのる前日から体調管理に努めることはもちろんのこと、何より乗り物酔いをしないという自信を持つことが大切だと述べられている(細田・有馬,2003)。
乗り物酔いは頑張ってどうにかなるものではないと思っていたが、案外そうでもないのかもしれない。
思い込みで乗り物酔いが引き起こされているのであれば、そう思わなければいい。気の持ちようで簡単に克服できるのではと希望すら湧いている。
自転車に乗れないなら、乗れるまで練習すればいい。
乗り物酔いが障壁になっているのであれば、「乗り物には酔わない」と自分に暗示をかければいい。
鬼龍くんは簡単に乗り物酔いを克服できると思う。
なぜなら、気持ちが前向きになったのだから。