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物語は終わらない これまでとこれからを紡ぐ「紅月」の旅路
最後にアルバムを買ったのはいつだろうか。おそらくV6の『The ONES』と思う。7年前という事実に驚きを隠せない。
2024年2月7日。「紅月」のニューアルバム『TRIP』が発売された。めでたい!
今やストリーミング配信やサブスクが主流となっている時代に、形として残るようアルバムを買った。
それは「良いと思ったものには惜しみなく対価を払わせてくれ」とする気持ちもあるが、「彼らの生き様を形として残しておきたい」とするオタク心の表れでもある。
日夜ダイジェスト動画を拝聴し、来る発売日を首を長くして待っていた。
新譜2曲については、ありがたいことに公式生放送にてフルサイズを先行公開していただいた。それゆえ、ある程度曲の雰囲気を感じ取ることができていた。
なので、本記事は新曲6曲(ボーナストラック+3人のソロ曲を含む)の歌詞に焦点をあてた感想戦とさせていただく。よろしくお願い申す。
親の声より聴いたダイジェスト動画↓
♩絲
『絲』を拝聴して感じたこと、それはこの曲も『金色千夜夢舞台』と同様に「これまでとこれからの紅月に思いを馳せる歌」だということである。
より噛み砕いていうならば、『金色千夜夢舞台』では「演出」であったのに対し、『絲』は「歌詞」でそれを感じ取ることができる。
まずは出だし。
段々誰かを想う気持ちも 振り返る過去も
少しずつ増えてきたと思うから
「過去を振り返る」というフレーズに、私は自然と『紅月いろは唄』の2番の歌詞を重ねていた。
振り返る頂の低きこと ここが真の大動乱
『紅月いろは唄』で彼らが振り返った「頂」とは、「夢ノ先学院での実績」と思う。
学院No.2の実力を誇るユニットして築いたその栄華は、学院という枠組みを外れた芸能界ではほんのちっぽけな輝きに過ぎない。
自分たちが踏破した山の、振り向けばなんと低きことか。
「天下布武」ライブを通して、「一から基礎を積み直し、そのうえで自分たちらしさを前面に出していこう。俺たちの真価はここからだ」と決意を固めてくれた鬼龍くん。そこで披露してくれた『紅月いろは唄』にはそんな彼の、「紅月」の反骨心が表れている。
対して、『絲』にて彼らが振り返る「過去」とは、夢ノ先学院での実績はもちろん、先ほどの「天下布武」ライブをはじめとする、リズリン所属後に彼らが経験した苦難や葛藤。それらをひっくるめた「過去」だと感じる。
成功も失敗も屈辱もー 3人で培い積み重ねてきたそれらを、ふとした時に振り返り、これまで自分たちが確かに歩んだ道のりに思いを馳せる。
「あの時はああだったこうだった」と、いつかお酒を酌み交わしながら語らえる日が来るのかもしれないと思うと、本当に尊い「過去」を紡いでいるね。
続いてこちら。
織りなす色とて様々に 全て受け入れて進もう
蓮巳くんのパートということも相まって、このフレーズを聞いた途端、昨年の「天地鳴動」ライブが思い起こされた。
「織りなす様々な色」という言葉を、私は「人」に対する比喩表現だと解釈する。
それは、公式から出されたイベントストーリーの解説文にこう記されていたからである。
革新派、保守派、奇想派、不良に優等生….一方通行にも見えるレッテルを貼られたものでも、そこに眠っている可能性を発見し、新たな道を示し、良いところを花咲かせていく。
人間はいろんな奴がいるから面白い。
自分とは反りが合わない、世間から少し浮いた者たちを「変わり者」と一緒くたに爪弾きにせず受け入れる。
そうすることで彼らの、ひいては自分の可能性も広がっていく。
誰しもが物語の主人公となれるー
「天地鳴動」の番組制作を通して、自分が愛する「人」の魅力と可能性に気づくことができた蓮巳くん。そんな彼がこのフレーズを歌うことにとても大きな意義を感じずにはいられない。
時系列から察するに、本アルバムは「天地鳴動」ライブを経て作成されたものであろう。
そして『絲』は、このアルバムの為に書き起こされた楽曲である。
そうであるならば、3人は「天地鳴動」ライブでの経験もすでに「価値ある過去」として自分たちの糧にして『絲』を歌い上げたということになる。
彼らの目覚ましい成長速度に身震いするとともに、私も負けていられないと背筋が伸びる思いである。
それから、こちら。
共に紡いできたその運命のその先の空へ
翼広げ羽ばたくのだろう
「翼を広げ、可能性に満ちた未来へ羽ばたいていく」
明日へ思いを馳せるその歌詞に、思わず「サマーバードじゃん…」と口から声が漏れていた。
夢に向かって己が道を突き進む、すべての学生に向けた応援歌として歌われた『夏鳥の詩ーサマーバードー』。
しかし、これから翼を広げ羽ばたいていくのは、他ならぬ「紅月」の3人である。颯馬くんを筆頭に、3人はそう高らかに歌い上げてくれた。
最後に、タイトルの「絲」についても書き記しておきたい。
「絲」には、文字通り「繊維を引き伸ばした糸」という意味合いに加え、物事を結びつける比喩表現や、琴や三味線といった弦楽器を指す言葉でもあるのだそう。
なんて「紅月」にどんぴしゃな言葉なのだ…鳥肌が止まらない…!
昨日は今日の1歩だと思えたのならば 明日へ繋いで
3人の「血よりも濃い絆」は撚り糸となり、これからも決して解けはしない。そうして紡ぐ未来は明るいものであるー
そう確信させてくれるような前向きな歌詞と、それに符合する曲題。
こんな、こんなにも彼らを体現する曲があっていいのだろうか…否、良いに決まっている。楽曲提供いただいた和楽器バンド様に最大限の感謝と敬意を。
♩金色千夜夢舞台
MVや演出に関する感想については、上記でさんざん語った通り。
改めて歌詞カードを片手に曲を拝聴すると、新たに言葉選びの妙に気付くことができた。
まず、「あいのことば」について。
印象的だったのは、やはり投げキッス。蓮巳くんらしからぬパフォーマンスに感じたが、ここはファンサービスというよりも歌詞に沿っただけなのかもしれない。百花繚乱でも音色に耳を澄ましていたので。
…満更でもない顔をしているのでただのファンサかもしれない
初めてアニメーションMVを拝聴した際、蓮巳くんが「固く契る”あいのことばに”」と歌い上げざまに投げキッスを送る姿を見て、「歌詞に沿ったパフォーマンスをしてくれたのではないか」と感想を綴った。
なぜなら、あの時わたしは「あいのことば」=「愛の言葉」だと思っていたからである。
しかし、歌詞を確認すると「あいのことば」=「合いの言葉」であった。
集いし志こそを 固く契る合いの言葉に
「紅月」の3人がそれぞれに抱く「"愛"着」こそ、彼らの志を同じくする「"合"言葉」ということなのだろう。
そうだとすると、蓮巳くんはあの時、「合い」を「愛」にかけてあのようなパフォーマンスを恥ずかしげもなくやってくれたということではないか…?蓮巳敬人、恐ろしい子…!
続いて「あいのてもとめて」。
このフレーズも、聴いた当初は「愛の手も止めて」だと思っていた。今思えば、先ほどの「愛の言葉」に引っ張られた感じだろう。
騒げ 栄華怯まぬ侠気で 合いの手求めて 嗚呼
「紅月」の3人から観客へ合いの手を求める。
彼らの楽曲にはこれまでにも「ハッ!」「セイヤッ!」と掛け声が入る曲はあったが、彼らから観客へそれを求めてはいなかった。
どちらかというと、「自分たち自身を鼓舞するための掛け声」のように感じる。
しかしつい口ずさみたく掛け声であるため、観客たちはライブ中に声を上げずにはいられない。「紅月」の楽曲における「合いの手」に対して、わたしはそんな印象を受ける。
なので、歌詞を通してここまでストレートに観客の声を求める彼らがなんだか新鮮に感じた。
それはきっと、これまでの「3人だけで抜かりない舞台を作り上げる」としていたスタンスから、「観客と一緒に舞台を作り上げる」ことを意識してくれるようになったからだと思う。
3人の心境の変化がここにも垣間見ることができてとても嬉しい。
それから、「三日天下も上等と」。
これは先ほどの「合いの手求めて」と同様に、この言葉を「紅月」が歌うことがとても新鮮に感じたため挙げさせてほしい。
騒げ 三日天下も上等と 合いの手求めて 嗚呼
常に盤石の舞台を作り上げ、長らく夢ノ先学院の覇権を握った「紅月」。
そんな彼らが「三日天下も上等だ」と力強く歌い上げる。
わたしはそこに、「一度折れてしまったとしてもまたすぐに這い上がれるぞ」とする強い「紅月」を見た。
嬉しい。名実ともに、着実に力をつける3人を感じることができて本当に嬉しい。
言葉選びの妙という点を挙げるのであれば、このフレーズは明智光秀の「三日天下」にかけているのであろう。
「天地鳴動」の番組制作にあたり、3人はそれぞれ「三賢者」と呼ばれる歴史学者たちー信長、家康、秀吉先生との交流を深めた。その点で言えばこじつけではあるが、これもイベントストーリーと史実に準えた言葉選びということになるのではないだろうか。
最後に、個人的にお気に入りの歌詞について。
月光傾(かぶ)きしたり顔で これぞ王道と喝采を!
MVや演出の端々に「これまでの紅月の軌跡」が散りばめられた『金色千夜夢舞台』。燃え散る面や杖舞に剣舞など、彼らは趣向を凝らしたパフォーマンスで魅せてくれた。
そうして「伝統芸能」を自分たちなりに解釈し、3人にしか紡ぐことができない新たな「伝統」へ昇華させていく。その覚悟を、生き様を「これぞ自分たちの誇るべき王道」と歌詞に込め、高らかに歌いきってみせた。
もう、もう、スタンディングオベーションである。
君よ 満ち欠けに惑うことなかれ
遥か 姿は変わらぬ月と
「天地鳴動ライブ」を通して、わたしは彼らが「月の満ち欠けのように絶えず変化する」ことを誓ってくれたと思いを寄せた。
たとえばこの先、彼らが奇を衒ったパフォーマンスを行い、わたしを、ファンを「このまま応援し続けてもいいのだろうか」と不安にさせることがあるかもしれない。
しかし、案ずることなかれ。自分たちが「紅月」であることに変わりはないのだからー
この歌詞で、彼らがそう応えてくれた気がして胸が熱くなった。彼らの進む道をこれから先もどこまでも、ともに歩ませてほしい。
♩ROCK ROAR(Bonus track)
何が嬉しいって、鬼龍くんがデッドマンズとして生きた証がこの曲に、確かに刻まれたことである。もうそれに尽きる。
蓮巳敬人と朔間零。凡人と天才の道が違えたあの日、地下ライブハウスにて蓮巳くん、朔間くん、晃牙くんで結成された一夜限りのユニット「デッドマンズ」。鬼龍くんは蓮巳くんから衣装制作及び、朔間くんの奇行を制圧するための助っ人要因として頭数に添えられていた。
地下ライブハウスの制圧に加担する見返りとして、素行不良をお目溢ししてもらう。お互いの利害が一致したため、鬼龍くんは蓮巳くんの申し入れを承諾した。
ライブ当日、成り行きで半ば引っ張り出される感じとなったが、鬼龍くんは確かにステージに立っていた。紛れもない、アイドルとしての初舞台を彼は「デッドマンズ」ライブで踏んだ。
主役はずっと 自分自身さ
2番のサビで、4人は吠える。自分こそ物語の主役であると。
いびつでも粗削りでも不格好でも構わない。彼らの生き様が、あの一夜に刻まれた。それは決して忘れてはならない事実である。
この曲を聴き終わったとき、猛烈に自分の体が疲弊していることに気づいた。私の魂もこの歌に魅せられ、命を燃やさんと知らず知らずのうちにすり減っていたのだろう。
♩Unpredictable Reincarnation(蓮巳敬人solo)
色即是空の世界で 結ばれた因縁で
巡り合えた感動を 輪廻にして送ろう
タイトルを直訳すると、「予測不可能な輪廻転生」。また彼の名字にもある「蓮」は、仏教思想との関係も深く、輪廻転生の祈願の象徴とされているそう。
なんてこった…こんなにも寺の息子・蓮巳敬人を体現する歌詞と曲題があるのか。初見で思わずのけぞってしまった。
人生は予測不可能だからこそ面白い。
浄土を身近に感じるような無機質な世界で出会った「アイドル」。ディスプレイに映る煌びやかなその姿は、自分のちっぽけな常識に収まっていては決して見ることのできない景色は、幼少の彼の目にはさぞ眩しく映ったことだろう。
「自分のStoryを始めよう」
これから蓮巳くんは自分が物語の主役たらしめるために筆を執ってくれる。そう感じさせるような歌詞に心が弾んだ。
♩紅返礼歌(鬼龍紅郎solo)
受け取った想いへの返礼に 何度でも歌いたい
精一杯の心意気を奮わせながら
今年の鬼龍くんの誕生日に、彼のアイドルとしての矜持について「自分を支えてくれる周囲の感謝と期待に応えるために、心に宿した誓い(拳)を天高くかざす強さを持っている」とお気持ちを寄せた。
そして彼の「強さ」とは、「自分に向けられる期待や羨望の眼差しを曇らせないように、困難に真正面から立ち向かうこと」であるとも。
これに対して、鬼龍くんは『紅返礼歌』で「これからもアイドルとして歌い続けることで周りへの感謝を伝えたい」と応えてくれた。
もう、こんなに嬉しいことはない。今日はおいしいお酒を飲もう。
大将のソロ、2曲ともタイトルに"紅"って入ってるのすごく、すごくいい
一曲目のソロ『Crimson soul』では、アイドル鬼龍「紅」郎の誓いが込められているのに対し、『紅返礼歌』では「紅」月のアイドル鬼龍「紅」郎の誓いが込められているように感じた。
「紅月」でのアイドル活動を通して、ユニットの仲間、友人、後輩、ファンと鬼龍くんが礼を返したい相手がたくさん増えた。これからも彼はその力強い歌声で恩を返していくことだろう。何度でも。何度でも。
♩誠心決風録(神崎颯馬solo)
ただ美しいと感ずる刻を 分け合える掛け替えのない出逢いを
こんなに近くで喜び合える 幸福に出会えた日々を
歌おう誠心誠意
「誠心誠意」という言葉は使い勝手が良い熟語ゆえ、使う人によってはどこか薄っぺらさを感じてしまうことがある。
しかし、誰に対しても誠実に接する颯馬くんが歌うことでとても説得力を帯びた言葉となる。
「けっぷうろく」という言葉を聞くと、やはり司馬遼太郎の小説「新選組血風録」が浮かぶ。
幕府に忠義を尽くし、命の去り際まで「武士」として戦い抜いた新選組のように。
蓮巳くんと鬼龍くんと共に、アイドルとして同じ喜びを共有できる時間の尊さを噛み締め、これからも颯馬くんは自己研鑽を怠らず邁進していくことだろう。
2人に誇れる「紅月」の懐刀になれるように。
おわりに
アルバム発売を記念して、3人はそれぞれ「これまでの舞台を思い返せるようなアルバム」「自分たちがここまで歩んでこられたのはファンのおかげ」「これからの軌跡も紅月とともに歩んでいきたい」と思いを寄せてくれた。今回のアルバムはまさに、そんな彼らの思いが存分に詰め込まれた傑作である。
アルバムシリーズ『TRIP』のコンセプトは、「ユニットの軌跡を辿る小旅行」とのこと。しかと堪能させていただき大変心が満たされている。
本アルバムで彼らの軌跡を振り返り成長を噛み締めるとともに、この先の更なる飛躍への序章に過ぎないと強く思わせてくれた。
彼らのこれからの「旅路」にも幸あらんことを。
明日から開催されるスタフォニ2nd。残念ながら現地参戦は叶いませんでしたが、配信で存分に楽しみたいと思います…!