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鬼龍紅郎とお裁縫
先日、クリエイターさんからぬいぐるみ用のお洋服(ぬい服)を購入した。
ぬいぐるみの小さい体にぴったり合うように、丹精込めて作られたちいさなちいさなお洋服。細部にまで作り手の愛情とこだわりを感じ、思わず感嘆の声が漏れた。
恥ずかしい話、私はお裁縫が苦手だ。手先が不器用なのだ。
家庭科の授業では、ミシンにしろ手縫いにしろ糸をまっすぐに縫えた試しがない。アイデアはこれでもかと浮かぶのに、哀しい哉、それを形にする技量が無い。
だから、ハンドメイドクリエイターの方々を、手先が器用でお裁縫が得意な鬼龍くんをとても尊敬している。
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2024年4月28日に「あんさんぶるスターズ!!」はめでたく9周年を迎えた。本年度からゲーム内でも新たに時が進み、それに伴い鬼龍くんのプロフィールも更新された。
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プロデューサーとしては、彼の特技が「喧嘩」から「空手」に書き換わったことが嬉しく安堵もした。体重も1kg増えて、より逞しい体つきになったことだろう。
だがそれ以上に嬉しかったことは、彼の趣味に「衣装デザイン」が追加されたことである。
確かに、これまで作中で鬼龍くんがさまざまな場面でお裁縫をしている姿は描かれてきた。
しかし、それだけでこんなにも嬉しくなるものだろうか?
鬼龍紅郎とお裁縫ー両者の関係性の「これまで」を振り返りながら、その答えを探してみようと思う。
「好き」がかたちになる楽しさ
鬼龍くんは幼少の頃よりお裁縫に触れていた。
きっかけは、彼の幼馴染が大事にしていた人形のお洋服を修繕したことだという。
紅郎:俺もガキだったからなぁ、気遣いとか出来ねぇし。あいつの大事な人形を乱暴に扱って、お洋服とか破いちゃったりしてさ
(中略)だから俺ぁ、母ちゃんに手芸を教わって人形のお洋服を縫い直してさ
(中略)斎宮のやつ、それで興味をもったのかうちの母ちゃんに弟子入りみたいなことしてさ
チクチクお裁縫ばっかりしてたよ、俺もたまに混ぜてもらってた
そして母が亡き後は、彼が母親代わりとなって妹のために身の回りの雑貨を手作りしていた。
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その手腕は家庭内にとどまらず、学院でも遺憾無く発揮された。鬼龍くんは自身のだけでなく、後輩が所属する『ユニット』衣装も手がけていたのだ。
『ユニット』の特色に合わせて動きやすさを重視したりと、機能面も考慮した衣装を作っていたそう。その出来栄えたるやプロのそれと遜色なし、後輩が自慢げに話すのも頷ける。
鉄虎:ふっふっふ♩大将の腕前はプロ並ッスよ〜、あの『紅月』の専用衣装も大将の手作りッスからね!
俺の所属する『流星隊』の衣装も、大将に仕立ててもらったんスよ〜♩
「針仕事は楽しく、趣味でやっている」と話す鬼龍くん。
しかし、衣装作りにおいて彼はさまざまなことを考慮しながらデザインを練っていた。
特に印象的なのは【七夕祭】。あらゆる事象を想定したうえで、彼は参加するアイドルたちが(もちろん自分も含めて)、加えて、彼らが纏う衣装が最高の輝きを放てるようにとアイデアを膨らませていた。
開催時期や時間帯、その日の天候、さらには「七夕らしさ」に至るまでー
明らかに趣味の域を超えている。もはや職人だ。
紅郎:(前略)派手すぎる気もするけどよ……。まぁお祭りだしな、天候によっちゃあ暗くなる
ドリフェスが開催される時間帯も、夜っぽいしな。衣装ぐらい、明るくてもいいだろ
(中略)この時期は雨になりがちだしな
濡れても大丈夫なように、いちおう防水加工もしてある
(中略)衣装が一種類じゃあ、客に『ユニット』の見分けがつかねぇしな
せっかくの七夕だしな、『彦星』『織姫』って感じの方向性で作るか。
夢ノ先学院時代を振り返ると、鬼龍くんは『紅月』としてのアイドル活動よりも武道場で黙々と針仕事をしていた印象が強い。
なんなら武道場も部活動(空手)の描写よりも、彼がそこでお裁縫をしていた描写の方が多い。
決して鬼龍くんがアイドル活動や部活動を疎かにしていたわけではないのだが、その時間もお裁縫に費やすほど、衣装制作に関して彼は引く手あまただった。
自身の仕事での繋がりで外部から衣装制作を依頼されたり、学院の改革がなされ生徒みんなが前向きにアイドル活動に励むようになったことで、鬼龍くんは次第に、衣装づくりに忙殺されるようになる。
明らかにやつれていく鬼龍くんを見て、蓮巳くんと颯馬くんは彼の身を案じながらも叱責したことがあった。
「業者に外注する手もある。衣装づくりはあくまで趣味のはずなのに、なぜ、そこまでするのか」と。
心配する二人に、鬼龍くんはこう返した。世話焼きな、なんとも彼らしい答えだと思った。
紅郎:ほら、衣装ってのはわりと値が張るだろ?俺のところに来るやつは、そこまで裕福な『ユニット』じゃないやつらもけっこうおおくてよ
俺だったら昔の衣装をリメイクして費用を抑えたりして融通を利かせることもできるし
俺が断っちまったらそういうやつらが困ることになるんだよ
社会人になってからもそうだが、とりわけ学生時代に付きまとう問題は「お金」だ。
稼ぐ術が限られている(あるいは無い)学生時代には、学校行事であれ余暇であれ「いかに余計な出費を抑えるか」を考えて予算やお小遣いをやり繰りしなければならない。
夢ノ先学院の生徒たちは生徒会から活動資金が支給されているとはいえ、それを増やすか減らすかは自分たちのアイドルとしての技量がものを言う。
学校という枠組みとは言え、そこは芸能界。厳しい世界にほかならない。
まして大半は一般家庭出身の生徒たちである。親やコネに縋れるような者たちなどほんの一握りだろう。
鬼龍くん自身も決して裕福な家庭環境で育ったわけではない。ゆえにお金のやり繰りに苦戦する等身大の生徒の気持ちに共感し、彼らに手を差し伸べることができたのだと思う。
もしかしたら彼が衣装制作を引き受けた背景には、「困っている奴らを放っておけない」という殊勝な思いだけではなく、いろんな衣装を作りたいという意図もあったのかもしれない。
いちから衣装を手作りしたり、元ある衣装をリメイクしたりーそうして内から湧き出るアイデアを形にすることは彼にとってたまらなく楽しく快感だったのだろう。
その飽くなきクリエイティブ精神は、私も常々見習いたい。
「好き」が受け入れられる喜び
夢ノ先学院を卒業し、より一層アイドル活動に励むべく芸能事務所に籍を置いた鬼龍くん。
「学生」という肩書が取れたこともあり、彼は「アイドル(仕事)」と「お裁縫(趣味)」をはっきりと線引きしている様子だった。
紅郎:仕事で着る衣装は専門家に任せるのがいいだろ
もともと、趣味を仕事にできるやつなんてひと握りだしな
俺はアイドルとして、芸能の世界で食えてるだけで幸せもんだよ♩
学生時代ほどお裁縫に注力できる時間は減ってしまったが、彼の創作意欲が削がれたわけではない。むしろ、手ずから仕立てた衣装を同業者から「手前味噌」だと揶揄され、膨れ上がっていた。
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紅郎:専用衣装以外はプロに任せたほうがいいかって一歩引いてたけどよ、やっぱり自分でも誰にも文句を言わせねぇぐらいの傑作をつくりたくなった
だからまぁ、毎日こうしてチクチクしてやってんだよ。怒りで顔を真っ赤にしてさ……
芸能事務所に所属後も、鬼龍くんは何度か、自身が考えた衣装デザインが形になる経験をしている。
その中でも特に彼の中で転機になったのは、「天下布武」ライブとテーマパークのアトラクション「3Dライド」とのコラボではないだろうか。
「天下布武」ライブでは、自身が提案したデザインを事務所に真っ向からボツにされたことで、鬼龍くんはこれまでのスタンスである「伝統に固執しない、自分にしか作れない衣装づくり」を思い出した。
そうして仕立て上げられた衣装は、誰かの模倣品ではない、まぎれもない「鬼龍紅郎ブランド」の逸品となった。
「3Dライド」(以下:ブレリボ)では予算と納期の関係で実際の衣装にこそならなかったものの、コラボアトラクションのキャラクター衣装として採用された。
級友たちが、「デザインを書き留めておくだけで、日の目を見ないのはもったいない」と粋な計らいをしてくれたのである。
「学生」でなくなることは、社会人として「プロ」も「アマチュア」も関係なく同じ土俵で対等に評価されることだと思う。
そして、そこで大きく評価されることは、「出来栄えの良さ」よりも「オリジナリティ」であろう。
鬼龍くんの衣装が学院内で高い評価を得ていたのは、それが彼にしか作れない代物だったからだ。加えて、着る側のことを思って作られた衣装だからだ。
レオ:クロの裁縫は丁寧だし、おれも着てて心地よかった!
貸し衣装とかだとチクチクするところもあるけど、そういうのを全然感じないしな~?
趣味として「好き」で嗜んできた衣装づくりが周囲に受け入れられ、今日まで愛されてきた。作り手としてこの上ない喜びだっただろう。
「鬼龍くんの縫製は世界一」。それは決して過大評価ではないはずだ。
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衣装デザインはあくまで自己満足だとして、大っぴらに見せびらかすことなどしてこなかった鬼龍くん。
しかし、「天下布武」ライブや「ブレリボ」コラボを通して、学生時代に眠っていた「周囲に好きが認められる喜び」をふたたび感じることができた。
ゆえに、自分の「好き」を堂々と公言してもいい、もっと突き詰めてもいいと思えるようになった。
この心情の変化によって、趣味の項に「衣装デザイン」が追記された。
これが、私が出した「答え」である。
事務所に所属した当初はろくな仕事もなく、手持ち無沙汰になっていた時に書き溜めていた衣装デザインたち。
いつかどこかでお披露目される日が来るのかもしれないと思うと心が弾む。
後記:9周年に寄せて
「あんスタ」9周年を記念して書き下ろされた楽曲『LIMIT BREAK DREAMERS』にこんな歌詞がある。
「続いていくってどういうことだろう?」 そんな疑問も自信になって
そして、中国の思想書『揚子(ヨウシ)法言』には、前漢時代の思想家だった揚雄(ヨウユウ)が説いたこんな教えがある。
始め有るものは必ず終わり有り
物事には必ず始めと終わりがある。頭では分かっているつもりだ。
しかし、好きなコンテンツや応援しているグループの活動年数が積み重なるほど、ふとしたときに「終わり」を感じてしまい心が寂しくなる。
いつまで続いていけるんだろう?ー
そんな漠然とした疑問に対して、鬼龍くんは、『紅月』の3人は、ESのアイドルたちは「続いていくことは、自信になる」と前向きに応えてくれた。
そしてその自信や原動力は、これまでもこれからもプロデューサーが側にいてくれるから湧き上がるものだとも。
9周年のテーマは【LIMIT BREAK】。
彼らが超えんとする限界のその先を、一緒に見ようじゃないか。
前人未踏の、さらなる未来が続くように。
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