『サイコロジカル』(西尾維新)な書評。
HAKOMACHI 17/31冊目
こんばんは、せいたです。
神保町の棚貸し本屋で1ヶ月限定の棚主をやっています。
今日は言葉遊びが秀逸で、僕が出身大学にいくことを後押ししたそんな小説を紹介します。
この人みたいに、仕事をして、遊んで、暮らしたい。
大学生の時だったでしょうか。
銀座の百貨店・松屋の展示場でとある作家の展覧会に足を運びました。
その時友人と回った時の感想は、
「この人、こんな人だったの??」
元々小説を読んでいた時から、飛び抜けた才能と異常なセンスの冴え渡りを感じていたのですが、それ以上に
「こんなに自由だったの?」
「こんなに謙虚だったんだ」
と感じることの連続でした。
その小説家の、1日の生活が執筆、食事、風呂、睡眠などにわかれた円グラフで表されている、そんな一角がありました。
驚くことにその円グラフ、1種類ではなかったのです。
3種類、確か3種類ありました。
平常時と、国内旅行時と、海外旅行時です。
いや、平常時はわかりますが、それ以外が旅行ってどういうこと?
僕は一般的に、平日か休日2パターンだと思っていた生活。
彼には曜日は関係なく、日本で旅行に行っているか、海外で旅行に行っているか。なのです。そして驚くことに、旅行中でも書いている。
一般的にはお仕事をするように、文章を書いて書き終えれば、休みをとって旅行する、ではないのです。旅行をしながら取材をしながら書いている。
仕事と遊びの区別がない人だなと、とても羨ましいと思いました。
また、この展覧会に参加した人への感謝のメッセージが最後に書いてあるのだけれど、これもリポグラム(五十音)の並び替えでできている。
その上、そこに綴られる言葉は謙虚で礼儀正しい。
描かれるキャラクターの鋭さに騙されがちになりますが、
美しい心から素敵な物語は生まれる、そんなふうに感じたのを覚えています。
あなたをきっと楽しませる。あり得ない広がり。西尾維新ワールド。
圧倒的な映像化作品『物語シリーズ』
西尾維新さんのストーリーを例えるなら、テレビ内蔵型のタクシーです。
味の良い、健康食品、と表現してもいいかもしれません。
目の前の場面や会話劇、地の文ですら彩る言葉遊び。
読んでいる側から楽しめるそんな文体の魅力はライトノベルに近いものがあり、一夜で一気に読んでしまう、そんな魅力があります。
一方でそんな怒涛のストーリー展開でたどりつく先が驚くべき展開で、しっかりとした着地というのも魅力です。あれだけ技巧を凝らした文面で、しっかりと読者を意図したゴールまで導き感動させる。プロットが重厚だからこそ描き切れる世界観が厚すぎて。
また、このシリーズに関しては、ファンが多すぎてメディア化した時の再現性がすごい。
声を当てている皆様の豪華さといい、アニメーションの綺麗さといい。
僕が一番好きなのは、アニメの背景に使われている、実際の街々です。
渋谷、神田、京都、北海道。
他にも知らないけれどきっと実在するんだろうな、という雰囲気はありながらも奇抜すぎない風景。
個人的には三鷹の架線橋と竹橋にあるパレスサイドビルのエレベーターホールが映ったときに「あ!あ!」となりました。みなさんもぜひ、今度見るときは着目してみてください。
さまざまなヒロインが多い中、僕がこの作品で好きなのは貝木泥舟です。
アニメ版の声もさることながら、その天邪鬼な性格でいて、人間らしさの捨てきれないところ、いいですよね。
「俺はな、かけがえのないものが嫌いだ。『これ』がなきゃ生きていけないとか、『あれ』だけが生きる理由だとか。『それ』こそは自分の生まれてきた目的だーーとか、そういう希少価値に腹が立って仕方がない。
阿良々木に振られたから、お前に価値はなくなるのか?お前のやりたいことはそれだけだったのか?お前の人生はそれだけだったのか?」
単行本で買っていただきたい「世界シリーズ」
圧倒的に、装丁が良い本。
西尾維新さんの本を読む昔に、この本の装丁に魅せられていました。
香川の屋島を横目に琴電の中で読んだなあ。
ペトロールズのライブに向かう仙台行きのバスの中で読んだなあ。
九州を舞台にしたバトルもの「りすかシリーズ」
『ジョジョの奇妙な冒険』が好きな人はハマるはず。
過激な描写と、能力者同士がパワーインフレの末に知恵比べをする物語です。
最強の刀が振り下ろされる瞬間の記録「刀語シリーズ」
主人を選ぶ刀の話。
最初に読んでも、最後に読んでも、別の意味で同じ解釈に着地するはず。
一つの目的のために振り下ろされる刀は美しいと、そう感じます。
「りすか」シリーズのようなバトルものとしても、もどかしめのラブコメとしても楽しめます。
茨城の山奥で読んだ「伝説シリーズ」
第一話からは想像つかないほどスケールが拡大していきます。
地球を相手取った人類による四国のお話。そして世界のお話、そして宇宙のお話。
キャラクターは杵槻鋼矢が好きです。固定魔法は「自然体」。なんやそれ。
でも一番長く主人公を支えるキャラになっている。
図太さと自分で考える強さが本当に美しいです。
『サイコロジカル』西尾維新
本格ミステリとキャラの濃さを両立させた「戯言シリーズ」
そして、彼のデビュー作に連なるこのシリーズがやはり一番のおすすめです。
圧倒的に練られた世界観と単発のプロットの丁寧さが功を奏して、全ての作品が
キャラが立っている上にストーリーに厚みがある。ミステリのトリックは本格的なのに主人公たちも、疲れを見せない。
例えばですが、本作のヒロインは以前に世界的なハッカーチームのリーダーだったことがあり、自分を含めて9人の「チーム」をつくっていました。
9人ものキャラがいたら、それぞれを物語に登場させて活躍させたいと私なら思います。鬼滅の刃のように、各柱の活躍を身近でみたいと思うでしょう。
ですが、その中で、具体的に登場するのはヒロインを含め5名。
残りのメンバーについては2つ名がわかるのみで、どんな自分なのかも語られない。キャラを描く上での、選手層が厚すぎる!!
ちなみに僕が一番好きなのは、
萩原子荻と零崎軋識。
「私の前では悪魔だって全席指定、正々堂々手段を選ばず真っ向から不意討ってご覧に入れましょう」の萩原子荻。
策士、というだけでもポイントが高いのに、戦略のためなら「自分」という駒も惜しみなく使う。
作戦を全て立てた上で、ライフルを扱うその姿は痺れました。
零崎軋識は、殺し屋集団零崎一賊の中でも伝説とされた大量殺人鬼でありながら、
式岸軋騎として、前述の「チーム」でも活動しているマルチタレント。
バレないように二重で活動を行いながらも、しっかりと思い人であるリーダーにはバレているというお茶目な一面もあり、人間臭くて大好きな人物です。
なぜにサイコロジカル
では、なぜに僕がサイコロジカルを選んだかというと。
本格ミステリとキャラの豊かさを同時に味わえるのはどの作品か、と考えた結果でした。
初期の
「クビキリサイクル」
「クビシメロマンチスト」
は単体としても楽しめるくらいの重厚感があり、キャラも立っていて、ミステリとしても楽しめる作品。
「クビツリハイスクール」あたりから、キャラクター色や戦闘色が強くなり始め、
「クビ」がタイトルに登場しなくなった本作から、シリーズものとしての作品へと楽しみ方が変わっていきます。
その上で、このサイコロジカルは、ヒロインの過去に関わる元の仲間との掛け合いの中で、主人公の心がゆらゆらと揺れていくのが面白い。
異常な性格をした、ヒロインの旧友。
サイコかつロジカルな理論なのか。
サイコは割とロジカルに話すこどに話すことが多い、からなのか。
サイコロ、もしくは、サイコロジーに関してロジカルに論ずることなのか。
単純にそのまま、「心理的な」という「題名(タイトル)」なのか。
そしてこの作品には、西尾さんが神と崇める森博嗣さんへのオマージュが含まれているような気がするのです。
作品の中で描かれる白い無機質な建物、研究棟。
これは、すべてがFになるシリーズで、描かれたフィールド。名古屋大学のキャンパスをモデルにしたその舞台にそっくりなのでした。
当然のその姿は同じ国立大学である我が母校にも共通するわけで。
こんなキャンパスで、事件は起こったのか。と想像するわけです。
このキャンパスで、学ぶのも楽しそうだ。
後期試験の日、
長く続く階段を登りながら、
あるいは下りながら、
期待に胸を膨らませる僕の心には「美しく燃える森」が流れているのでした。