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バベル病棟にようこそ3日目
看護師の対応へ希望も期待もしなくなってからだいぶ楽になった。
眠たければ寝るし、動きたければ動く。
4階のケアが済んでやっとお薬を飲みにきてくださいとアナウンスが鳴ったが億劫だしやりたいこともあるので行きたい時に行く。
このルーティンにして本当に良かったと思う。
当然の成り行きかも知れないが五階に移動してから口が悪くなった。
でも普段言わないのでいざこういう不誠実かつ理不尽な対応に出会った時のためにここで退院まで声を張る練習にしようと思った。
人間、抗議しようとした時、すぐには言葉には出ない。
今回のプライバシー全破壊不法侵入カーテン開けおばあさんと部屋で鉢合わせした時も、ごめんなさいすいませんごめんなさいを連呼しながら逃げて行く相手に、わたしの伝えたい言葉の、3割も声を発することができなかった。
そしてそういう理不尽な態度を取る人は逆らえぬ人、抗議しない人をダーゲットして選んで踏みつけにしてくる。
それは断じて容認はできない。
その時ふと母の口癖を思い出した。
なめたらいかんぜよ!
かつて琉球だった沖縄で育った環境も大きい。
沖縄戦があり、日本から捨てられ、自治権も無く、歯を食いしばって命をかけて身体と声を張った故郷。
母は新聞社にライター、カメラマンとして勤めていた為、その背中を見て育ってきたわたしにも母の血が受け継がれている。受け継がれすぎていて思わず笑ってしまった。
今後また外に出て行く、働いて生きて行く為に、理不尽なことにはNOを即座に示せるように退院まで練習と思って頑張っていこうと思う。
話はそれたが先に述べたように、昨日から看護師には頼らない、出来ることは自分でやると決めたので、悪いことだが何も言わずに外に買い物に出たら何か言われるのか試してみたくなった。
この病院は入院中に外出するには医師の許可が必要であるが、1時間までなら4階に置かれている紙に出る時間と帰る時間、帰ってきた時間を書けば自由に出られる仕組みだ。
しかしわたしはもう看護師の顔は見たく無い。
というかその4階に行きたくは無い。
常にギスギスしていて、殺気立ち、揉め事を持ってくるなオーラ全開の4階詰所。
何か頼みたくて詰め所の前で立っていても軽くノックをしても中に人がいるのに大きな声で呼ばないと届かない。
それがデフォの4階に好き好んで行きたくは無い。
しかしその忙しさ故に固定された人がおらず監視もなく、元々その5階には看護師が常駐して無い為、無駄に多い巡回が終わってその後5階から何事もないように颯爽と下まで降りれば外への通用口は一瞬でスルーできるのでは?
うん。ワンチャン行けんじゃね?
で、実際バレずに買い物を済ませて何食わぬ顔で5階病棟に戻ることが出来てしまったのだ。
外に出て青い空を見ながら、一瞬うちに帰ろかなって思った。それはもう清々しいくらいのセキュリティー。
同時に、4階に手を取られてケアが無に等しい5階を1時間に1回という謎の頻度(生存確認するためだけでこちらの話は受け付けてません)の巡回が無駄であることが判明した。
もうガストのネコロボで良いです。
プライバシーも危機管理も低すぎて話にならないが、わたしが簡単に無断外出(悪いと思ってます)出来たように、これは外部からの侵入も余裕で出来てしまうというのでは無いか。
面会に来る人には面会証を首からかけないといけないが、先週来てくれたら知人は、今日は無かったからと、付けていなかったことを思い出す。
それなら面会と言えば止められないし、何より看護師の往来が少ないこの階。
ちょうどやまゆり園のルポの本を読んでいたので全くあの教訓が現場には活かされていないことに落胆、はしなかった。だってこの有様だから。
別にケアが出来ないなら出来ないで上がるまえに説明があれば、わたしは退院の時期を早めただろうし、その後こんなにも不満を露わにすることはなかっただろう。
何より階をあがることで下がるケアを説明、その合意の上で退院するか否か選択の機会を奪っている事に、病院側が気づいて欲しい否気づかないだろう。
そんなわけで無断外出してもバレないことがわかったので次の面会時に髪を切りに行く事にした。バッサリ切ってまた前に進む力にしようと思う。