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東京都村民生活〜三宅島〜(6)

天国の島その2:磯釣り①

20数年前の三宅島での村民生活、休みの日にすることのベスト3はバードウォッチング、磯釣り、ダイビングだった。
海では釣りかダイビングかの二つに分かれる。
私はその中で磯釣りにハマった!

GWが過ぎ頃の日曜日の午前中、ちょっとした残り仕事をするために1人で職員室にいた。
少しすると同僚のA先生が鼻歌混じりにニコッと笑って入室して来た。
釣りの仕掛けに使う錘(おもり)を忘れたので取りに来たと言う。

すると、彼は私に誘いの言葉をかけてきた。
今になって思うと沼の入口だった。

「今日の午後はヒマだろう⁈」
「特に予定はないが・・・」と私
「俺、〇〇の磯にいるから、よかったらおいでよ」
「あぁ、そうだね・・・」

釣りには興味はあったが、河口のハゼ釣りとか中流でのハヤなどしか釣ったことはなく、海釣りはしたことがなかった。
当然、磯釣りの道具など何も持っていない。
しかも磯釣りは事故も多いと聞いていて、一人で磯に行くこともなかった。
とは言っても日曜日にこれといってすることがない。
都道212号線はもう何度も走っていて、ドライブには新鮮味がなくなっていた。

島内にはテニスコートがあると聞いていたので、ラケットだけは持って行った。
一度テニスをやってみたが、強い西風でコートに置いたボールがラインの外に転がっていく。打ったボールは風で失速してネットを越えない。
ラケットはその一度しか握らなかった。

野鳥にも詳しくはないのでバードウオッチングを趣味とはしていなかった。

ダイビングはまだやるチャンスがなかった。

結局、休みの日はヒマなのである。

簡単な昼食を食べて、ぼぉ〜とテレビを見ていたが、特段することがない。
『そうだ、A先生は〇〇の磯で釣りをしていると言っていたなぁ。覗いてみるか』軽い気持ちで家を出る。

磯場 (民宿夕景より)

島での愛車となってる軽バンに乗って都道212号線を走る。島を一周する都道はどの磯場に行くのも便利である。
三宅島が磯釣り天国と言われるのは魚影の濃さもさることながら、一級の磯場に簡単に行けることも大きな要素である。
円形の島で都道212号線が沿岸沿いを走っているので、どの方角から風が吹いてあても風下の磯場に入ることができ、竿を出すそとが可能なのである。

午後3時頃、車を停めて、手ぶらで磯場に歩いて行く。
すぐに釣りをしている2人と1人の姿が見えた。1人で竿を出しているのが同僚のA先生だ。

彼は私の姿を確認すると、
愛嬌のある笑顔で、
「おっ!来たね〜」
「ヒマだからね。釣りのようす、ちょっと見せてよ」私

磯釣りの本命はメジナ
関西名グレである。

メジナ (市場魚貝類図鑑より)

A先生が釣っている磯場は約3mのほぼ垂直の磯の上である。足場はいいが真下の水面を見るとちょっと腰が引ける。

A先生が「せっかくだから釣ってみるか?」
私は「じゃ、ちょっとだけやらせてもらうよ」
初めて磯竿を持たせてもらう。
長さ5.4m、長い!
今まで使っていたのはハヤやハゼを釣る竿で1.8mか2.7m。
しかも安物である。
釣りでは今でも尺貫の単位がよく使われている。
1間180cmや1間半270cm。
魚は「尺(約30cm)超え」などの用語も普通に使う。
5.4mの長い磯竿を持つだけで緊張する。

言われるままに水面に仕掛けを落とす。
隣りではA先生が仕掛けの近くに何やら撒いている。
釣りの仕掛けは付け餌にオキアミで、その周りにオキアミや配合餌などを撒いて釣る『フカセ釣り』という釣法だという。
(ふ〜ん、よくわからない)

すると水面の浮きが、スーッと沈んでいった。
魚のあたりだ!
磯釣りは初めてでも魚のあたりはわかる。
A先生がすかさず「竿先をあげて!
焦らずリールを巻く!」と声がとぶ。
竿先の道糸に重さとプルプルという魚の反応を感じる。
無心でリールを巻いて魚を抜きあげた。
三宅島での初ゲット、本命メジナである。体長約20cmの小ぶりだが勢いよく跳ねる。記念すべき三宅島の一匹目である。
せっかく釣った魚だが、小ぶりなものはリリース。
大きくなれよ、と。

さらに仕掛けを水面に落としてあたりを待つ。
また浮きが沈む。
『来た、二匹目!』
今度は慌てず、リールを巻く。
すると、さっきより重たい竿先。
うんしょ、と魚を引き抜こうとするとA先生が、私を制止する。
「これは抜かないよ。丁寧にいくよ。」
タモを取り出して、伸ばした。
タモとは釣れた魚を確実に手元にに手繰り寄せる道具である。
私は今まで釣りでタモを使ったことがない。
磯釣り用のタモは何段かの振り出し仕様になっていて、後日私も磯釣りの必須アイテムになった。

磯釣り用タモ(ダイワより)


二匹目のメジナは体長25cm超!
本土なら十分の大きさだが、これもリリース。
日曜日の午後に2匹のメジナをゲット。
もう大満足である。

気がつけば、太陽は西に傾き夕闇が迫ってきていた。
A先生が「そろそろ磯上がりにしよう。」
「じゃあ、最後の一投で!」

輝いていた水面は陽の陰りとともに濃紺となり、浮きの動きもやや見えにくくなってきた。
これから帰って夕食を作って食べよう。
今日もメインメニューはウインナーとキャベツの炒め物かなぁ。

そんなことを考えていると、浮きがスッと素早く沈む。
あたりがきた!
竿先をグッと上げる・・・
と、グンっと凄く強い引きだ。

えっ、えっ、何これ!

長い磯竿が弓のようにしなり、道糸が真下に引っ張られる。
2匹目の引きとはまったく違う強烈な引き!

これって、まさか大物なの⁈

続く


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