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東京都村民生活〜三宅島〜(2)

島生活一日目

朝4時過ぎ、水平線から太陽が上がってくる。「すとれちあ丸」の丸窓からは三宅島の島影が見えてきた。午前5時、いよいよ三宅島・錆が浜港に着岸である。

ところが、ここからがかなかな時間がかかる。「すとれちあ丸」は波の洗う岸壁近くで船体を右に左にローリングしながら、前進後進をくりかえし、ゆっくりゆっくりと接岸する。
この間ちょっと気持ち悪い。
その後も帰島時はいつもちょっと気持ちが悪い。

すとれちあ丸

桟橋には教頭先生やこれから同僚となる先生方が満面の笑みで出迎えてくれた。島への着任はみんなで迎えに出るのが恒例行事である。
『ようこそ三宅島へ』というみなさんからのメッセージを受け止めながら、簡単な自己紹介。島に着いたと同時に三宅島の住人となるんだという気持ちになってきた。


管理職の先生に新たな住居となる職員住宅に送ってもらった。
鍵を渡されたて中に入る。
部屋は和室6畳がある1DK。
一人なら十分である。
朝6時、電気もガスも開通していない。電話も車もまだない。
届いていた荷物から布団を引っ張り出して仮眠。
う〜、眠い。
やっぱり初めての船では熟睡できなかった。

8時過ぎ、住宅から歩きながら初めて見る島内の様子を確かめつつ赴任校に到着。
改めて教職員の前で自己紹介し、阿古小学校の一員となった。
こうして三宅島の一日目が始まったのである。

午前中、同僚の先生が島を案内してくれた。
まずは旧阿古小学校

旧阿古小学校校舎

1983年(昭和58)の噴火で流れた溶岩に校舎が埋まってしまった旧阿古小学校。
改めて三宅島が火山島であること、自然の脅威を肌で感じた。
三宅島はおよそ20年間隔で大小の噴火を繰り返し、粘性の低い溶岩を噴出してきた。
直近の噴火で阿古小学校の校舎が溶岩に飲み込まれたのである。
現在の校舎は少し高台に場所を移し新築したものである。

阿古中学校の校舎が敷地内に隣接し、校庭とプールを中学校と共用。体育館は別々であった。
校舎はオープンスペースが広い、なかなかモダンな建物に生まれ変わった。


次は三宅島村役場へ
住民票の登録である。
窓口で手続きが終わると名刺サイズの島民証を手にした。
これを提示すると東海汽船の島嶼(とうしよ)在住者片道割引が適応され、住居の島と本土との片道料金が大幅割引になる。
これで正式に東京都の少数村民となったのである。
東京都に檜原村と島嶼にしか村はない。大島、八丈島は町なので町民。村民にはならないのである。
東京都村民は都民全体で比べると
1/1000以下の希少な存在である。

電話は前任者から権利を買い取り、プッシュ式電話機を居間に置いた。
当時、PHS携帯電話が普及し始めた頃であるが、固定電話をもっているのが普通であった。
私はPHSなんか必要ない、流行りに惑わされないぞ、と思っていた。
先取り大好きな若者が手にしているというイメージだから私には必要ないと。
しかし、その1年3ヶ月後、私はPHSを購入せざるを得なくなる。
(それはまたの機会に)

電気、ガスも業者に連絡が取れ、開通開栓してもらって生活に必要なものはとりあえず揃った!
ちなみに電気は島内の発電所のジーゼル発電機が作り出している。
火力、水力、原子力ではなく、ジーゼル発電機である。
後日、社会科見学で発電所の内部を見てみるとバスのエンジンの何倍かの大きな発電機がエンジン音を轟かせフル稼働していた。
東京湾の火力発電所に比べるとほんの豆のようなものではあるが。
それが島の生命線である。

生活していく目処が立つと腹が減ってきた。朝は船に持ち込んだパンををかじっただけだったが、お昼はどうしよう⁈
新学期が始まると給食が食べられるが・・・

すると同僚がお弁当を買いに行こうか、と声をかけてくれた。
二つ返事で彼のあとを追う。
行き先はコンビニ?お弁当屋?
どちらも島にはないはずだけど。
校門から出てほんの先に、小さなお店があった。
子どもの頃の記憶と照らし合わせると、これは「荒物屋(あらものや)さん」?
生活用品全般を扱っている、所謂何でも屋さんである。
もちろんコンビニではない。
お店の片隅に2〜3種類のお弁当がパラっと置いてある。
同僚は即座に「海苔弁当」を手にした。
私は「海苔弁、お勧めですか?」と尋ねるとニコッと指でOKマーク。
私も「お弁当ください」と300円(多分)を店主に手渡しする。
値段は手頃だが、安いわけではない。(都内の海苔弁当は200円台)
島での初めてのご飯、ちょっと期待を込めて職員室でお弁当を開けてみる。
ちぎった海苔がご飯に乗っているが、特に変わったものではない。

イメージです

箸をとってパクりと一口。
『うんっ?なんだこれは⁇
ちぎった板海苔ではない!
風味が違う、うまい・うまい‼︎』
「何ですか、この海苔?」
同僚は「うまいだろう。岩海苔だよ。店主の奥さんが磯場から採ってきたやつだよ!」
なるほど風味が格段に違うはずだ。
バラで自然乾燥させた岩海苔をご飯にのせてあったのだ。
磯の香りがダイレクトに伝わってくる。
とにかくうまい!
それからは島でのお弁当はここの海苔弁に決定❣️

そして夕食は一人暮らしでの初めての自炊。
同僚曰く、勤務時間が終わったらすぐに買い物に行けよ。6時には店が閉まるぞ。
それはヤバい、7~6だ。
(セブン~イレブンではない)
まずは食パンとお米、ウインナーとキャベツを即購入。
私の島での食生活のメインはその後もウインナーとキャベツとなるのである。

翌日の船でマイカーがやってくる。
お昼頃にはマイカーで島内ドライブ
だ〜

続く

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