東京都村民生活〜三宅島〜(5)
天国の島その1:野鳥
羽田発三宅島行きの飛行機YS11が水平飛行になったら、即コーヒーブレイク。しかしCAさんに頼んだホットコーヒーを楽しむ間もなく着陸体制へ。
機体が駐機場に停まり、ターボプロップエンジンが停止すると静寂の中に島の音が聴こえてくる。
波の音と野鳥の囀(さえずり)である。
三宅島は野鳥の天国である。
バードアイランドと言われるくらい多くの野鳥が生息している。
私は50歳過ぎまで猫や犬などは飼ったことがなかった。
子どもの頃は縁日で買ってきたヒヨコを育て、メスは卵を産むまでに大きくなった。
祖父は庭の片隅にそこそこの大きさの鳥小屋を作り、一番多い時はオス・メスの鶏、ウズラ、コジュケイ、スズメ、インコなどを飼っていた。
しかし、ある朝祖父と父が鳥小屋の前で何やら話しているので、近づいてみると鳥小屋の金網が破れ、飼っていた鳥たちの羽が散らばり、一羽もいなくなっていた。
呆然としている私に祖父が「近所の野犬にやられたな」とボソッと言った。
その言葉は今でも覚えている。
50年以上前の話だが、東京の街にはまだ身近に野犬がいたのである。
この後も飼った生き物といえばセキセイインコ🦜
時々カゴから出して、部屋の中を羽ばたかせ、手から餌も食べるようになっていた。
私に慣れたかなぁ、と思っていた時ほんの隙間から外に飛び出した。
飛んで行った方向に必死で走っていったが、寒さの中セキセイインコは手元に戻ることはなかった。
野鳥に戻っていったのだろう。
私は大の飛行機好き!
小学生の時から飛行機のプラモデルを作り、羽田空港に連れて行ってもらっては飛行機を眺めていた。
スポーツも大好きで高校で硬式野球をやったが、その限界は見えていた。大学では大好きなことをやろうと、グライダーに乗れるクラブに入った。
そんなことを顧みると私の前世は鳥だったのではないかと思うのである。
私の前世は鳥だったとしても野鳥について特に詳しいわけではない。
むしろ知識は乏しい。
強いて言うならワシやタカ、フクロウ、トンビ(トビ)などの猛禽類が好きだということだけである。
ある日、磯で釣りをしていると、裏の林でガサガサと鳥の羽音がした。振り返ると大きな猛禽類。
バードアイランドで大きな猛禽類!
興奮して思わず隣で釣りをしていた島人に尋ねた。
「あれはオオタカですか?それともワシの仲間ですか⁇」
釣り人いわく「あぁトンビだよ」
「あ、あぁ〜、そうですかぁ〜💦」
後で知ったが羽を広げるとオオタカよりトンビの方が大きいと。
アカコッコ
アカコッコは三宅島を代表する野鳥である。
国の天然記念物に指定されている。
※巻頭の写真の鳥
同僚に初めて「あれがアカコッコだよ」と教えてもらった時は感激した。
が、都道を少し離れて森に入ると結構見かけることができた。
それでもアカコッコを見た日は何かいいことがあるような気持ちになった。
三宅島自然ふれあいセンター「アカコッコ館」は野鳥観察や自然を楽しむためのビジターセンターである。
三宅島の代表的な施設にアカコッコの名前がつくくらい大切にされている野鳥なのである。
オオミズナギドリ
三宅島の沖合にお椀形をした御蔵島が見える。御蔵島はスダジイの巨木やイルカとのドルフィンスイムで有名であるが、オオミズナギドリの繁殖地で天然記念物と指定されている。
梅雨の季節の頃、御蔵島がよく見える都道の小高いところから水面を見ると小さな生き物が無数に飛んでいる。
田んぼなら赤トンボ、川面なら蚊柱のようであった。
よく見ると水鳥である。
それがオオミズナギドリだと後で知った。
その数週間後、同僚の先生が夕食を食べに来ないか、と声をかけてくれた。彼も単身赴任だが、御蔵島出身である。
「これを母親が作って送って来てくれたんだ」と2品を出してくれた。
私は何だろうと眺めていると、
「オオミズナギドリのカレーとうま煮だよ」と
私は「えっ、あの天然記念物の?
食べられるの⁇」と不安げに言うと、
彼は「島の昔からの食文化を守るこもとあり、何代も続く家だけに期日限定で数羽だけ捕獲が許されているんだ」と説明してくれた。
荒波が洗う、周囲が絶壁のお椀型の御蔵島では大昔から鳥たちは貴重なタンパク源だったそうだ。
貴重なカレーとうま煮をいただいた。(オオミズナギドリに合掌)
しっかりとした噛み具合は野生の鴨に似ているように思った。
付け加えておくが、御蔵島のオオミズナギドリは島民や保護団体によって大切に保護されている。
キジの親子
三宅島の中央には標高795m(現在755m)の雄山かそびえている。
山頂はぐるっと火口淵を歩いて回ることができた。北側にはこんもりとした白っぽいピークがあり、地面を触ると温かく、少し蒸気が出ている。
雄山にはほとんど毎日西風が吹き上がり、山頂は雲がかかりる。
そのため、気温が低く、本土の2000m級の山に見られる多種な高山植物が茂っている。
火口内はコンパクトな広さで、箱庭のように美しい。
腰まで高さのハイマツや足元には食虫植物のモウセンゴケなどが見られ、植物好きにはたまらないらしい。(植物にも詳しくない)
突然、ハイマツの中から綺麗な鳥が現れた。
キジだ!
しかも親子のキジである。
親鳥を先頭にチョコチョコとヒナが3羽、親子でピークに向かってる歩いて行く。
キジの七色に輝く羽に陽に当たると本当に綺麗である。
キジの親子たちに癒され、心和むひと時となった。
しかし、これが山頂で見た最後の光景となってしまった。
後日、嫁さんと娘がYS11で三宅島にやってきた。
コーヒーは飲まなかったらしい。
やはり時間がなかった?
揺れる機内では親子で手をつないでいたからだったそうだ。
その翌朝、嫁さんが起きてくると、「さすが朝の島内放送は鳥の囀(さえずり)を流すのねー、爽やかだわぁ」
???
私は即答した。
これは本物の鳥の囀(さえずり)だよ、と!
三宅島は野鳥の囀(さえずり)とともに朝が明けていく。
続く
※写真はアカコッコ館のパンフレットより