東京都村民生活〜三宅島〜(10)
夜の海に漂う宝石
三宅島に単身赴任して2年目のGWが終わった頃には村民生活にもしっかり慣れた。
研修期間も終了して、本土に戻る機会もなくなり、週末は趣味の磯釣りにハマっていた。
平日の夜は次の日の準備はあるものの主にテレビを見たり本を読んだりして過ごしていた。
そんな時、また悪魔の囁きが!
「イカ釣りに行かないか⁈」
悪魔の囁きはD先生。
「梅雨の頃からアカイカが浅瀬に上がってくるから、坪田港の岸壁で釣れるんだよ」と
アカイカとは正式名称ケンサキイカであるが、地方により呼び方がいろいろある。
三宅島ではアカイカというが、反対にシロイカという地域もあり、マルイカとも呼ばれている。
佐賀でブランドとなった「呼子イカ」もケンサキイカである。
イカと一言でくくってしまうが、ともかくいろいろな種類がある。
イカを開いてよく干したものをスルメというが、主にスルメイカを食材にする。
ケンサキイカをスルメに加工したものはとても美味しいので「一番スルメ」と言われるそうである。
PS:イカは頭足類というので写真
が反対なのではない
夜のイカ釣りに誘われて、断る理由がない。
本土の磯ではルアーを使ったアオリイカ釣りが流行っているが、ケンサキイカを釣るとなると船に乗らなくてはならない。
岸壁から釣ることができるのは離島の恩恵である。
ところが釣りは魚種が変わると仕掛けが全て変わる。
竿とリールはガゴ釣りで買ったものを使えるが、それ以外何もない。
どんな仕掛けかもまったくわからない。
「とりあえず、7時に坪田港の岸壁においでよ。懐中電灯だけは持ってくるんだよ」と、
D先生にそう言われて、早速帰宅準備。
A先生に誘われて初めて磯釣りをした時のことを思い出すシチュエーションである。
住宅に戻って、着替えて、竿とリールを用意して、バターをつけたパンを一口。
枕元に置いてあった懐中電灯をバッグに詰め込んだりしているともう出発時間だ。
7時ちょうどに坪田港に到着するとすでに何台もの車が岸壁のスペースに停まっている。
D先生の車を見つけ、その近くにマイカーを停車させる。
この季節は7時になっても夕焼けの明かりが残っていてD先生の顔を認識することができる。
「おぉ、来たな!」という挨拶。
これを使いな、とイカ釣りの仕掛けを渡してくれた。
私は竿を伸ばし、リールをセットして、その道糸の先に電気浮きを付け、ハリスの先には餌釣り用餌木を結び付けた。
餌木(エギ)とはイカ釣りに使う専用の仕掛けである。
その餌木に餌として冷凍のキビナゴを細い針金で巻きつけるとイカ釣りの準備完了である。
その頃になるともはや隣にいるD先生の顔がほとんどわからない。
懐中電灯の必要性を実感する夜釣りの暗さである。
D先生は電気浮きを点灯させて、真っ暗な海に向かって仕掛けを投げ入れる。
私もその様子を見て、同じように電気浮きを点灯させて仕掛けを投げ入れた。
これで一安心。
電気浮きの動きを注視して当たりをじっと待つ・・・
ここまでは薄暗い中でイカ釣りの準備をするのに手一杯だったので、
D先生の動き以外は何も目に入らなかった。
そして視線を海に向けて左右に振ってみると
赤、緑、青、黄色がかったオレンジ色などの輝きが揺れている。
一定の間隔で波に浮かぶ電気浮きである。
真っ暗な海、水平線がわずかにわかる程度の視野の中で電気浮きが輝いているのである。
まさに夜の海に漂う宝石である。
本当に美しい光景に、一瞬釣りを忘れて見とれるほどだった。
しばらく電気浮きの美しさを堪能していると、D先生が小さな声で「きたぞ!」とつぶやいた。
視線を右に移すと隣りの電気浮きが水中に消えていた。
D先生、今日の初ゲットである。
私には沈黙の時間が続いた。
海はさらに暗さを増し、水平線もわからない。
そんな時、突然電気浮きが沈んだ。
竿をゆっくり立ち上げて、丁寧にリールを巻く。
初の当たりにドキドキだが、魚の引きとは違い、重くなった仕掛けを引っ張っている感じである。
時々、少し抵抗するように引っ張られるが、難なく海中から抜き上げた。
30cmほどのアカイカである。
三宅島での初イカであったが、今夜の釣果はこの一杯だけだった。
9時に納竿して、帰宅。
ここから夕食。
当然メインはアカイカ料理。
イカの刺身とバターソテーである。
甘い‼︎
美味い‼︎
今まで食べたイカ料理で一番であることは間違いない。
そして、次の日には島の釣具屋で電気浮きと餌釣り用餌木、それに頭につけるライトを即購入。
準備は上々、次はアカイカを大量ゲットである、と目標を決定。
3日後、2度目のイカ釣り。
今回もD先生といっしょだが、もう初心者ではない。
さっさと準備をして、仕掛けを遠投する。
相変わらず海に漂う宝石は美しい!
程なくして1匹目をゲット。
しかし、期待に反してなかなか次の当たりが来ない。
すでに水平線がわからない暗闇の海になっていた。
するとゆっくり電気浮きが沈んだ。
よっしゃ〜2匹目!
丁寧にリールをまく。
海から獲物を引き抜く。
獲物のシルエットが浮かび上がる。
『あれっ?イガイカしている?
ゴジラみたいだぞ⁈』
明らかにイカのフォルムではない。ベッドライトの光がかすめる・・・赤い⁇
ライトをしっかり当てると、
その正体はイセエビだった。
「D先生、イセエビ釣っちゃた!」とちょっと興奮して言うと、
D先生は、
「下手クソだからなぁ〜」と一言。
イカがいる棚とイセエビのいる海底では深さが全然違う。
イカがいるところに仕掛けを入れられてないということである。
イセエビは三宅島の重要な産物で漁業権があるが、村民が誤って釣ったものは無罪放免だろうと・・・
(noteに書いだ時点は時効成立⁈)
その日の夕食はアカイカの刺身とバターソテー、それにイセエビのお味噌汁であった。
三宅島豪華メニューでお腹が満タンになったのは言うまでもない。
こうして三宅島の夜のはふけていくのである。
続く
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