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【映画】『ワイルド・スピード』シリーズが熱狂を生み続ける理由とは?

人気カーアクション『ワイルド・スピード』のシリーズ最新作『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』が好評公開中。シリーズ誕生から22年、本作は10作目となるが、ここまで長きにわたって観客に愛され、なおかつコンスタントに製作されてきたシリーズは珍しい。世界興収が10億ドルを突破することもしばしで、日本では1作目こそ4億円の興収にとどまったが、今や40億円前後のスーパーヒットを飛ばす人気作に成長した。“ワイスピ”が観客を熱狂させ続ける理由は、何なのか? シリーズを振り返りながら、検証してみよう。

『ワイルド・スピード』(2001年)


そもそも“ワイスピ”1作目は、どんな物語だったのか? クルマを駆使して走行中のトラックを襲撃する強盗団の正体を探るため、潜入捜査に当たった警官ブライアン(ポール・ウォーカー)はストリートカーレースのカリスマ、ドミニク(ヴィン・ディーゼル)に接近する。ドミニクの正体は強盗団のリーダーだが、仲間を大事にする懐の広い男で、ブライアンとの間にも奇妙な友情が芽生えていく。シリーズのベースとなっているのはドミニクを中心とした、そんな“ファミリー”の物語だ。

『ワイルド・スピードX2』(2003年)

しかし、そんなベースが出来上がるには少々時間がかかった。1作目のヒットを受け、すぐにでも続編を作りたかったスタジオは、2年後の2003年に第2作『ワイルド・スピードX2』を送り出す。これはブライアンを主人公にした作品で、ドミニクは登場しない。前作を上回るヒットとなったものの、評判は芳しくなく、ラジー賞では最低続編賞にノミネートされてしまった。

『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』(2006年)

続く2006年の第3作『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』はタイトルどおり、東京を舞台にした物語。主人公をショーン(ルーカス・ブラック)という高校生に変え、ラストでドミニクを登場させることにより、シリーズの接点を保った。本作は日本でこそ前作以上の興収を記録したが、本国アメリカでは前作の半分の数字しか挙げられず、“ワイスピ”はここで終わったかに思われた……。

『ワイルド・スピード MAX』(2009年)

しかし、シリーズはここから劇的に盛り返していく。4作目『ワイルド・スピードMAX』で、前作に続いて監督を務めたジャスティン・リンは1作目のスピリットを再現し、ドミニクとブライアンを再会させる。1作目の主要キャラクターであるドミニクの恋人レティ(ミシェル・ロドリゲス)や妹ミア(ジョーダナ・ブリュースター)も再登場し、ファミリーの骨格が再建された。これが可能にしたのは、主演のディーゼルが本作以降、製作を兼任しはじめたことも大きいだろう。


『ワイルド・スピード MEGA MAX』(2011年)

さらにリンは、シリーズとしての一貫性に欠けた2、3作目もキャラクターを再登場させることで緊密に結びつけてゆく。たとえば3作目に登場させたハン(サン・カン)を4作目以降、ドミニク・ファミリーの一員として固定。5作目『ワイルド・スピード MEGA MAX』では2作目に登場したローマン(タイリース・ギブソン)、テズ(クリス・“リュダクリス”・ブリッジス)らもファミリーに加わった。

『ワイルド・スピード EURO MISSION』(2013年)

6作目の『ワイルド・スピード EURO MISSION』では4作目で死んだと思われたレティを復活させ、同作の悪役を再登場させるなど、シリーズはより密に結びつきを見せていく。同時に、ドミニク・ファミリーが不可能なミッションに挑んでいくという、物語のパターンが確立していった。シリーズ再建の立役者、リン監督は、ここで一旦、降板することになる。

『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2015年)

第7作『ワイルド・スピード SKY MISSION』では、『死霊館』シリーズのジェームズ・ワン監督が、この路線を継ぐ。しかし、ここで悲劇が起きた。撮影終了間近だったブライアン役のポール・ウォーカーの、突然の事故死。この衝撃的なニュースは関係者やファンを大いに悲しませた。しかし、シリーズは止まらない。製作陣はブライアンが生き続けているという設定を選択し、同作をウォーカーに捧げた。涙なしには見られないラストとなった本作は15億ドルというシリーズ最高の世界興収を計上する。

『ワイルド・スピード ICE BREAK』(2017年)

このように“ワイスピ”はキャラクターを無駄使いせず、大切に描き続けることで、熱気を上昇させてきた。8作目の『ワイルド・スピード ICE BREAK』、9作目『ワイルド・スピード ジェットブレイク』、そして最新作『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』でも、ファミリーの絆のアツさは健在だ。

『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』(2019年)

“ワイスピ”シリーズが巨大化した背景として、見逃せないのは要所で有名俳優を参加させていること。たとえば5作目では米外交保安部のエージェント、ホブス役としてドウェイン・ジョンソンを起用。さらに7作目のヴィランであるデッカード・ショウ役には、ジェイソン・ステイサムを登板させる。ホブスもショウも以後のシリーズに顔を見せ、人気キャラクターとなるが、彼らを組ませたスピンオフ作品『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』が作られたのは、ご存知のとおり。

『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2015年)

また、7作目以降レギュラーとなった米国政府極秘機関の長ミスター・ノーバディ役にはベテラン、カート・ラッセル。さらに8作目『ワイルド・スピード ICE BREAK』では、悪役サイファーにシャーリーズ・セロン、ショウの母親マグダレーン役にヘレン・ミレンというオスカー女優を起用。彼女たちも、今やレギュラーというべき存在で、新作『~ファイヤーブースト』にも、しっかり顔を見せている。

『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』(2023年)

その『~ファイヤーブースト』には、同じくアカデミー賞アクトレス、ブリー・ラーソンが、ミスター・ノーバディの娘であるエージェント、テス役で出演。さらに、悪役を『アクアマン』で人気者となったジェイソン・モモアが務め、シリーズ史上もっともクレイジーで、頭の切れるダンテというキャラクターを怪演している。なお、シリーズ完結編となる次作で、ヴィン・ディーゼルはロバート・ダウニーJr.に出演のラヴコールを送ったことがニュースになっていたが、これが実現すればシリーズはさらに盛り上がるだろう。

『ワイルド・スピード』(2001年)

そして、やはりカーアクションについて語らないわけにはいかない。ドミニク・ファミリーのクルマ同士の連携は1作目から、すでに目を見張るものがあった。走るクルマからトラックに移動したり、クルマからクルマへ飛び移ったり、落ちかけた者をボンネットで受け止めたり。スピードという要素にアクロバティックな肉弾技が絡み合う。まさに手に汗握る見せ場だ。

『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』(2006年)

違法ストリートカーレースも1作目以来、度々挟み込まれる名物的なアクションだ。カスタムカーを駆り、NOSと呼ばれる急加速装置を駆使して繰り広げられるデッドヒートは、レースの場に集まるセクシーな美女たちのパーティのような賑わいとともにドラマを盛り上げる。日本を舞台にした3作目では、しげの秀一のコミック『頭文字D』でもおなじみのドリフト走行が大々的にフィーチャーされ、立体駐車場や峠のレース場面を彩る。

『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』(2021年)

5作目以降、カーアクションはどんどん大がかりになる。同作での巨大金庫を引きずっての市街地チェイスは、スピードのみならず重量感にあふれていた。7作目では高層ビルのフロアから別ビルへと飛び移る離れ業をやってのけるばかりか、輸送機からダイヴして、そのまま走行するという恐れ知らずのミッションも敢行。ロケットのごとく成層圏を突き抜けて、宇宙空間へ飛び立つという、9作目の奇想天外なアクションも忘れ難い。

ジョーダナ・ブリュースター

そして、“ワイスピ”が世界中で支持された最大の理由として、これが実はいちばん大事なではないか……と思うのだが、多人種の物語であることは決して見過ごせない。ヒスパニック系とアジア系のギャングの対立を背景にしていた1作目からして、そうだった。これは白人社会を、まず重視するハリウッド大作には異例。多様性という言葉はここ数年でハリウッドでも一般化してきたが、“ワイスピ”では、それ以前から実践されてきたことなのだ。

写真左/ガル・ガドット

ドミニクを演じるヴィン・ディーゼルは黒人とイタリア系白人の間に生まれている。その妹ミアを演じたジョーダナ・ブリュースターはパナマ出身。4~6作目に出演したガル・ガドットはイスラエル生まれのユダヤ人だ。3作目では北川景子ら日本の俳優も出演している。そんな出演者の出自からも明らかだが、ドミニクのファミリーには白人、黒人、ヒスパニック、アジア系など、人種が混在している。彼らが信じているのは肌の色ではなく、あくまで仲間だ。ダイバーシティの時代に応えたエンタテインメントであることこそ、“ワイスピ”が世界的な人気を博した理由ではないだろうか。

“ワイスピ”は先にも述べたとおり、『~ファイヤーブースト』を経て、2025年公開予定の次作で完結を迎える。アクション映画の型を打ち破って来た本作が、どんなフィナーレを迎えるのか? まずは『~ファイヤーブースト』を堪能して、先を占ってみてほしい。

『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』公開中
監督/ルイ・ルテリエ 脚本/ジャスティン・リン、ダン・マゾー 出演/ヴィン・ディーゼル、ミシェル・ロドリゲス、タイリース・ギブソン、クリス・“リュダクリス”・ブリッジス、ジェイソン・モモア、ナタリー・エマニュエル、ジョーダナ・ブリュースター、ジョン・シナ、ジェイソン・ステイサム、サン・カン、ヘレン・ミレン、シャーリーズ・セロン、ブリー・ラーソン 配給/東宝東和

文=相馬学  text:Manabu Souma
photo by AFLO
© Universal Studios. All Rights Reserved.



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Safari Online映画部
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