見出し画像

映画『ジョン・ウィック コンセクエンス』を10倍楽しむために、知っておきたいキアヌ・リーヴスのこと。


最新主演作にして、人気アクションシリーズ待望の第4弾『ジョン・ウィック コンセクエンス』が日本公開されたばかりのキアヌ・リーヴス。40年近いキャリアを誇り、ハリウッドの第一線に今も君臨するスター。ゴシップ誌にセレブ的に取り上げられたり、インターネットミームとして“いい人”ぶりが取りざたされたりなど、外野の声が尽きないのは人気者の宿命と言えるだろう。

とにもかくにも、キアヌは世界中で愛されている俳優であることは間違いない。そんな彼の魅力を、3回に分けて振り返る。1回目の本稿は基本事項でもある、彼の俳優としてのキャリアを改めてたどってみよう。

1964年9月2日、レバノンに生まれ、子ども時代の多くの時期をカナダで過ごしたキアヌは1984年頃から俳優業に本格的に取り組むようになり、テレビ作品や映画の端役として役を得て、『旅立ちの季節/プリンス・オブ・ペンシルバニア』(1988年)をはじめとする低予算映画で主演を務めるようになっていく。

アメリカでブレイクするきっかけとなったのは、アレックス・ウィンターとともに主演を務めた青春コメディ『ビルとテッドの大冒険』(1989年)の大ヒット。ロックスターになりたい高校生コンビが、ひょんなことからタイムマシンを手に入れて、歴史の授業の落第を回避しようとする……という、かなりナンセンスなお話。しかし、キアヌが演じたバカキャラがウケて、彼は一躍、注目の若手俳優となり、1991年に続編『ビルとテッドの地獄旅行』でも同役に挑む。2020年には実に29年ぶりのシリーズ最新作『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』も作られた。

日本でも、この映画の公開以後、人気が高まっていったが、それを押し上げたのは同作以外の作品に依るところが大きい。端役出演した『危険な関係』(1988年)や『バックマン家の人々』(1989年)、主演を務めた『ハート・ブルー』(1991年)や『マイ・プライベート・アイダホ』(1991年)などでのイケメンぶりが大きくモノを言った感。当時の映画雑誌も、今後が期待される美男スターとして推していた。

そんなキアヌを一気に世界的なスターに押し上げたのが、『スピード』(1994年)だ。ノンストップのスリルが持続するこのアクションで、爆弾テロを追跡する若きSWAT隊員を熱演。アクションで主演を務め、それを成功に導くのは俳優にとって王道の出世路線。キアヌはヒーローになりきって、見事にそれをクリア。キアヌ・リーヴスの名は映画ファンだけでなく、広く一般に浸透していった。

これを上回る成功を収めたのがサイバー世代のアクション『マトリックス』(1999年)。この世界にそっくりのバーチャルリアリティと暗黒の現実世界を股にかける本作で、キアヌはハイテクの力を借りて超絶アクションを披露。デジタルの時代のアクションヒーローへと進化していった。こちらも2003年に『マトリックス リローデッド』『マトリックス レボリューションズ』という2本の続編が作られ、2021年には第4弾『マトリックス レザレクションズ』が発表された。

ここでピークを極め、その後はヒット作に見放されていた時期もあるキアヌだが、アクションに出演すると、やはり映える。凄腕の殺し屋の復讐を体現した『ジョン・ウィック』(2014年)はソコソコのヒットにとどまったが、評判が評判を呼び、シリーズ化によって人気が沸騰。回を追うごとに右肩上がりの興行成績を収め、2023年の最新作『ジョン・ウィック コンセクエンス』はシリーズ最高の全米&世界興収をマークしている。

キャリアの分岐点となったのはアクションであるため、本稿はそれに偏ったが、言うまでもなくキアヌは他のジャンルにも意欲的に挑んでいる。次回コラムでは、それらについて触れようと思う。

最新作『ジョン・ウィック コンセクエンス』も好評のキアヌ・リーヴスの魅力に迫るコラムの第2回。前回は彼のキャリアをたどりながら、ターニングポイントとなったアクションをメインに紹介した。『スピード』や『マトリックス』『ジョン・ウィック』と、キアヌの代表作はアクションがまず挙げられる。しかし、キアヌは役者であり、演じる道を選んだ者は、つねに新たな役を求めるもの。そんな彼の主演による、隠れた名作を掘り起こしていこう。

まずはキャリア初期の名作『マイ・プライベート・アイダホ』(1991年)。後にアカデミー賞ノミネート作品『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997年)やカンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作『エレファント』(2003年)で名を上げたガス・ヴァン・サント監督と組み、故リバー・フェニックスと共演して生み出した本作は、男娼をして暮らす若者たちの日常を切り取った衝撃的だが切ない青春ドラマだ。キアヌは裕福な家を出て、ストリートで体を売る男娼を演じ、心の痛みや迷いを体現。シェイクスピア劇を下地にしたドラマではあるが、今を生きる若者の等身大の感情が投影され、見応えのあるドラマとなった。本作をキアヌのフェイバリット作品に挙げるファンは少なくない。

『マトリックス』のヒットに続いて出演したスポーツ・ドラマ『リプレイスメント』(2000年)は、プロアメフト選手のスト騒動により、急きょメンバーとしてかき集められた落ちこぼれ選手たちの奮闘を描いたもの。寄せ集めチームのリーダーとなった男を演じるキアヌは、ここ一番に弱いメンタルの克服を体現し、熱いものを確かに感じさせた。スポ根コメディの隠れた逸品だ。

『マトリックス』三部作の熱狂を経て、キアヌが次なるビッグプロジェクトとして選んだのが『コンスタンティン』(2005年)。DCコミックの原作に彼自身が熱烈に惚れ込み、映画化にこぎつけた。悪魔祓いを専門とする私立探偵が、魔界の巨大な陰謀に立ち向かっていくオカルト風ファンタジー。タバコの喫い過ぎで末期ガンに冒され、生前の悪行から地獄行きが確定している主人公の探偵を、キアヌはハードボイルド風に演じ、これまでにない枯れたキャラを表現した。ここでの彼は、ある意味、ダークヒーローだ。

ラヴストーリーも入れておきたい。『イルマーレ』(2006年)は同名韓国映画のハリウッドリメイクで、2004年の世界を生きる男性と2006年の女性の時を超えた手紙の交流を、ファンタジー風に描いている。キアヌは『スピード』以来12年ぶりにサンドラ・ブロックと再共演を果たし、息の合ったところを見せた。映像や音楽も美しく、人気スター競演を盛り立てる。

近年は脇役としても光っているキアヌだが、なかでも『ネオン・デーモン』(2016年)はインパクトが強かった。『ドライヴ』(2011年)で知られるデンマークの鬼才ニコラス・ウィンディング・レフンが手がけた本作はファッション業界の闇に飲み込まれていく新進モデルの狂気を、オカルト風に描いた問題作。キアヌはヒロインが滞在中しているモーテルの管理人という役どころだが、感じが悪く、ストーカーのようにも見える。出番はわずかで、物語を大きく動かすようなキャラではないが、ヒロインでなくても悪夢に見てしまいそうな、そんな男を怪演してみせた。

ほかにも、『ビルとテッドの大冒険』シリーズではバカキャラで大いに笑わせてくれるし、SF『地球が静止する日』(2008年)の知的な異星人役も印象深い。評価は微妙だったが、日本の時代劇の翻案『47 RONIN』(2013年)でサムライを演じたこともある。キアヌの多彩な“顔”に、ぜひふれて欲しい。

人気シリーズ最新作『ジョン・ウィック コンセクエンス』の公開により、脚光を浴びているキアヌ・リーヴス。前回までは出演作を中心にして魅力を振り返ってきたが、今回は“いい人”と評判の彼の素顔にスポットを当ててみたい。

アクション映画で抜群の身体能力を見せるキアヌだが、元々はアイスホッケーをやっていたスポーツマンで、その下地は出来ていた。ハイスクールのチームに在籍していた頃は“壁”というあだ名をつけられるほどの優れたゴールキーパーで、優秀選手として表彰されたことも。アイスホッケーを題材にした青春ドラマ『栄光のエンブレム』(1986年)に無名ながら抜擢されたのは、その素養を認められてのこと。まさに、芸は身を助ける、だ。

飾らない人柄で知られるキアヌは、フツーに地下鉄に乗って移動することもあり、乗客にキアヌであると気づかれないほど。来日時には必ずラーメンを食べに行くのは有名だが、2023年2月にお忍びで来日した際、立ち寄った銀座のラーメン屋は満席だったにもかかわらず、周囲の客は誰ひとり彼に気づかなかったという。9月には自身がベーシストを務めるバンド、ドッグスターの一員として来日を果たしたが、今回は大好きなラーメンにありつけたのだろうか?

人の良いキアヌだから、詐欺まがいの被害に遭うこともしばしばあるようで、『ザ・ウォッチャー』(2000年)への出演は、まさにそれ。プロットを気に入らなかった彼は出演を断ったが、アシスタントが勝手に彼のサインを偽造して契約書にサインした。訴訟で長い時間を無駄にするくらいなら……と、キアヌは出演渋々承諾。これらのことの経緯を1年間明かさないというスタジオとの約束を、彼はきっちり守った。

近年はインターネット上のミームとして、映画以外の場で知名度を上げているキアヌ。公演のベンチでうなだれているオフの姿を収めた画像は、あまりに有名で“サッド・キアヌ”と命名され、そのフィギュアが作られたほどだ。このようにスターの割には無防備な彼は、巷で頻繁に目撃されてはスマホで撮られているが、ほとんどが彼の“いい人”ぶりを裏付けるもの。気軽にサインや写真撮影に応じるのはもちろん、電車で席を譲る光景を撮られたことも。

そんなキアヌだから“聖人”と呼ばれるのも納得がいく。実際、彼は複数の財団を運営し、小児科病院や癌の研究などのチャリティに貢献。これはキアヌの妹が長年、白血病と闘ってきたことも関係している。妹が回復した後も癌研究のための寄付は継続して行っているとのこと。ちなみに『マトリックス』(1999年)の出演料の7割に相当する3150万ドルを癌研究のために寄付していたことが2022年になって明らかになったが、これは善行をひけらかすことを良しとしないキアヌの姿勢の表われ。まさしく聖人である。

もうひとつ、聖人的なエピソードを。『マイ・プライベート・アイダホ』(1991年)で男娼を演じたこともあり、また浮いた噂がほとんどないことから、90年代にはキアヌはゲイではないか?という疑惑が持ち上っていた。これに対して彼は否定も肯定もせず、完全にスルー。疑惑を否定することによって同性愛のイメージを悪くしたくない、というのが彼の主張だった。今でこそLGBTや多様性という言葉が当たり前のように語られているが、これは約30年前、今よりも少し世の中が窮屈だった頃の話だ。

このように、映画の中以外でもキアヌに関するエピソードは事欠かない。いずれにしても、舞台裏の素顔を知れば知るほど、彼のことが好きになるはず。今後も応援していこうじゃないか。

文=相馬学 text:Manabu Souma
Photo by AFLO

いいなと思ったら応援しよう!

Safari Online映画部
ご興味あれば、ぜひサポートのほどよろしくお願いします。今後の記事制作に役立たせていただきます。