夫観察日記(1)

台所から、お米を研ぐ音がする。

明日の朝食のために夫が準備しているのだろう。

最近はもっぱら夫が家事をしてくれている。


2週間ほど前に私の体調が悪化してから、

毎日毎日大変だろうに、嫌み一つ言わずにご飯を作ってくれている。


以前は、モヤシが何日も続いていたこともあったのに、

最近は、毎回バリエーションが違っている。


なんかよくわからない焼き魚とかが、

こんがり美味しく焼きあがってきたかと思えば、

私の好きなトマトを惜しげなく使ったサラダなど、

夫の料理の腕は、確実に上がっている。


体が弱い自分が嫌になり、申し訳なくなって、謝っても、

「今は頑張りすぎて、エネルギーが切れてるだけだよ」

と励ましてくれる。


「人を幸せにできる文が書ける人になりたい」

昨晩、突然夫がそう言い出した。


今晩もまた、「書きたいな~」というので、

「じゃあ、とにかく書いてみれば?」と私が言うと、

どうも何から書き始めたらよいか、わからない様子。


昔読んだ『冷静と情熱のあいだ』をふと思い出し、

「お互いのことをお互いが書いたら、いいんじゃない?」

そう提案したら、夫はめちゃくちゃ嬉しそうだった。

「寝る前に、毎日書けたら、いいね。」とも言ってしまった私。

夫だけの課題だったはずが、自分の課題にもなってしまう。

私には、よくあることだ。

背負わなくていいものを背負ってしまったことに気づいて、

風呂から上がったら、ついテレビ千鳥を見始めてしまった。

ようするに面倒くさくなってしまったのだ。


夫は悲しそうな声で、「ねぇ、書かないの?」

と聞いてきた。


「今は書きたい気分じゃないよ」と素っ気なく返事をしつつ、

悪いな…という気持ちはあった。


夫はそんな私をよそに、コツコツと書いていた。

しばらくしたら、

「できたよ。読んでみて。」とのこと。


開いたら、意外に面白く書かれていて、

「なかなか、やるな。」と思った。


夫は、ライターになるかもしれない。


私の夫。家事のできるライター。






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