ヒマラヤ便り49号 インド古典音楽
ナマステ~!日本のインド大使館で頂いてきたフリーペーパー「India Perspective 32巻1号」は、「インド展望」という翻訳機任せの日本語版で、随分と楽しませてもらっている。
トピックが絶品で、政治から伝統芸術、料理やお祭りなど盛りだくさん。音楽のジャンルでは、「古典的療法」と題して、シャイラヤ・カンナ氏が執筆している。翻訳機任せの添削無しの日本語が面白過ぎる。そこで改行するんかい!とか、その文章3回目!とかツッコみ入れながら楽しんでいる。
「更年期に効くロック」などと題して投稿したり、「ロックはチャクラを破壊する」と知ってはいても聞くのをやめずにいたけれど、ヒンドゥの暦を学びながら、聞いたことのある単語を調べていたら、「カルナティックってインド展望の記事にあったよな。」と思い出し、今一度読んでみたのです。
シャイラヤ様の記事の引用は締めに持って行くとして、その前に下調べをしてみました。好奇心が芋づる方式になりましたが、それでもまだ真髄には辿りつけていない。インクレディブル・インディア。
インド古典音楽 Hindustani and Carnatic music
インド古典音楽は、北インドのヒンドゥスターニと南インドのカルナティックの二つの主要な伝統があります。カルナティック音楽の重点は声楽で、ほとんどが歌うために作られています。ヒンドゥスターニは、ペルシャやイスラムの影響により独特の形式で出現しました。
古代インドにルーツがあり、ヒンドゥにおける精神性(モクシャ・解放)と娯楽(カーマ)の両方の目的で、主に芸術への敬意のために発展しました。
ヴェーダ 聖典
ヴェーダの原義は「知識」。ヴェーダは、紀元前1000年から500年にかけて編纂された文書で、ヒンドゥの聖典です。インドの聖典は、シュルティ(天啓)とスムリティ(聖伝)に分けられており、ヴェーダはシュルティに属します。古代インドのリシ(聖者)達が、神から受け取ったものです。最初は口伝のみで伝承されてきました。使用されている言語は、古代インドで使用されていたサンスクリット語とは異なる点も多く、ヴェーダ語と呼ばれます。ヴェーダ語の冒頭には定型句"Yajamahe"が置かれ、「我は崇拝す。」から始まります。
スムリティ(聖伝)は、ほかのリシ達によって作られ、ヴェーダとは区別されます。「マハーバーラタ」「ラーマーヤナ」「マヌ法典」はスムリティに属します。
ヴェーダは、マントラによって構成されるサンヒター(本集)、紀元前800年頃に成立した祭式の手順などを散文形式で記したブラーフマナ(祭儀書・梵書)、人里離れた森林で語られた秘儀を収めたアーラニヤカ(森林書)は、祭式の説明と哲学的な説明が記されています。インド哲学の源流であるウパニシャッド(奥義書)は、紀元前500年頃に成立し、一つのヴェーダに多数のウパニシャッドが含まれ、それぞれに名前がついています。
サンヒター(本集)の四つの部分は、それぞれ祭官毎に分かれています。「リグ・ヴェーダ」は、ホートリ祭官が詠唱する神々への韻文讃歌集。全10巻。「サーマ・ヴェーダ」は、インド古典音楽の源流。ウドガートリ祭官の詠歌(サーマン)集。「ヤジュル・ヴェーダ」は、神々への呼びかけであるアドヴァリュ祭官の散文祭詞(ヤジュス)集。「アタルヴァ・ヴェーダ」は、ほかの三つより成立が新しいブラフマン祭官の呪文集。4×4の16種となりますが、実際には更に多くの部分に分かれ、それぞれに名称があります。
ウパ・ヴェーダは、ヴェーダの付随的、応用的な知識をまとめたもので、アタルヴァ・ヴェーダに付随する医術集「アーユル・ヴェーダ」。サーマ・ヴェーダに付随する音楽・舞踏集「ガンダルヴァ・ヴェーダ」。ヤジュル・ヴェーダに付随する建築術「スターパティア・ヴェーダ」。弓術をまとめた「ダヌル・ヴェーダ」があります。
ヴェーダーンガは、ヴェーダの補助学でシクシャー(音声学)、カルパ(儀式)、ヴィヤーカラナ(文法)、ニルクタ(語源)、チャンダス(韻律・韻文)、ジョーティシャ(インド天文学・インド占星術)の6種です。
ガンダルヴァ・ヴェーダ 音楽理論
「サーマ・ヴェーダ」に付随する「ガンダルヴァ・ヴェーダ」では、音楽理論と形式、物理学、医学、魔法への応用を説明しています。音には2種類あり、聞こえない音は全ての顕現の原理であり、全ての存在の基礎であると言われています。オクターブに似た3つの主要なサプタクは、マンドラ(低)・マディヤ(中)・ターラ(高)で、それぞれ体の特定の部分に共鳴します。マンドラは心臓、マディヤは喉、ターラは頭に共鳴します。
ガンダルヴァは、インドラ(帝釈天)とソーマ(月神)に仕える奏楽神族の一人。神々の宮殿で音楽を奏でる責任を負っています。シャニ(土星)の妻ダミニの父もガンダルヴァです。
ラ―ガ 彩色
ラ―ガは、「彩色、色合い、染色」の意味があり、旋律の基盤のことです。ラ―ガの概念は、ヒンドゥスターニ、カルナティックの両方で共有されています。ラ―ガには、「心を彩る」能力があり、聴衆の感情に影響を与えます。ラ―ガは歴史的に、舞踏や音楽の芸術と共にヒンドゥにとって不可欠で、音楽自体が精神的な追及であり、モクシャ(解放)の手段であると信じられています。ラ―ガは自然界に存在すると信じられ、演奏者は発明するのではなく、発見するだけです。ラ―ガは、グルシシャパランパラという、何度も言いたくなる伝統を通じて、グル(教師)からシシュヤ(弟子)へ口頭と実践だけで伝えられます。
ヒンドゥ神話のラーヴァナとナラーダは熟練した音楽家であり、ビーナを持ったサラスワティは音楽の女神であり、ガンダルヴァは、音楽の達人です。ガンダルヴァは、主に喜びのための音楽に目を向けます。ガンダルヴァの演奏は自然界のラ―ガとして見出されます。
ヒンドゥスターニ(北インド)のラ―ガ方式は、人間の心と精神状態が、季節と生物学的サイクルと自然のリズムによって影響を受けると信じ、ラ―ガに特定の季節と時間帯を示唆しています。それぞれのラ―ガは、気分などの感情とも関連性を持っており、聴衆に特定の感情を呼び起こさせるための手段と考えられています。愛情、欲望、興味、喜びなどの感情を刺激し、愛、共感を呼び起こします。カルナティック(南インド)では、季節や時間にあまり重点をおきません。
仏教でのラ―ガは、性格の三つの不純物の一つとして、楽しい経験に対する「情愛、官能、欲望、欲求」を表しています。
ラ―ガを通じたインド古典音楽の役割は、審美的な沈溺と心の浄化の両方です。前者はカーマ文学で奨励され、後者はヨーガ文学に登場します。
スワラ
サンスクリットのSuvara「鳴らす」に由来し、魅力的な音という点で自分自身を彩るもの。サーマヴェーダで、文脈に応じてアクセント、トーン、音符を意味します。一般的にはトーン(音調)を意味し、詠唱、歌唱に適用されます。7つのスワラは、ヒンドゥスターニとカルナティック両方で共有されています。
各スワラは、特定の動物と鳥の鳴き声、ナヴァグラハ(9惑星)、色、チャクラに関連付けられています。
サ C 孔雀・ブダ(水星)・緑・ムーラダーラ(会陰
レ D D♭ 雄牛・マンガラ(火星)・赤・スワディシュターナ(仙骨
ガ E E♭ 山羊・スーリヤ(太陽)・金・マニプーラ(鳩尾)
マ F F♯ 鷲・チャンドラ(月)・白・アナーハタ(胸)
パ G 呼子鳥・シャニ(土星)・青または黒・ヴィシュッダ(喉
ダ A A 馬・ブリハスパティ(木星)・黄・アージュナー(眉間)
二 B B♭ 象・シュクラ(金星)・多彩色・サハスラーラ(頭頂)
ラ―ガ・ラギーニ方式
神(男性)と女神(女性)のテーマに対応する方式で、ヒマーチャルプラデシュ州などの北ヒマラヤ地域では、16世紀の音楽学者が、この方式を拡張して、六つのラ―ガそれぞれに五人のラギーニ(妻)を、その三十組の夫婦それぞれに八人のラ―ガプトラ(息子)を含め、八十四のラ―ガを作成しました。
ラガマラ
ラガマラ絵画は、ラジャスタンで生まれた「ラ―ガの花輪」となるラ―ガのバリエーションを描いた細密画です。芸術、詩、音楽の融合です。
擬人化されたラ―ガは、関連したラギニ(妻)、ラ―ガプトラ(息子)、ラ―ガプトリ(娘)、動物も描かれ、歌われる季節や時間帯も解明できます。ラガマラに存在する6つの主要ラ―ガは、インドの6季節(リトゥ)に対応しています。
主要原始6ラ―ガ
バイラフ 朝、夜明けに演奏され、コンサートの最初の曲としても演奏される。朝のラ―ガであり、厳粛な平和な雰囲気を作ります。シヴァ(バイラヴァ)の口から最初に発せられたラ―ガ。真面目さ、献身的、勇気から平和まで幅広い感情特性を可能にします。
シュリ― 日没前後に歌われる夜のラ―ガ。優雅さ、威厳に満ち、このラ―ガの教えに耳を傾けるよう聞き手を誘導します。聞き手はメッセージの真実に気づき、教えによる謙虚さと得られた知識の両方で未来に立ち向かう勇気を受け取ります。
ヒンドール ヴァサント・リトゥ(春)のラ―ガで、一日の前半(午前中)に演奏されます。春の色のお祭りホーリーにも関連し、クリシュナを通したカーマ(愛と欲望の神)の現れだと言われています。
メグ サンスクリットで雲の意味。ヴァルシャ・リトゥ(モンスーン)のラ―ガで、モンスーン時期であれば時間帯はいつでも。ゴダルヴァン・パルヴァット(山)でシヴァがクリシュナを守るために発したダマル(太鼓)の音は、メグのラ―ガでした。歌詞に雨粒・雲・雷・孔雀を含む雨のラ―ガ、マルハ―ルとメグが統合したメグ・マルハ―ルラ―ガが有名です。
マルカウンス 真夜中過ぎの朝の短い時間に演奏されます。真面目で瞑想的、心を落ち着かせ、酔わせる効果があります。マルとカウシックで、「花輪のように蛇を身につけている」という意味でシヴァを意味します。パールヴァティがシヴァを落ち着かせるために発したラ―ガです。
ディーパク シヴァに関連する火のラ―ガです。このラ―ガを歌うと火が出るという神話があります。歌い始めると熱気が増し、聴衆は身を守るため身を隠し、歌い手は炎に包まれ火傷をしました。歌い手は家に戻り、娘たちがメグ・マルハ―ルを歌い彼の命を救いました。このようなことから、現在ではディーパクはほとんど歌われていません。