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【創作】真珠のイヤリング

おばあちゃんの形見の、真珠のイヤリングをいつもつけている。

これを触ると魔除けになるってよくおばあちゃんも言っていた。あと、一緒におまじないの言葉も教えてもらったけど、、、なんだっけ。

半信半疑だったけど、形見としてつけるようになってから、気持ち的に危機回避できる気がしている。


それはそうと。あのラーメン屋に入るかどうか。決めかねている。

1週間前に友達と初めて来たとき、あのお店にいた店長の「たくみさん」にまた会いたいのだ。
「たくみさん」は私が勝手につけた呼び名で、斎藤工にそっくりだから私の中だけでそう呼ぶことにした。
店のお向かいのローソンからずっと張り込んでいる。もう二時間以上書籍コーナーに立っていても何も言ってこなくて助かる。この時間の店員は客に無関心だ。


「たくみさん」がお店に入っていくのが見えた。今、お店の中にたくみさんはいる。そして、入れ替わりにほかの店員さんは帰っていった。店にいるのは「たくみさん」一人だ。
ここのラーメンはおいしいけど、リピートするの早すぎかな?ラーメンをがっつく人と思われるのいやだな。考えだしたら止まらない。
どうしよう。。。。迷いながらもローソンを出た。

恋愛の達人なら、ここで迷わずお店に入り、杏仁豆腐だけを頼んで、「あなたとおしゃべりしに来たの。」とかかっこよく言うんだろうな。そんで餃子とビールを追加で頼んで、「これ、あなたのね。」ってスマートに奢るんだ。やってみたいものだよ。

店の三軒隣らへんから出ている横断歩道をトボトボ歩いて腹を括るよう自分を鼓舞する。

『お客なんだ。あやしくも迷惑でもない。別にラーメンを週一で食べる女子って思われても良いじゃないか。おいしいんだから。』



『でも。この時間のラーメン。。。胃もたれするし。。。杏仁豆腐だけ頼むなんて大胆なこと私には。。。』

一歩。そして一歩。できるだけゆっくり歩いても、腹を括れずに店の前まで来てしまった。

入るか。入るまいか。


この一歩はまだ自然だ。あと一歩先に進んだら挙動不審だ。どうする。ドアに手をかけろ。





・・・




ダメだった。


やっぱり勇気が出なくてお店を通り過ぎてしまった。牛歩すぎて充分挙動不審だったのに、一歩戻ってドアノブに手をかけることができなかった。


このまま、帰ろう。
駅へは反対方向に歩いている。




私のいくじなし。




視界が滲んで見えにくくなる。
それでも、歩幅を早めて歩き出した途端。







「ツーーーーマーーーーーチャーーーーーーーーーーン!!!!!!」



向こうから、背の高いガイジンが大声で叫びながら向かってきた。
誰に向かって叫んでるんだろう?周りは誰もいないのに。


「ツーーーーーーーーーーーーーーーーー、マーーーーーーーーーー、
チャーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!」

夜中に大声で叫んでだいぶ迷惑なガイジンだ。
ていうか、え?私に言ってる?私にツマって呼んでる?なんで?気味悪いんだけど!!!え、無理!!!!





どうしよう。逃げなきゃ。
パニックで立ち尽くしてたら、あっという間にガイジンは目の前まで追いついた。



「オーマイガー!アー、クーダサイ?クダサイ?」



今度は何ーーー?
くださいってなに?何が欲しいの?こ、ここここわいーーーーー!



おん あぼぎゃ おん あぼぎゃ おん あぼぎゃーーーーーー



もう、考える余地もなく、ラーメン屋に駆け込んでしまった。



「い、いらっしゃいませー・・・。・・・大丈夫ですか?」


息をきらして駆け込んだ私に戸惑っている「たくみさん」。



「なんか…    ガイジンが…    向かってきて…   」
お店には誰も居なかった。たくみさん一人だった。たくみさんと私、二人きりだ。
パニックな中、そんな事だけ冷静に考えていた。


「ガイジン?」
閉じたドアから外を伺ってくれた。


そして。


「あぁ。ガイジン。背高い坊主の人?」


知ってるの?黙ってうなずく。


「隣のアパートに住んでる人だよ。」


「でも、ツマちゃんとか言って私に近寄ってきて...怖くて。」


「あははは!ツマちゃん?そういえば君、同居してる人と背丈と髪の長さが似てる。ツマちゃんっ!パートナーの人と間違えたんじゃない?」


ふふふっと笑いながら「たくみさん」はもう一度外の様子をうかがった。安全を確認したらしく、私に向き直った。



「また来てくれてありがとう、フェルメールさん。まあまあ、座ってよ。あったかいお茶淹れるね。」


カウンターに促しキッチンに入っていく彼を目で追いながらポカンとしてると、含みのある笑顔でにやにやしながら耳元を指さして来る。「先週も来てくれたでしょ?」と。
「フェルメールに雰囲気似てるから覚えてたよ。また来てくれたらいいな、って思ってた。」


顔が沸騰したみたいに熱くなる。



その一言で、なんか、イケる気がして...。



「あの、ラーメンはまた今度で、杏仁豆腐だけ。」

ニコッと笑ってくれた。心臓がトクトクする。耳まで、首まで熱くなる。




もうここまで言っちゃったんだから、イってしまえ!!!
「餃子一皿と、ビール二杯も。一杯はあなたに。」



最後にこれもかまそう。これは照れ隠しと、話題フリ。
「フェルメールって真珠の耳飾りの人じゃないですよ。それを描いた画家。」

たくみさんがイタズラな笑顔でフリーズしてる。彼のその一言で、今までの緊張感も全部吹っ飛んで二人で笑い合った。

「なんのはなしですか?」








これは、日本で夫と同棲していた時代
『クダサイってソーリーって意味だよね?』という身の毛もよだつ質問と事後報告から生まれた創作です。

私と間違えて見知らぬ女性に駆け寄った挙句クダサイと繰り返し言ってくるガイジンは恐ろしかったに違いありません。このトラウマ級の恐ろしい事件が逆に被害者(⁉)の恋の始まりの背中を押してたらどんなにいいか。


余談ですが、なんとなくお騒がせしたお詫びも兼ねて次の日夫とラーメン屋に立ち寄ると、「たくみさん」のモデルになった人は餃子をサービスしてくれました。なのでこのトラウマ事件は事なきを得ました。(勝手に解釈)「たくみさん」は態度もイケメンでした。
現実的にも
おん あぼぎゃ 
おん あぼぎゃ。(めでたしめでたし風)

なんのはなしですか。
#あぼぎゃ党  の話です。

#あぼぎゃ党は、光明真言の冒頭おん あぼぎゃ を唱えると危機回避できるという説を立証しようと事例を集め始めたらわけわからなくなってしまったので、何かにつけて持ち出す決め台詞と化したワードです。皆さんも是非使ってみてね。


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野井尾 留見(のいお るみ)*タロットエッセイ*
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