エッセイ | 心の豊かさを取り戻すために
「あなたの好きなデザインは何ですか?」
突然、聞かれて答えられるだろうか。思い浮かぶだけ挙げてみてくださいと言われて、どれだけとっさに好きなデザインと理由を述べる事ができるだろうか。
私は、頭が真っ白になってしまった。
創作活動をするんだと意気込んでいたのに、あれこれと浮かんでこない自分に失望した。
きっと何かあるはず。スマホの画像を探せば何かあるんじゃないのか。いや、ない。
どんなに些細なものでも気になったものをスマホで写真を撮る習慣がない。そもそも、最後にスマホで写真を撮ったのはいつだ。
失望感に満たされた私が絞り出したものが『月』だった。
正円のような丸が好きです。みたいなことを答えていたと思う。理由は、円には自然の神秘を感じるからである。
星や月も近くで見たらボコボコしているかもしれないが、遠くから見たら丸いものだし、自然界のものは曲線で出来ている。循環を表そうとすればそれは円になる。すべてのものが何かからつながり、何かにつながっていく。正円とは究極の調和ではないか。そう感じていたからである。
でも、そのときはこんなにはっきりと理由を説明することができなかった。何と言ったのかは覚えていないが、「ああ、上手く伝えられなかったな」という感覚になったことだけは覚えている。
私は、いつの間にか心まで貧しくなっていたことを知ったのである。
金銭的に余裕がなくなって、好きなものを少しづつ手放していた感覚はあったけど、このときまで創作活動に大切な、好きのアンテナを畳んでいたことには気づけなかった。
これからなるべく好きなもの、心惹かれたものを残していこう、アンテナを張っていこうと心に決めました。
月と言えば、先日、中秋の名月でしたね。
私の住むところから、車で1時間少々走った場所で中秋の名月のイベントがありまして、遠いですが行くことにしました。
アンテナを張ると心に決めていたからこの選択をしたのだと思います。
勢いで行くことにしましたが、住んでいるところは曇り。道中に雨も降り心配に。
会場に着いたときには、曇り。雲の影から少し明るさが漏れている程度。せっかく着たけど、月は見れないだろうと思っていました。
しかし、イベントの催し物が進むにつれて、月の周辺の雲が薄くなり、月がはっきりと顔を出すという瞬間もあり、神秘的に輝く月を眺めることができました。
家に帰った時、雨は降っていませんでしたが空は雲に覆われていました。遠いけど行くという選択をしなかったら、月を見ることはなかったでしょう。
好きなことや気になることへのアンテナを高く持ち、積極的に行動することで、このような経験がひとつふたつと増えていくはず。
「あなたの好きなデザインは何ですか?」
こんな風に聞かれた時に、あれやこれが好きなんですと、軽やかに楽しくしゃべれるようになりたい。
少し先の自分がそうであるなら素敵だなって思います。