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【打開の翼】第2話「入隊したらブラック企業だった疑惑」

「新入隊員諸君!ようこそUDMへ!
 私は玖永くなが。君らの教官兼隊長となる。
 これより君ら3人と私で1分隊として活動する!」

フルフェイスのヘルメットをかぶった背の高い男性が私たちの前に立つ。
マントを身体に巻きつけるように羽織っているが、中は軽装備なようで
マントの隙間などからたくましい筋肉が見える。


私は「Unknown Defeat Military」…通称:UDMに入隊した。

入隊申込書には苗字か名前のどちらかを書くようになっていた。
私のフルネームは「柚 祥子ゆずしょうこ」だ…
絶対「柚子胡椒ゆずこしょう」からとっただろ…と思わざるを得ない
親がジョークでつけたようなこのフルネームを言う度イジられてきたので
ありがたく苗字だけを記載した。

そして兵科の希望欄もあった。
よくわからなかったから一番上に書いてあった「ソルジャー」を選んだ。


隊長の説明が続く。

「入隊より1年間は新兵…新人として扱われる。
 外部への連絡等は一切遮断。
 詳しい規則は入隊時に渡されたマニュアルを読んでおけ。」

隊長がそう言うと、横にいた男性が声をかけてきた。

「一緒やな!よろしくな!俺、成保なりほ
「あ…柚です…よろしくお願いします」

長い金髪を後ろで束ねたちゃらい男性は成保と名乗り、なれなれしく握手をしてきた。
彼もソルジャーだった。

「何でもええっちゅうから選んだらこれって…詐欺やん…どうみても上級者向けやろ…重…」

重装備を不器用に動かす彼は「充斗みつと」。
よりによって一番難しいと言われるスティールウォーラーという上級者向けの兵科を選んでしまい
だるそうにぶつぶつ文句を言う。

「分隊が4人って少なすぎやろ!どんだけ人手不足やねん!」
「だから給料ええんやろ?ええやんか~」

文句を言う充斗に成保は楽観的だった。
どう見ても「金目当てで来ました」と言うのがうかがえる。

「うち一人は女性やで!?」
「ラッキーやんかー♪俺が守ったるからな?柚ちゃん」
「軍人に性別は関係ない!!」

スキンシップしようとした成保に隊長が声を荒げる。

「そないに怒らんでも…なあ?」
「…怒ったわけではない。フェミニストなのは良いが
 戦場ではそういう意識は捨てろ。と言いたかっただけだ。」
「隊長~もう暑うてかなわんわ…服交換してくれへん?」
「これはエアユサールの装備だ。スティールウォーラーを選んだのは自分なんだから我慢しろ」
「俺、スティールウォーラーっちゅうんがどんなんかもわからんと選んでんけど、そんなん初めに説明しとくもんちゃうん?」
「説明したら、誰もそれ、選べへんやろがい!」

「…………」

隊長の言葉に一同は黙る。

「やっぱ詐欺やんけ…」
「隊長、関西の人やったんか…?」
「…関西訛り…でしたね…」

コホン!と咳払いをして隊長は姿勢を正す。

「性別も出身地も関係ない!我々はUDM隊員!それ以上でもそれ以下でもない!」
「ま、まあ、出身地は関係ないわな…」
「ではUDM隊員としての第一の訓練を始める!」
「良かった…訓練はあるんやな…兵科なんでもええとか言うから、テキトーな組織かと思ったわ…」

隊長は大きく息を吸うと突然歌いだした

「我らの犠牲は~平和の代償、その歩を止めずに~未来を築け~♪ はい!」
「へ?」
「歌うんだよ!私の見本通りに歌うの!我らの犠牲は~平和の代償~♪はい!」
「我らの犠牲は~平和の代償~♪」
「うまいぞ!もう一回!我らの犠牲は~平和の代償、その歩を止めずに~未来を築け~♪」
「我らの犠牲は~平和の代償、その歩を止めずに~未来を築け~♪」

「なんやこれ…俺等音楽隊に配属されたんか?(ヒソ)」
「行ってこいで使い捨て万歳な歌詞やんけ…なんちゅー嫌な歌や…(ヒソ)」

充斗と成保が小声で文句を言いながら困った歌詞の歌を何度も歌う。
と、

 ウーウーウー

けたたましいサイレンが鳴り響く。

「ちっ、さっそくか。敵襲来!出動だ!」
「はぁ!?」
「敵は我々の都合など考えないからな。まったく…まだ歌も全部教えていないというのに」
「それ重要なん…?」
「絶対もっと大事な『教えること』あるわ…」

隊長について長い廊下を上がる。

「ちょ、ちょっと!待ってや!俺そんな速く動けへん!」
「ああ…スティールウォーラーは鈍足だからな…まあ、自分のペースで来い」
「無責任なこと言うなやー!隊長やろがい!新人の面倒見ろやー!」

叫ぶ充斗に向かってふっと微笑むと、隊長は装備の翼を広げて飛ぶ

「え!?それどうやるん?」

成保が期待に満ちた目で聞く。

「ああ、飛べるのはエアユサールだけだ。お前らは徒歩で来い。」
「ずるいー!パワハラや!ブラック企業やー!だから給料高かったんかい!」
「やかましい!もう後戻りはできないんだ!覚悟を決めろ!」

ひーひー言いながらも文句も絶やさず言いながら隊長を追う成保と充斗の姿に思わず笑いがこみ上げる。
と、隊長は角を曲がったところで足を止める。

「ちょうどいい。これくらいならいい訓練だ」
「?」

新人3人が追い付いて見た光景は、想像を超えたものだった。

<つづく>

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