
【打開の翼】第12話「君が変わっても」
「あいつら空中は安全だと見切って降りてこない!下からの砲撃だけじゃ無理だ!
今ここでまともに飛べる奴はお前ひとりなんだよ!」
「わ、わかりました!じゃあ、あの…武器変えていいですか?」
「おう、さっさとしろ!」
大型用の武器を変え、隊長に無理やり背中を押されてドラゴンの残りを倒しに飛ぶ。
初めてなはずなのに、空中戦に怖さはなかった。
むしろ…爽快だった…
下で負傷した男性隊員たちも私を見ていた
「え…!?エアユサールは全滅したはずじゃ…」
「なんだあれ…戦ってるというより…舞ってるみたいだ…」
「キレイだ…あれこそ天空の戦姫だ…」
見惚れる男性隊員とは対照的に隊長はげらげら笑っていた。
「わははは!どんだけラステ好きなんだ!」
「エクスから…遠距離レーザーのブリッツアローに変えたんですね…やっぱあの子…」
「ラステに比べるとブリアロ下手だなぁ、性格が出るねえ。ククク」
夢中で片づけて隊長の元に戻る。
「はぁはぁ…殲滅…完了…はぁはぁ…」
「な?できるって言ったろ?」
装備を脱いでいると貸してくれた先輩エアユサールが声をかけた
「ねえ…あなた…保護した人を…
なんで…L字マンションの陰に…置いたの…?」
「え…?なんとなく…」
「…そう…
気が向いたら…エアユサールに…転科願い出しなよ…
あなたなら…即戦力で行けるわ…」
「え…あの…」
戸惑う私の肩に隊長が手を置く
「上手かったって褒めてるんだよ」
「え!あの…ありがとうございます!」
「ふふ…」
私はソルジャーの装備に着替えると
負傷兵の皆さんにお礼を言って隊長と一緒に宿舎へと帰った。
帰っていく私の姿を見ながら、貸してくれた軽症のエアユサールの先輩たちは
「L字マンションは…三角柱だから…ビルの中では一番強固…エアユサールなら常識の安地…
でも他の兵科で…あんな高所を…安地として使うことは…稀…やっぱあの子…
「うん…経験者だね…それも…私たちよりずっと…」
とか話していたことを、私は当然知る由もなかった。
宿舎へ帰ってしばらくすると隊長から呼び出された。
「成保は医務館へ運ばれた。傷はまあまあの深さだが臓器への損傷はない。
全く運のいい奴には勝てないな」
「いつ頃復帰できるんでしょうか…」
「明日には面会できる。柚が会いに行けば早く回復するだろうよ。」
私は安心して自室に帰るとベッドに座ってぼんやりする。
(緊急事態で…借りた装備…使ったことのない武器…初めての空中戦…
なのに…装備も武器も…なんか馴染んだ…
動きもソルジャーの時より…思い通りに動けた…)
コンコン
ノックにドアを開けると充斗が居た。
「入ってもええ?」
「あ、どうぞ!」
扉を閉めようとすると充斗が遮る
「ああ、異性の部屋に入る時は扉は開けっぱなしにしとくんや。決まりなんやて。」
「そ、そうなんですか」
「ほれ、夕食。残ってたから持って来たったわ」
「あ…ありがとうございます」
持ってきてもらった夕食をとりながら充斗と話す。
「成保さんどうですか?」
「あぁ?ぐーすか寝とるわ。救急のとこ行った時も意識はあったから
出血はしとったけど大事はないやろとは思うたけど、精密検査したらホンマに外傷だけやったって。
骨すら折れてへんて、心配して損したわ」
「…良かった…」
「それでも助け出された直後は朦朧としとった。
『天使が助けてくれた』ってうわごと言うてたで?」
「(照)」
「地上で負傷してた連中も、空で我が物顔で飛んでたドラゴンどもを一人でなぎ倒すエアユサールの姿見て
『奇麗やー』やの『舞っとるみたいや』やの『あれこそ天空の戦姫や』やの惚けとったわ。
あれが柚ちゃんやて分かったら、求愛祭りが起こるやろな。ははは!」
「やめてください…隊長に無理やりやらされたんです…夢中だったから自分でも何をどうやったのか…」
「…上手かったで。怒らんでほしいんやけど…ソルジャーやっとる時より輝いとった。」
「そ、空を舞う戦士の姿は誰でも奇麗だから…」
「俺は普段、エアユサールて、一人でも集団でも羽虫みたいに見えるわ。
柚ちゃんは全然ちゃうかったで?
ホンマ、天使が両手から裁きの光を放ってるみたいやった。」
「…電撃武器を使ってただけですよ…」
「非常事態で、無理やりやったかもしれへんけど、貴重な体験できたな。」
「…………エアユサールの装備貸してくださった方に…転科しないか?って言われたんです…」
「…………」
「即戦力になれるって…」
「柚ちゃんはどうしたいん?」
「今日飛んでみて…気付いたんです…………私…………
エアユサールの方がいいんじゃないかって…」
「…………」
「今まで、みんなで戦ったとき、上手く援護できたのは…私…………視点が鳥瞰っぽいんです…………」
「…………」
「空から見渡すみたいに捕らえるから、戦況を見ることができた…………
でもソルジャーだと視界は地上だから、頭で補完してて…………
初めからほんとに飛んでれば、もっとうまくサポートできるんじゃないか?って」
「柚ちゃんの、やりたいようにやったらええよ。
焦らんでええから、ゆっくり考えて、自分で決めたらええ。」
「…………」
「最初の兵科選ぶ時なんて、なんも知らんで選んどったんや。
俺は失敗したー思うたけど、今は結構気に入っとる。
でも他の兵科やったことないから、想像つかへんだけで、実はソルジャーやったら成保よりうまいかもしれへん。
試せた柚ちゃんは、ラッキーやで」
「…そうですね(ニコ)」
「ほな、なんぼ扉開けとっても長居すんのはなんやから、そろそろ自分の部屋に帰るわ」
「あ!夕食ありがとうございました」
「おう!あー今日は成保のいびきに悩まされんで眠れるわー!」
「…いびきかくんですか…」
「ひどいもんやで!?俺、あいつに投げつける用のぬいぐるみ、枕元に置いて寝とるわ!」
「充斗さんが…ぬいぐるみと一緒に寝てる…」
「想像すんなや!」
そう言うと充斗さんは笑顔で手を振って、静かに扉を閉めて出て行った。
「ラッキー…か…ふふ」
充斗に言われて改めて思う。
(ホントは兵科は全部試してみて、一番合ったのにすべきなのに
多分そんな暇はない…
ろくに歌の練習もできない、いつ敵が来るかわからない状態じゃ
『最初に何となく選んだのは運命』みたいな感じなのかもしれない。
私は2つの兵科をやれて…比べることができた…
私は…ラッキーなんだ…)
私がそんなことを考えていた時、充斗は一人部屋を堪能しながら思っていた
(あのエアユサールが柚ちゃんやったとはな…
正直、成保を助けに行った人は、めっちゃ動きが良うて…
でかいドラゴンを倒した時なんて、堂々とした威風があった…
隊長クラスの誰かが出動してくれたんや思た…
あのエアユサールが柚ちゃんやったと分かって、確信した…
4年前におって除隊した「柚」て言う隊員は、柚ちゃんと同一人物や。
さっき話してみて、柚ちゃんがUDMにおった時のこと忘れてることも…
せやけど、危惧したものも消えてる。
おそらくあの女王蜂の所に迷い込んだ時、成保の提示した落ち着かせ方
後から来た援軍が「倒し方を確立できたのは先人のおかげ」ていう事実の言葉。
多分、恐怖自体は消えることはあれへん。
俺は乗り越えられたやら軽々に言う気はあれへん。
他人に「乗り越えろ」やら言うんは好かん。
そんなもん、度を越した恐怖や苦痛を味おうたことのあれへん奴の戯言や。
柚ちゃんは、トラウマを覆うフィルターを得られただけや。
もしまたそのフィルターのぼかしがクリアになることあったら
俺等がまたかけたる。かけたれる自信がある。
ならもし、柚ちゃんがトラウマを呼び起こしやすい兵科に転科したかて
俺等は変わらず柚ちゃんを守る。
それだけや。)
<つづく>
ここから先は
¥ 100
読んでくださってありがとうございます!