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【打開の翼】第14話「壁」

夕方になりエアユサールの転科が認められた旨と、新しい身分証
そして装備が届いた。

「すごい…………ぴったり…………そりゃそうか。
 今までソルジャーの装備貰ってたんだからサイズは分かってるってことだもんね…」

さっそく着てみると、やはりソルジャーの装備より馴染む。

「セクハラデザインだけど…動きやすく作られてる…
 空で戦うんだもんな…余計なものがあったらバランスに響く…
 よくできてるなあ…でも…
 …………このツインテールヘルメットは絶対デザイナーのシュミだ…………」

ヘルメットは着けないで、エアユサールの装備で充斗の部屋へ行く。

「はいはい~今開けるで~」

 ガチャ

「うお!どうしたん!?」
「転科しました」
「ほ、ほんまに…?まあ、入ってや」

中は中央で分断されていて両壁につけてベッドが二つある。
ベッドの横にサイドテーブル。廊下側の壁にロッカー。
中央に細長いテーブルが置かれてあった。

「2人部屋ってこうなってるんですね」
「二段ベッドやなくてよかったわ。俺も成保も寝相悪いから絶対上の奴、朝、布団なしやわ。」
「あ!これが例のぬいぐるみ?かわいい!」
「ははは!それやったら当たっても怪我はせえへんやろ?」

ぬいぐるみを抱っこする私を見て充斗は思う

(か…………かわええ…………デザイナー天才か!
 でも…なんやこの貫禄…
 やっぱ柚ちゃん…歴戦の戦士なんやな…………)

「成保さんのお見舞いに行きました…
 元気にふるまってくれたけど…右半身を噛まれてて…腕と腿の傷は貫通してるそうです…
 利き腕だし復帰には1カ月は見ないといけないだろうって隊長が言ってました…」
「まあ…そうやろな…1カ月でも短いと思うで?
 いくらアーマーにサポーター機能があっても…」
「それまでは、私と充斗さんのツーマンセルです。
 ご迷惑はかけません!今まで以上にサポートします!」
「おう!俺もちゃんとサポートするで!」
「改めて…よろしくお願いします」
「よろしくな」

少し雑談して、私は自室へ帰った。

「…………」


その後、充斗は隊長の元へ行く。

「隊長、柚ちゃんが転科したお披露目に来てくれました。」
「ほう」
「なんで…許可したんですか…?」
「…何か問題でも?」
「まさか隊長が…柚ちゃんがエアユサールになったことで…過去のトラウマを思い出す危険性を考えへんかったとは思われへん…」
「大丈夫だ。柚なら…」

 ドン!

充斗が隊長の机に拳を振り下ろす。

「乗り越えられるやらいう無責任な言葉は言わんといてください!」
「…………」
「柚ちゃんが除隊したのは…………
 隊長の調べと、一緒に巣穴に入った時の様子から考えても…
 『女王蜂の巣で、体中を串刺しにされたから』…で間違いあれへん…
 まるで都市伝説の拷問器具:アイアンメイデンにかけられたように…
 おかげで彼女は除隊するほど負傷して…記憶も失うた…
 そんな目におうたんやったら…当然の結果や思う…
 俺は…そんな楽観視はできまへん…」
「…柚が転科を決断した理由は…ソルジャーでは成保を救えなかったからだ。」
「…………」
「お前の懸念は私も無視してはいない。
 確かに適正はエアユサールの方だ。だが他の理由なら、許可はしない。
 敵性もあって理由が仲間を救うにはこっちじゃないとできないから。と言われれば
 私は断らない。」
「…………」
「なぜなら…………お前たちが居るからだ。」
「…………しばらくは…俺とのツーマンセルです…」
「自信がないか?」
「全力で守る決意はあります。」
「なら良し。
 …………私は、お前たちのチームの中心は、お前だと思っている。」
「…………は?」
「成保にはムードメーカーの力がある。
 あいつの明るさとポジティブな言動は、過酷な戦況でも打破する活力を与える。
 柚には潤滑油とブースターになる力がある。
 彼女の柔和さと鼓舞する存在感は、戦場に限らず仲間の結束を強める。
 そしてお前には、部隊をまとめる力がある。」
「!?」
「お前は柚以上に周りをよく見ている。さりげなく適切な気遣いもできる。
 マイペースさと大胆さもある。
 こういうタイプが居ると、周りは気付かぬうちに同じ方向を向く。
 私は将来的に最も隊長職になれる人材だと見ている。」
「俺は…………あかんですよ…………」
「…………さっきの反応からも…………お前も何か大きなものを抱えているのは分かる。
 だがお前は『スティールウォーラー』だ。」
「スティールウォーラー…………」
「ウォール。
 『壁』なんだよ。
 悪い意味じゃない。
 仲間も自分も守るための防壁になれる。
 体も心もな。」
「…………」
「あの二人はその天性を磨いてくれる。」
「…俺は、柚ちゃんが、嫌な記憶を忘れてるんやったら、そのままにさせたい。
 嫌なこと薄れさすには、時間が解決してくれるってことはよく言う。
 要するに忘れていくってことです。
 慣れるちゅうこともあるかも知らんけど、慣れられる限度を超えたものは…
 死んだ方がまし…ちゅう、最悪な考えの方が先に来てまうこともある…
 1番ええのは忘れてまうことです。
 それがもう出来てるんやったら、そのままでいるんがええ…」
「お前がそう思うなら、そうあり続けられるように、思い出させる何かが入れない壁を作れ。」
「…………要するに…………心配して避けるんちゃうく…………行動しろってことですか…」
「お前はそれができるからな。だから許可したんだ。
 もう一度言う。
 大丈夫だ。柚なら…お前たちが居るから。」
「…分かりました。そんなら…今まで通り、俺は壁になります!」




それから成保さんが居ない間、ツーマンセルでの戦闘になった。

「充斗さん!行っちゃってください!」
「おう!喰らえやハンマー!!!」

 ドーーーン! ピシャア!

充斗の「アレイド」で吹っ飛んだ敵の外周を囲むように、電撃が飛ぶ。

(ごっついなあ…空から見れるようになって、敵の動きを全部把握しとる。
 散らばる敵は誘導して集めて来るし…俺の戦闘スタイルに合わして、ホンマ的確な動きしよる…
 ソルジャーの時は俺等の後ろに隠れるように陣取って撃っとったのに
 縦横無尽に飛んで撹乱すらする…兵科でこないにちゃうんか…)

「ふう…あらかた片付きましたね」
「2派が来るかもしれへん。休んどこ」
「はい!(にっこり)」

私たちが建物の影で休んでいると、一人のソルジャーが近寄ってきた。

「いやーあんたらすごいねえ。」
「ん?誰や?」
「あ、ごめんごめん、俺等は丘の上で戦ってたんだけど
 すげー勢いで倒していくのが見えて…
 同じくらいの敵の量だったのに、あっという間なんだもん…
 他のメンバーは?偵察中?」
「いや、他の奴は今入院してて俺ら二人だけ」
「まじか!?二人であれやったのか!?
 …たしかにデカい衝撃波と閃光しか見えなかったけど…
 他の人は近接してるんだとばかり…」

その男性ソルジャーは私たちの前に座るとうなだれる

「俺の隊…5人なんだけど…みんなバラバラでさ…
 毎回出動してはそれぞれが攻撃して、何とか終わらせる感じで…
 ずっと一緒にいるのになんでまとまれねえんだろう…」
「兵科は?」
「ソルジャー2、スティールウォーラー1、エアユサール1、マニピュレーター1」
「すごい!全兵科揃ってるなんて!え…てことは新人さんなんですか?」
「うん」
「俺等もやで!なんや、同期やんけ!」
「俺もびっくりした。閃光はエアユサールで衝撃波はスティールウォーラーの攻撃だなと思ったから
 混成ってことは同期?って思って気軽に声かけちゃってごめん…」
「いいえ!同期の人とほとんど話したことがなかったんで嬉しいです!」
「ほんまやな、応援要請で来てくれたんは先輩やったし…同期は自分のグループで固まっとるし…
 精々あいさつ程度しか言葉交わしたことなかったもんな…」
「うち女性がマニピュレーターとエアユサールでさ…これが仲が悪いんだわ…
 男連中もマニ派、エア派で推しが分かれてて…
 もーーーー!オタサーかよ!!!!」

彼はヘルメット上から頭をかきむしる

「うわあ…厄介ですね…(ヒソ)」
「ああ…うちの隊長が聞いたら激怒しそうやな…(ヒソ)」

「なあ、あんたらの隊長は何しとんの?」
「うちの隊長も最初は説教してたんだけど、もう今じゃ匙を投げちまってる…
 俺は推しとかアホらしいってオタサーノリの輪から外れてるんだけど
 それも4人は気に入らねえみたいで…」
「せやったらマニ推しの奴とマニピュレーターが組んで、エア推しの奴がエアユサールと組んで
 あんたが指揮したらええんちゃう?不可侵の立場なんやし。」
「女性二人は『全員あたし推しになってほしい!』ってタイプなんだよ…」

呆れてものが言えない私たちは、ため息が出る…

「!2派が来る!俺、戻るわ!話聞いてくれてありがとな!」
「待ってや!俺等も合流さしてくれへんか?」
「え?いいのか…?頼む!一人でも欲しいんだ!」

充斗が彼の後ろ姿を見ながら私に言う

「かんにん、柚ちゃん、ちょい付き合うてくれ」
「何か作戦でも…?」
「とりあえず見てみーひんとやけど…俺がキレたら俺に合わしてくれるか?」
「え?あの…は、はい…」

<つづく>

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