【暴君女王】第6話 「推しのキャラ」
アカネ (ゲーム『春の微笑み』では…
スカーレットが主人公なら彼女は攻略キャラ7人を『支配』していって
自分に絶対服従の状態にして
密かに地下牢を脱獄して私を女王から引きずり降ろそうとしている
妹のプリマヴェーラにも惑わされないようにして
絶対的な女王として君臨するとエンディングになる…
順当に考えれば、そうしたら出られるんじゃないかとは思う…
でも…そんな保証はない…)
アカネことスカーレットが不安に駆られて食事の手を止めていると
ジオーヴェが心配そうに話しかけて来る。
ジオーヴェ 「どうなさいました…?何か至らないところでも…」
1:とても美味しい
2:今日のは失敗作だ
3:いちいちうるさい
アカネ (ハッ!だめだめ!)
1!
スカーレット 「いいえ、今日の食事もとても美味いぞ。」
ジオーヴェ 「ありがとうございます。お気に召していただけて光栄の極みです」
ジオーヴェからは、心から自分の料理を喜んで食べるスカーレットに
もっと喜んでほしいという気持ちしか伝わってこなかった。
アカネ (今はまだ始まったばかり。
とにかく攻略キャラたちに殺されないことに集中しよう!)
昼食後の休憩を取りながら、いつものようにスカーレットはテラスの長椅子に寝そべり外を眺める。
アカネ (この時間は休憩時間だけど、貴重な『独りの時間』でもある…
考え事はこの時間にしよう…
今のところ会ったのは、秘書官のルーネ、近衛兵のマルテ、料理人のジオーヴェ…
ルーネは私を愛してるふりをしてる…私もそれを受け入れてるふりをする。
マルテは人前では私は彼を突き放し、二人きりの時には淑女のふりをして甘々な時間を過ごす。
ジオーヴェおじさまは、ひたすら彼の料理を素直に味わい、素晴らしい料理人だとほめる…
でも攻略キャラは7人いるはず…まだ半分もわかってない…
…ていうかこれって…『支配』なの…?
スカーレットって恐怖で支配するんだよね?
そりゃリアルになったらあからさまにはできないんだろう…
だって私にあるのは『女王という権力』だけ…ナイフ一つ持ってない…
普通に考えて力技に出られたら男性に勝てるわけない…
あと分かってることは…
私が能動的にできるのは、突然現れる選択肢を選ぶことだけ…
自由に話すことも動くこともできない…
選択肢が出るのはたいてい攻略キャラと話してる時…
それはスカーレットのセリフに反映されて…
もしそれが不正解だったら…話した相手に殺される…
リアルな死の痛みや苦しみを伴って…
そしてセーブ地点に戻される。
このセーブはオートセーブ。
どうやら場面転換したときにセーブが入る。
そしてFPS…スカーレットの視点でしか見られないから
私はスカーレットの表情を見ることができない…
まだ二日目でこれだけのことが収穫…
結構多い…
せめてメモでもできればいいのに…
記憶するしかないってキツイ…………あれ?)
テラスのガラスに外を眺めるスカーレットの姿がうっすら映っている。
その顔はすごく寂しそうで…哀しそうだった
アカネ (スカーレットの動作には表情も含めて私の感情は反映されない。
だってされてたら処刑場で吐いてるよ…
でもガラスに映ってるスカーレット…………
自信満々で…万人をひれ伏せさせてる暴君女王なはずなのに…
なんて切なくて悲しくて…寂しそうな顔…
この表情…………孤独…………?
『独裁者は孤独』とかもテンプレ要素だけど…
マルテに甘えてた時…私はすごく安心してて…スカーレットもそうに違いないって思った…
スカーレットの顔が見えて…気持ちがわかったら攻略しやすくなるのにって思ってたけど
なんか…純粋に…スカーレットの気持ちを知りたい…
もっとシンクロ出来たら…彼女の気持ちがわかるのかな…?)
考え事をしていたらルーネがやってきた
ルーネ 「昼食のお時間です」
ルーネと軽い昼食をとり、午後の雑務を終え、夕食後自室に戻ると
ルーネ 「ここからは『今日の係』と交代いたします。では」
アカネ (ああ、この昼食~夕食までは毎度のことだから特に選択肢も出ない。
日常ルーチン場面はゲームでも1枚絵が出るだけで、すっ飛ばされてたもんな…
まあ、攻略に関係ないところは要らないわな…
ていうか今日の共寝係って…)
? 「失礼いたします…」
美しい青みがかった長い銀髪…クールな眼鏡の美青年…
アカネ (わ…私の推しキャラ…メルクリオ様!!!
やだ…こうして実物見ると…超キレイ!!)
メルクリオは無言でスカーレットを抱きしめるとベッドに寝かせる。
アカネ (わー!これは乙女ゲーム万歳だよー!)
だがメルクリオは酷く事務的で
無理やり抱いているのが見え見えだった。
アカネ (なにこれ…つまんなすぎる…
ていうかこの態度…正直むかつくんですけど…?
あ…選択肢)
1:お前は無口だな
2:ヘタクソ。不愉快だ。
3:とってもよかったわ
アカネ (…メルクリオがしゃべんないから…彼の意図がわかんないよ…
でも普通にさ…3はなかったよ。
スカーレットだって全然声も出してないもん…
2で罵倒したいくらいだけど…しゃべらせたい…)
1
スカーレット 「…お前は無口だな」
メルクリオ 「…私はあなたの命令で来ただけ…何も話すことはありません。」
スカーレットは怒ってメルクリオの髪の毛をつかむ
スカーレット 「命令だから仕方なく来てやった。と!?」
メルクリオ 「…………」
スカーレット 「何か言ったらどうだ!!」
アカネ (勝手に進んでいく…これダメパターンだ…
けど…私もスカーレットと同じ気持ちだよ…!)
メルクリオ 「…あなたは…誰にも愛されない。誰も心を開かない。」
バシッ!
スカーレットはメルクリオの頬を引っ叩く。
メルクリオ 「…そんなことをしても無駄。あなたは…誰も手懐けられない。」
スカーレット 「黙れ!」
バシッ!
スカーレットはまたメルクリオの頬を引っ叩く。
メルクリオ 「…話せと言ったから話した。…寝所に来いと言ったから抱いた。命令には従いました。」
スカーレット 「く…」
アカネ (メルクリオはスカーレットを嫌ってる…まさかもうプリマヴェーラに魅了されてるの!?)
スカーレット 「命令には従うのだな?なら命令する。お前は私のことをどう思っている?怖いのか?正直に答えろ」
メルクリオ 「…………怖くはない…………私は…………」
スカーレット 「ほかに好きな人でもいるのか?」
メルクリオ 「…………居ません」
スカーレット 「なら、私を愛せ。命令には従うのだろ?」
メルクリオ 「…………わかりました…………あなたを愛します…………」
スカーレット 「それが愛している態度か!!」
アカネ (いいぞ!スカーレット!その通りだよ!)
アカネはすっかりスカーレットの怒りに共感していた。
スカーレットは憎々しくメルクリオの髪をさらに引っ張る。
メルクリオ 「…………私は…………元々…あなたを…嫌ってはいない…」
スカーレット 「嘘をつくな!」
スカーレットは乱暴に彼の髪を離す
スカーレット 「不愉快だ!出て行け!」
アカネ (あ、れ…?殺されないパターン?これから?)
メルクリオは共寝係の服を着ると、スカーレットを見つめた。
アカネ (え…なに?なんでそんな…何もかも諦めたみたいな顔してんの…………?)
メルクリオ 「私は…嘘は言っていない…
あなたを好きではないけど…嫌ってもいない…
ここに来ることも…嫌じゃない…不愉快な気分にさせたことは謝ります…
では、命令に従い…下がります。
おやすみなさい…哀れな女王よ…………」
そう言ってメルクリオは寝所を出て行った。
スカーレットは怒ったままドアに背を向けて寝る。
アカネ (なにこれ…今までとパターンが違いすぎる…!
それになに?「哀れな女王」って…
こうして自分が気に入った男を無理やり呼んで寝床を共にするような人間は「哀れだ」って言ってるの?
でも…なんかしっくりこない…
「嘘は言っていない」のは本当っぽい気がするんだけど…
『ゲームのメルクリオ』は確かにこんな感じで
初めは全く心を開かない。
でも支配して、支配して、支配して…どんどん彼は調教されたようにスカーレットにメロメロになっていく。
これもそれなの?
ここはゲームの中の世界かもしれないけど、リアルだ。
彼のセリフにきっと何かヒントがある…
でも…………どれよおおおおお!!!
あああ、スカーレットが眠っちゃう!もうちょっと起きててよ!もっと考えさせてよお!!)
アカネの思いとは裏腹に、スカーレットは眠ってしまった。
アカネ (絶対…メルクリオには何かある…
今までの攻略キャラたちと違いすぎるもん…
覚えていろ!私!
彼のセリフ!態度!
スカーレットが起きても…記憶していろ…!)
そう願いながら、アカネはスカーレットの眠りの中に落ちて行った。
<第7話へ続く>