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【打開の翼】第16話「言っておきたい」
「…て、そういうのって死んだ人に思うんやっけか?」
「そんな決まりないです!物語ではそういうの多いってだけです!」
「ははは、成保は元気やて、しっかり一カ月で退院してくるて!落ち着いてや!」
「もおおお!」
夕食を終えて宿舎に帰ろうとしたとき
「おおーーい!」
「あ、昼間の…」
「いやー今日はホントにありがとう!お礼言えてなかったから。」
「そんなのいいのに…」
「俺等モノマネして遊んでただけやで?」
「モノマネ?」
「うちの隊長の。
俺の部屋で話そか?アホが入院しとるおかげで、2人部屋独占状態やねん」
充斗の部屋で3人テーブルを囲んで歓談する。
「そこ、入院しとるアホのベッドやから、座ってたっぷり屁ぇこいといて」
「ははは、ホントにいつも二人で一緒に居るんだねえ」
「寝室はちゃうで?」
「食事とかの話だよ」
「冗談やて(笑)、ていうか、一人欠けとるだけやねん。」
「3人組なの?」
「はい。」
「最少人数か…うーん…男2に女性1なら牽制し合って争いは起きないのかな…」
「三角関係バチバチになるかもちゃう?うちはなってへんけど。」
「男性2がカップルで女性が蚊帳の外ってパターンかもしれませんよ?」
「絶対ちゃうわ!!!」
「ははは!いやー…昼間の君らのおかげで、うちの隊、ガラっと雰囲気変わってさ…
男は…あ、そういや自己紹介してなかったね。俺は坂本。」
「俺は充斗。入院しとるのが成保や。」
「私は柚です。よろしくおねがいします」
「男どもは柚さんに夢中、女性陣は充斗さんにメロメロ。
凛々しくてかっこいい~ってもう!
でも食堂で二人でデートみたいに飯食ってる姿見て
手も足も出なくて指くわえてた(笑)」
「あーやっぱそう見えるんか…照れくさいな…」
「…当の本人ですら錯覚しますもの…」
「そんなんちゃうんやけどなあ…迷惑なんちゃう?柚ちゃん」
「え!?いえ、私は全然…あの…嬉しいです…じゃなくて!なんて言えば良いんだろう…」
「ははは、『気にしてへん』でええんちゃう?」
(はは…これは普通に割って入れないなあ…)
「せやけど、坂本さんの隊にそういう目で見られるんは困るな…ほんまにモノマネやったし…」
「こうして話すとホントに全然違うもんな。
隊長さんのモノマネだって言ってたけど…ああいうThe軍人みたいな感じの人なの?」
「あんなの序の口な人です」
「初顔合わせの時、成保のアホが柚ちゃんをナンパしようとして『軍人に性別は関係ない!!』ってどやされたんや。
しかも180越えの身長にゴリゴリのマッチョやで?」
「うええ…鬼教官かぁ…」
「戦士としてはとても厳しいけど、心根の優しい人です。」
「俺等のええとこ自覚さしてくれて、さりげのう改善点も教えてくれる。懐の大きい人やで。」
「そっか…羨ましいな…あ、うちの教官つか隊長に不満があるってわけじゃないんだけど…」
「隊長って教官も兼ねてるんですよね?」
「新人についてるのはそうだね。ベテラン隊員の中でも優秀な人がついてるんだと思う…んだけど…
うちのメンバーが悪すぎたんだよな…」
「ありゃ、匙を投げても文句言われへんで」
「戦場で喧嘩なんてありえないです…」
「あれでましな方なんだぜ!?
君らが居たから控えめだったくらいだよ…
でも君らの檄のおかげで、変わると思う。
君らに褒めてもらいたくて、チームワークを念頭に置いた戦闘をするようにすると思うし
男にモテたいとかお姫様万歳みたいなのはなくなるんじゃないかな。」
「そうなるといいですね」
「だって!一番好かれたい人が他の隊に居るんだぜ!?
絶対認められるような兵士になって残らないと!ってなるよ!あいつらなら!」
「姫より女王様の方が上やからな(笑)」
「兵士より騎士の方が上ですもんね(笑)」
「騎士ってガラかいな…」
「私も女王様ってガラじゃないですよ…でも充斗さんかっこよかったですよ?またあれやってください」
「かんにんしてや~…」
「…君らホントにカップルじゃないの…?」
「知らない声が聞こえたと思ったら…」
扉の外に隊長が居た。
「あ、見回りですか?」
「成保の私物を受け取りに来ただけだ。このリストの物が欲しいそうだ。」
充人はリストを見て絶句する。
「…………なんやねん!こんなもん入院生活に必要ないやろ!アホか!」
そう言いながらも充斗はぶつぶつ言いながらリストの物を袋に詰めた。
「本人の希望だから、適当にそろえてやればいい。」
「こちらがさっき言ったうちの隊長です」
「あ?私の悪口でも吹き込んでいたのか?」
「とても懐の大きい厳しさと優しさを兼ね備えてる方だとお伺いしました。」
「…………おだてても何も出ないぞ?と言うか貴様はどこの者だ?」
「あ!第8分隊の坂本です!お初にお目にかかります!」
坂本は起立して丁寧にあいさつする。性格がうかがえる。
「戦場で第1派撃破の後の休息中に会ったんです。
同期の方で仲良くなったの初めてなんで…ダメだったでしょうか…?」
「同期で仲良くしてはいけないという規則はない。
だが悪事を企てるために結集するのは許されない。」
「むしろ逆や。こいつの隊、ひどいもんやったで?」
「あ?」
私と充斗は坂本の隊の様子を話した。
「…………8と言うと…須川か…………」
「あの!隊長は一生懸命注意してくれたんです!俺たちがいくら言われても聞かないから…」
「響かない言葉しかかけられないのでは言わないのと変わらん!
しまいに職務放棄など言語道断だ!
須川は私が締めておく。脳なしの隊長をつけてしまって申し訳ない。
隊長職を代表して謝罪する。」
「と、とんでもないです…」
頭を下げる隊長に、坂本は恐縮する。
「詰めました。あとこれ」
「…………なんだこれ。成保はぬいぐるみがないと眠れないのか?」
「その子は俺の私物です。
あいつのいびきがやかましい時に投げつけとったんです。
エ〇本なんて準備させよるようなアホに俺に変わってぶつけたってください。」
「元気が出る実用書が使えるくらい回復したのだろう。許してやれ。
まあ、このぬいぐるみは常に視界に入るところに設置して見張り役にしてやる。」
「いや…それやと俺が覗いてるみたいやないですか…嫌なんで返してください。」
「ははは!」
隊長はぬいぐるみを充斗に返すと、成保の私物を持って出て行った。
「すごい…」
「ね?言った通りでしょ?」
「そうだね…物理的にも精神的にも大きい人だ…………つか…うちの隊長大丈夫かな…」
「大丈夫なことしかしない人やて。安心してや。」
「あの…お願いしたいんだけど…
俺たちの隊にもし会ったら、またロールプレイしてくれないかな…?」
「隊長のモノマネですか?」
「うん。あいつら、隊長風の君らに憧れちゃったから…」
「じゃあ、優しい時の隊長のモノマネの練習もせなあかんな」
「やる気満々ですね(笑)わかりました。成保さんも帰ってきたら3人でやります」
「あのアホにでけるやろか…」
「見て見たいです(笑)」
「せやな(笑)それは見たいわ。やらせよ。」
「君たちに出会えてよかった…ホントに…
自分の隊がめちゃくちゃだとは思ってたけど…どうしたらいいのかわからなかった。
たしかに憧れの矛先になってくれたのも大きいけど…
本物のチームワークの良い戦いを見れたのが1番の収穫だった。
良い見本は、どんな言葉での指導より優れた教科書だからね。
これからも、よろしく!」
坂本さんは私たち二人と握手すると自分の部屋へ帰っていった。
「…憧れられる隊で居続けなあかんくなったな」
「そうですね。でも、このままでいいんじゃないですか?」
「続けるっちゅーのは難しいもんや。でも…まあ俺等ならでけるか。」
「できますよ!モノマネさえ忘れなきゃ」
「ははは!それが一番難しいわ!」
笑ってた充人が視線を下げる。
「…………なあ柚ちゃん…………
夕飯食うてた時…………俺の言葉に気ィ遣ってくれたやろ?」
「え…………?」
「一瞬、顔色変わったやん」
「あ…………気にしないでください!」
「いや…………憧れられる部隊になるんやったら…………言うといた方がええ…………
ていうか…………柚ちゃんには言っときたい…………そういう気分なんや」
「…………」
「俺を抱えて飛べるか?」
「は、はい!」
「なら、消灯前に来てや。屋上で話す。」
「…………はい」
<つづく>
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