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【打開の翼】第10話「アイアンメイデン」
相変わらず巨大昆虫は襲ってきた。
私たちは先輩隊員たちが駆逐した跡地の確認を任された。
「こういう仕事もあるんやな…」
「戦わされるよりましやで」
「あれ…?なんかあそこの岩…おかしくないですか?」
近づいてみると色が違う石が不自然に積み上げられていた。
「先輩が作った目印やろか?」
「ならもう要れへんやろ。ややこしなっても困るから、壊しといたほうがええやろうな。」
充斗がハンマーを振り下ろすと、石の下に大きな穴があった。
「なんやこれ…蟻の巣の出入り口みたいやんけ…」
「中からかすかに音がする…入ってみるか…?」
「嫌やあああああああ!」
「いえ…違うっぽいです…人の声のような…」
「もしかしたら、誰かが迷い込んで閉じ込められたのかもしれへん!それやったら助けな!!」
『人が閉じ込められているかもしれない』と言う可能性がある以上、入ってみないわけにはいかなかった。
私たちはライトをつけて穴の中を進む。
地下道くらいある結構な穴だった。
長いこと歩いたが、なかなか生物には出会わない。
「風の音やったんちゃう?人の声に聞こえることあるで?」
「そうかなあ…」
「ちょ…ちょっと待ってな…上り坂しんどい…」
充斗が疲れを見せる。
「あーあー、そんなアーマー脱げや。」
「手に持って歩いても同じことやろがい!」
「あの…私たち…地面にあった穴に入ったんですよね?なんで上り坂になってるんですか…?」
「…………」
「山とかあったっけ?」
「崖っぽいのはあったけど…ぐるって回ってそっち行ったんかな…?」
「何か来ます!」
突然、巨大蟻が遠くから迫ってきた。
「え!?どっから沸いたん!?」
「何でもええから攻撃せえ!こんな穴ん中、逃げ場ないで!?」
充斗が前に立って盾になり、成保が手榴弾を投げて一気に駆逐する。
逃れた敵は私が仕留める。
死骸の近くに行くと横穴が開いていた。
「こっから来たんや」
「やっぱ蟻の巣やんけ!俺帰る!!!」
「あ、あ、人…」
私が指した方へみんなで駆け寄るとUDM隊員と思われる人の死体があった。
「ここを駆除しに来た隊の犠牲者か…」
「…い …………か …………のか?」
遠くから人の声が聞こえる。
「まだ生きてる人が居ます!」
「行くぞ!」
声を頼りに進んでいく。
途中横穴から蟻や蜘蛛が現れたが、なんとか駆除できる数だったので進むことができた。
「おおおい!誰かいるならなんか言うてくれーーー!!!」
「誰か…………こっちだ…………」
声がはっきりしてくる。
どのくらい歩いたのか、窪地に4人ほどの隊員が潜んでいた。
「大丈夫ですか!?」
「君ら…………新兵か?」
「はい…駆逐した跡地の確認を任されて…」
「クソ…君等じゃ無理だ…救援要請のビーコンは出せるか?俺のは壊れた。」
「はい!…………出しました。ここに置きます。」
「ありがとう…君らは来た道を帰れ…………俺は救援が来るまで待つ…………」
4人のうち二人はまったく動かないことに気づく。
話せている人も動けないようで、もう一人は息をするのがやっとなようだった。
「怪我されてるんですか?応急キットが…」
「無駄だ…………ここはもう…………酸素が…………」
「そういや…息苦しいな…」
「早く帰れ…………決して奥に行くな…………こいつらみたいになる…………」
瀕死の人は動かない二人を指さす。
ライトを当てると、無数の穴が開いていた。
「なんやこれ…………こんな穴どないしたら開くねん…………」
「蟻や蜘蛛でこんなにならへんで!?」
「蟻と蜘蛛しか会わなかったのか…………その道で良い…………戻れ…………
この奥には…………」
その時、嫌な羽音が聞こえる。
「あれだ!!!!あれが居るんだ!!!」
瀕死の隊員が叫ぶ。
「蜂!?あれ、蜂か!?」
確認する間もなく、それは針を飛ばしてきた。
成保はとっさにかわして虫を撃つ。
1匹だけだったので何とかなったが、近寄ってみると間違いなく蜂型のクリーチャーだった。
「この針に刺されたんか…」
「これならその痕がつくのも分かる…」
「それは…多分…………はぐれか…………最悪偵察…………
奥にはもっと居る…………さらに奥には…………早く…………逃げろ…………」
先輩隊員の助言に従い、ビーコンを置いて、来た道を戻ろうとするが…
「柚ちゃん…?柚ちゃん!?しっかりせえ!」
「固まってもうてる…顔、真っ青やで…?」
「蜂…………女王蜂…………」
蜂を見て怯える私を見て、充斗と成保は隊長からの報告を思い出す
『彼女の所属していた分隊は…巨大蜂の巣の最奥で全滅した』
「ヤバいで…隊長の話やと…柚ちゃんは…」
「こいつの親玉にやられたんや!」
私は二人が何か小声で話しているのにも気づかず、こわばる体の中、勝手に言葉が出る。
「アイアンメイデンって知ってる…?」
「イギリスのヘヴィメタル・バンドやろ?」
「そっちちゃうやろ!」
「アイアンメイデンは中世の拷問具…
人が入れる人形で…中に無数の針がついてる…入れられた人は串刺しになる…」
「柚ちゃん!アイアンメイデンは架空の拷問具や!そんなんはあれへん!」
「あの蜂は針を飛ばすの…
無数の針で刺されて…四方八方から…それこそ…アイアンメイデンに入れられたみたいに…」
(あかん…!このまま柚ちゃんに蜂を見せたら心が持たへん!)
「後退や!成保!ええとこ探してくれ!」
「こっちや!」
「知っとんのかい!」
「俺はいつでも虫の居ない所を見つけながら動いとるんや!」
「…虫嫌いも役に立つやんけ…いざとなったら逃げる気やったな…?」
「やかましいわ!今がその時や!」
硬直してうずくまる私を抱えて、二人は必死に安地へ向かう。
しかし、元来た道は蟻や蜘蛛であふれかえっていて、とても進めなくなっていた。
さらにさっきの蜂は最悪の偵察だったようで、羽音が迫ってくる。
羽音を遠ざけるように穴を進み、なんとか窪地に逃げ込むと
ビーコンを出して他の隊が来るのを待つ。
「俺がここに立って壁になる。援護が来るまで動くんやないで!」
充斗が前に盾をかざして立ち塞ぎ
頭を押さえて震える私を成保が支える。
「ダメ…無数の針が…」
「柚ちゃん!!」
成保が私の肩を掴んで顔を近づけ、目を合わせる。
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