虎に翼を、弱者に盾を
今月から始まったNHK朝ドラ「虎に翼」が面白い。
主人公の寅子(ともこ)は、「結婚して家庭に入ることが女の幸せ」と主張する母の反対を押し切り、法律が学べる大学の女子部に進学する。
自分の腑に落ちないことや、看過できない言動に「はて?」と声を上げ、しっかりと自分の考えを相手に伝える。それが大学教授相手であろうと、共に法学を学ぶ仲間であろうと、寅子はぶれない。
抑圧されがちな女性達の先陣を切るように突き進む主人公を見ていると、実に清々しい。その聡明さと明るさに、こちらまで背筋が伸びる。
先週は、離婚調停で勝訴した女性(夫から控訴され事実上離婚は成立していない)が、母から譲り受けた着物を返して欲しいという別の訴えを起こす話に焦点が当たった。
たまたまその裁判を傍聴した寅子が、現行法で「夫は妻の財産を管理する」ことになっている事実に疑問を呈しつつ、どんな判決が出るか学生間で話し合い、最後には女学生達で法廷に行き判決を見守るというもの。
六法全書に書かれた法律を文字通り適用するならば、妻側に勝ち目はない。
まだ正式に離婚が成立していない以上、夫が妻の財産を管理するという法に縛られ、着物が返却されることはないというのだ。
果たして、裁判長はどのような判決を下すのか。
(以下、判決のネタバレ注意)
実はこの事案、昭和10年に実際にあった裁判を元にしたのだそうで。
ドラマでも実際の裁判でも、「あからさまに相手への嫌がらせ目的で着物を返却しないというのは“権利の濫用”にあたる」として、裁判長は着物を返却するべしと判決を下した。
傍聴席を埋め尽くす女学生や、夫の横柄な態度が、裁判長の判断を後押しした側面もあるのかもしれないが、それでも胸のすく思いがした。
寅子を演じる伊藤沙莉さんの溌剌とした感じがとても良い。
不満そうな顔だったり、弾けるような笑顔だったり、毅然とした態度だったり。
元々彼女に好感があったため期待値高めで見始めたけど、それを上回る熱意が伝わってきてこちらも胸が熱くなる。
そして、米津玄師の主題歌が流れるオープニング動画も良い。Youtubeのリンクを貼るので、ぜひ試聴していただきたい。
「土砂降りでもかまわず飛んでく その力が欲しかった」で目のアップになるところが特に好き。目に宿った静かな闘志のようなものが伝わってくる。
激しい怒り、深い悲しみ、苦しみ、諦め。
過去から現在に至るまで、あらゆる局面で女性達はそれらを我慢してきたと思う。
それは法において弱者であったという事実もあるし、脈々と受け継がれてきた暗黙の「男尊女卑」や「家父長制」がそうさせてきた側面もあるだろう。
タイトルの「虎に翼」は、「強いものにさらに強いものが加わる」という意味だという。
これから更に法を学び弁護士資格を得ることで、寅子は闘う翼を得る、という意味だろうか。
無言の圧力に捩じ伏せられてきた女達に、立ち上がる力を。理不尽を撥ねつける力を。
あのオープニング動画の光弾ける目の中には、そんな思いが宿っているように感じる。
寅子と共に法を学ぶ仲間の一人は、法とは何か問われてこう答えた。
「法は力を持たない私達がああいったクズをぶん殴れる唯一の武器だ」と。
対して、寅子はこう言った。
「法は弱い人を守るもの。盾とか、傘とか、あたたかい毛布とか。そういうものだと思う」「私、盾なの。盾みたいな弁護士になる」と。
どちらもきっと正しい。
事実として、法は武器にもなり、盾にもなる。
だけど絶対に「被害者を更に追い詰める武器となり、加害者を必要以上に守る盾となる」ことがあってはならないと、私は思う。
そして、女性や弱者に対して適用される時と男性や国の権力者に適用される時とで、判決の大きな乖離があってはならない。
では実際問題、現代社会において法は正しく機能しているだろうか。
お金がなくてコンビニでパンを万引きしたお爺さんが逮捕されて、50億円もの裏金を作った二階幹事長が法の裁きを受けないのはなぜか。
何十年にもわたる虐待の果てに自ら親を殺した子供が懲役20年を超える実刑判決を受けたのに対して、自分の子供に熱湯をかけたり食事を与えず放置したり床に叩きつけたりして殺した親が懲役4年や6年程度に留まるのはなぜか。
一般国民、政治家、親、子、妻、夫。
立場が変わるとなぜこんなにも法の裁きまで変わってしまうのか。
誰を守りたいんだ。誰のための法律なんだ。
私達は寅子のように「はて?」と思わなければいけないし、理不尽にはNOと声を上げなければいけない。
今、新しく成立しようとしている「共同親権」に関する法改正をご存知だろうか。
知らなくても無理はない。政府もメディアも国民に広く知らせず、20万筆を超える署名を無視し、2024年4月12日にこの改正法案を衆議院の賛成多数をもって通過させてしまったのだから。
ニュースや新聞で共同親権の問題点について取り上げられたのは、衆議院で可決された数日後になってからのことだった。あからさまに意図を持って水面下での成立を目論んでいたのが、これでよく分かった。
Twitter(現𝕏)では、「#共同親権を廃案に」のハッシュタグで毎日何百件も講義の声が上がっている。リアルな当事者達の声だ。
DVを受けて子供を連れて逃げた人、性的虐待から子供を守るため離婚した人、子供のお金に手を付けてまでギャンブルをする配偶者を見限った人。
こういった理由で離婚に至った元配偶者に、子供の教育や財産管理に意見する権利を与える必要はないと、私は思う。
契約は破棄できるものであり、破棄できない契約など認めてはいけない。
結婚生活において配偶者との契約を破った相手に、子供の尊厳を踏みにじった相手に、引き続き親としての権利を与えるとは。子をかすがいとして離婚後の夫婦を縛り付ける正当性とは。はて?
私達一人一人の中にも虎がいる。気付いて、勇気の翼を授けるのだ。臆せず立ち向かえ。
そして今まさに翼を焼かれて苦しんでいる弱者の盾となれ。100年先にまでこんな理不尽を残してはいけない。
寅子のようなかつての女性達が、私達女の人生を変えようと努力してくれたから、今がある。今度は私達がその矢面に立つ番だ。
虎に翼を、弱者に盾を。
もし共同親権に反対の立場の方がいらっしゃいましたら、オンライン署名へのご協力をお願いいたします。