きゃんたまカプチーノ先生
「私は、カフェカプチーノ」
残念だが、老舗の焼き鳥屋にカフェカプチーノは無い。恐らく、いやほぼ確実にカフェカプチーノが置いてある可能性がある焼き鳥屋は、ドリンクバーとかを設置してる巨大チェーン店とかだろう。
そんな店は見たことはないが。
「すみません、ドリンクメニューにないものは取り扱っておりませんので……」
至極まっとうな返答を食らってる目の前の老紳士は、真顔でこう切り替えす。
「私は、カフェカプチーノ。私の名前は、カフェカプチーノだよお嬢さん」
「え? あ、え、はい。ご親切に……どうも……」
自己紹介だった。なんで注文を取りに来た店員さんに自己紹介を始めたのか、気にはなるが触れないでおく。俺はこのカフェカプチーノと名乗る老紳士のことは何も知らない。
ただ、酒を奢ると声をかけられてついてきただけだ。
「私はウイスキーをストレートで。銘柄は何でも構わないよ。彼はビールかな?」
「あ、はい。ビールで」
「かしこまりました。ウイスキーストレートと、生中ですね」
老紳士は自分のおしぼりを、俺に手渡してくる。
「私はマイタオルを持っているのでね。それで、拭くといい」
俺は新人ホームレスだ。身なりも諸先輩方ほどではないが、綺麗とは言えない。軽く会釈だけして受け取り、ホカホカのおしぼりで顔、首、多少目は気になるが脇あたりまでゴシゴシと拭いてやる。生き返った気分だ。
「君は、私の事を怪しいと思ってるようだが、なあに。ただの暇と時間を持て余した老紳士だよ」
自分の事を老紳士というやつは、おそらく狂っている。だが、奢ってくれるならなんでもいい。
「唯一の趣味が、こうやって君のような暇と時間を持て余している若者と一緒に食事をすることなんだ」
今年で40の俺だが、確かに老紳士に比べたら若いだろう。
「君、もしも……働き口がないというのなら、私が紹介しようか? あくまで、君がそれを求めているのなら、という話ではあるが」
「俺は……まあ、働けるなら働きたいけど……」
焼き鳥を奢ってもらえるだけでも僥倖だというのに、まさかの就職まで降ってくるとは思わなかった。この老紳士、怪しくはあるが足長おじさんなのかもしれない。
「実はね、私のきゃんたまになってほしいんだ。時給は2000円。時間は夜の時間が好ましいが、君の予定も鑑みて要相談可能だ。仕事場は私の家、あるいはホテル、公園、それこそこういった酒場で……なんてこともあるだろうな」
「それって……」
きゃんたまになる、というのはどういうことだ。
この老紳士の代わりに、誰かと性交渉を行うとかそういうことなのだろうか。自分の愛人を抱かせる、とか。もはや金持ちすぎてそんな捻くれた楽しみしかなくなってしまっているのかもしれない。
時給もいいし、何よりそれが仕事になるのは最高だ。セクシー男優と違って、俺は老紳士のきゃんたまなのだから、気が乗らないなんかピンと来ない、と言って相手を選んでもいいかもしれない。
「例えば俺の気が乗らなかった場合は、きゃんたまとして……」
「ああ、その場合はスンとしておいてくれて構わない。それがきゃんたまだからね。リアルなきゃんたまであってほしい」
いよいよ最高だ。言質は取った。
「わかりました。僕はあなたのきゃんたまになります!」
「ありがとう!
ビールを飲むと物凄い眠気に襲われて……目が覚めると俺は老紳士の右きゃんたまになっていた。
本物の右きゃんたまに。
俺をサポートしてくれたらどうなるか。 マニフェストを考えてみました。 頑張って幸せになる。俺が。 あなたを幸せにできたらいいな。 以上! マニフェストって、もう使わないですね。意味もよくわかってないけど。