小島さんのお弁当
小島さんにお箸を、割り箸を借りてからというもの、なぜかお昼は一緒に食べることが日課になってしまった。
この場合、なってしまったって言い方はよくない。まるで全く望んでいなかったかのような言い方だ。
まあ、望むも望まないも、想像すらしてなかったことが起きてるわけだから、なってしまったでいいのかもしれない。
お箸を借りた翌日、割り箸を返すってのも変な感じだけど一応借りたものはちゃんと返せとお婆ちゃんから教わって生きてきたもので、割り箸を返しに行ったら、小島さんのお弁当が中々の豪華さで、一人じゃ食べきれないという話になって一緒に食べることになった。
小島さんは、小島さんのお母さんに学校で始めてクラスメイトとお弁当を食べたと伝えたらしい。
それは小島さん的には親孝行で、お母さんは小島さんに友達がいないことをとても心配しているから安心させてあげようと思っての行動だったらしい。
ちなみに、家族は小島さんが人の心の叫びがぼんやり聞こえるというラノベ能力を持っていることは知らないらしい。
らしいらしいばっかりで申し訳ないが、全て小島さんから聞いた話なのでらしいとしか言いようがない。
そして、お母さんは友達と沢山食べれるようにとお弁当を大奮発。
小島さんは自称かなりの大食いらしいが、さすがに重箱4段は半端じゃない。
とりあえず僕にも責任があるし、昼食にご一緒させていただきやす! へい! ってなもんで、一緒に重箱と戦ってるってわけだ。
一段目。鬼のように詰め込まれているカニクリームコロッケ。
カニクリームコロッケ工場の娘さんなんだろうか。小島さんは。
「違うよ。お父さんは公務員でお母さんは専業主婦だよ」
二段目、ピーマンの肉詰めが、ぬめっしり。みっしりやぎっちりを超えてるので独自の擬音を作ってみた。ぬめっしり。
「ジューシーだから、ぬめって感じも何となくわかるね」
三段目は、強豪野球部の合宿でも逃げ出したくなるぐらいにおにぎりがぎゅうぎゅうに詰め込まれている。きっとお母さんの愛情もぎゅうぎゅうに詰め込まれてることだろう。
「具には明太子がぎゅうぎゅうに詰め込まれてるよ」
そして四段目は、果物、と思いきや唐揚げ。唐揚げ!? あれだけカニクリームコロッケがあったのに!?
「ご、ごめん。私が唐揚げ大好きだから……」
「っていうか、ごめんね。こっちこそ。心の叫びに返答させて」
「ううん、案外受け入れてくれるんだなって思って気楽だよ」
まあ、受け入れたというか、受け入れざるをえないというか、人から聞いた話だと信じないだろうけど実際に体感したわけだからもう、受け入れ態勢を取る以外に道はない。
「すごいね、小島さんのお母さん。こんなお弁当用意するの大変だったろうに」
「とにかく嬉しすぎたんだろうね。私に友達ができたって思ってるから」
いや、僕達は友達だよ。
と、言えるほどまだなんとも関係性ができていない。
だけど、小島さんがよいのであれば、奇跡的によいのであれば、友達だって思ってもらうことでお母さん的にも、まあうまいこといくのであれば、その、なんというか、友達だと断定してくれて構わないのだが。
「ほ、ほんと!?」
口に言わずとも、心で伝えるというなんかズルいことをしてる気がして僕は俯いた。
そして、小島さんの反応を見てから口にするのなんて本当にズルいと思ったけど、僕は口にした。
「と、友達でいいんじゃないかな」
「……うん」
きっと、心の叫びが聞かれると今後大変なこともあるかもしれないけど、とりあえず心を無にする練習とかしながら、高校で初めて出来た友人との昼食を楽しむことにしよう。
そう思ったら、小島さんはニコリと笑ってこう言った。
「それなりに、心の中で叫ばないとあんまり聞こえないから大丈夫だよ」
結構小さ目で呟いたのに聞こえてるじゃないか、と思ったけど、その笑顔に対して変なことを叫んでしまわないうちに、僕はお弁当にがっついた。
「ああもう、美味しいね! カニクリームコロッケ!」
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