51ツアーの移動距離
さだまさし51周年目のコンサートツアー「51」、今回のツアーは「旅」にちなんだ歌をテーマに、「常軌を逸した機関車」の「マS48」「サシR6」(全く重たくて動力のついていない食堂車:昭和48年~令和6年)が牽引して各地に訪れるミステリーツアーという舞台設定で執り行われました。
旅をテーマにしているということで、歌われた歌も、その舞台の場所が明確にイメージできるような歌も多く、音楽を通じて2時間半の小旅行を仮想体験するような雰囲気のコンサートでした。
この記事では、「じゃあ、歌の舞台を実際に巡ってみたら、どんな感じになるのか」を、セットリストをもとに追っかけてみたいと思います。もちろん実際に旅をするには時間が足らないので、あくまで机上でトレースしてみました。
なお、今回記載するセットリストは、U-Nextの配信で取り扱われた範囲に絞っています。アンコールの一曲はお楽しみにしている人も居ると思うので触れていません。
驛舎(長崎駅 - 0km)
オープニングアクトは驛舎。歌詞の中で具体的に長崎駅を示すような言葉は出てこないですが、さださんはトークなどで度々「故郷長崎駅の1番ホームをイメージして作った」と仰られています。
都会で夢破れ、ボロボロになり逃げ帰って来た若者を、故郷が無条件で優しく迎えてくれる、そんな情景を終着駅を舞台に描いた歌です。もちろん、この作品には夢に挫折し故郷に帰った若きさだ青年の実体験も色濃く反映されているのだと思います。
始発駅でもあり終着駅でもある長崎、さださんの生まれ故郷の長崎、ということで、今回のツアーのオープニングには最もふさわしい選曲だと思います。
それぞれの旅(高森駅 - 240km)
それぞれの旅は1984年の国労キャンペーンのテーマ曲として採用された曲のようです。「国労キャンペーン」とはいったい何かよくわからず私も過ごしてましたが、あらためて調べてみると国鉄の民営化(JR化)に反対する活動だったようです。国鉄の労働組合により主導されており、当時はこの「それぞれの旅」を使ったTV CMなども流れていたようです。
歌の内容としては、新しい旅に出る二人の若者の姿を「鉄道」での旅路に喩えた歌になっています。個人的には「一人旅なら父から教わった 母からはそれが帰るための旅だと」 という歌詞が印象的です。
この歌も明確な地名は歌われていないですが、国労キャンペーンに関連したコンサートが1984年には何度か行われていて、そのうちの一回が「高森線廃止反対・阿蘇国立公園50周年記念・国労ローカル線コンサート」というコンサートだったようで、高森駅近くの南阿蘇国民休暇村で開催されました。高森駅はこの歌の情景にも近いと思い高森駅ということにしました。
高森線は廃止になりましたが、第三セクターに移管され、南阿蘇鉄道として今も現役です。

長崎駅から高森駅まで行こうとすると、2つの新幹線(西九州・九州)を乗り継いで4時間くらいかかるようです。車だと240km。

熊本まで出るなら、島原鉄道で島原駅まで周り、そこからフェリーで熊本へ出たほうが旅情があって良いかもしれません。
指定券(東京駅 - 1,460km)
指定券は、さだまさしさんのソロデビューアルバム「帰去来」に収められている1曲。CDでは楽曲の冒頭で列車のアナウンスが収録されていますが、こちらは当時運行されていた東京駅発の「特急さくら号 佐世保・長崎」の発車アナウンスのようです。
歌の中で「北口改札を仔鹿のように」というフレーズが出てくるのが印象的です。仔鹿のような振る舞いってどんな感じだろう…と思ってYouTubeで調べてみましたが、多分こんな感じなんでしょうか。
なお東京駅の北口改札は一応「丸の内北口」という形で現存しています。丸の内オアゾ側に抜ける方面の改札口です。
高森から東京までは、鉄道を用いると新幹線を乗り継いで8時間くらいの旅になります。車での移動を基準にすると、距離は1220km。距離はGoogle Map調べの概算。一桁台の数字は切り上げてます。
高森からは空港も近いので、熊本空港に出て羽田までフライトするのが最短経路かもしれません。

決心-ヴェガへ(花巻駅 - 1,960km)
おそらく結婚をするため違う街へ覚悟を持って出かける人に対し、故郷が暖かく送り出してくれる、そんな歌です。
歌の中に具体的な地名は出てこないですが、「ペルセウスの流れ星」「銀河鉄道」という言葉が出てきており、確実に宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の情景をモチーフに描かれた歌です。この歌で「夜汽車に飛び乗った」駅も、花巻駅であってほしいなと思います。
実際に過去に夜汽車(寝台列車)が花巻駅に停車していたことがあったかは調べきれませんでした。最近まで観光列車として「SL銀河」という列車が運行されていましたが、その起点は花巻駅だったようです。
そんな状況のため、現在花巻駅へ訪れる(もしくは花巻から出かける)手段は、これもまた新幹線というのが現実的になりそうです。新幹線は便利ではありますが、旅情というものが昔のそれとは変質してしまい、特にさださんの楽曲の情景とは親和性が低いなとは感じてしまいます。新幹線で約3時間、車で500kmの距離です。

東京 / 1989年渋滞 (羽田空港 - 2,460km)
2曲、東京を舞台にした歌が続きます。
「東京」という歌は、東京で生まれ育った恋人と別れ、故郷に戻る姿を、きらびやかな東京の夜景に心象風景を写しつつ描いている曲です。
セットリストの順番に何かストーリー性があるわけでもなく、作品として作られた順番もバラバラですが、「決心」で「夜汽車に飛び乗って」あれだけの決心で故郷を離れた人が、この「東京」では悲しく故郷に戻ってしまうことになったのだろうか…と勝手にハラハラしながら聴いていました。
「渋滞」は、個人的に渋谷の山手線あたりの情景を描いていると勘違いしていましたが、「渋」つながりで誤解してただけでその線はなさそうです。どちらかというと、さださんが若い頃に住んでいた「市川」周辺、日本で一番混雑する路線の一つ「総武線」の情景なのかなとは思います。
いずれの歌も、具体的な舞台の場所までは特定が難しいです。「東京」は確実に羽田空港が舞台になっていると思いますが推測の範囲です。距離的には誤差の範囲なので、移動距離は花巻-東京の500kmということにしておきます。
北の国から(富良野駅 - 3,710km)
ドラマ「北の国から」の主題歌。具体的な歌の舞台が最もイメージしやすい歌かもしれません。ツアーでは「本当は歌う予定がなかったんだけど~」とトークで話してましたが、私が参戦した3回中3回とも歌っていました。
北の国からの舞台となる駅は、正確には「布部駅」だったと思いますが、2016年の豪雨災害の煽りを受けて根室本線が部分廃線になり、その影響で近年廃駅となってしまいました。
東京から富良野には、鉄道でももちろん訪れられますが、旭川空港もしくは新千歳空港まで飛行機で移動するのが現実的です。
「東京」で夜の便で羽田を後にしたとすると、旭川への便は AirDo の87便(17:15発)か、JAL の557便(17:30発)あたりでしょうか。新千歳空港行きだと21時台まで便が存在します。

車で移動しようとすると、道路だけでは無理なので途中でフェリーに乗る必要があります。おおよそ1250km。
Pineapple Hill / ジャカランダの丘(マウイ島 - 10,000km)
機関車の旅だというのに、ハワイにまで足を伸ばしてしまいました。さださんはトークで「桃太郎電鉄みたい」と言っていました。
どちらの曲もマウイ島を舞台にした曲になっています。先日のマウイ島の山火事でさださん思い出の場所は消失してしまったと嘆かれていましたが、「ジャカランダの丘」の舞台になったジャカランダの木は無事だったそうです。
[ジャカランダの丘]に描かれた木マウイ島の山火事の被害を受けず無事だったようです。#Taiziharada https://t.co/ghvFlS97pr pic.twitter.com/eXqtvZkTuA
— 原田泰治 Taizi Harada (@Taizi_Harada) May 27, 2024
さださんのトークを聞くと、当時は日本からマウイ島のカフルイ空港までの直行便があったようですが、現在は直行便はなくホノルルでの乗り継ぎが必要なようです。コロナの影響なのか山火事の影響なのか、その経緯は詳しくは把握していません。

日本からカフルイ空港までの距離はおおよそ6290kmだそうです。
51 / Believe / いのちの理由(東京駅 - 16,290km)
3曲いずれも「旅」というテーマからは逸脱している曲に思えますが、このコンサートツアーの根幹をなす、クライマックス的な3曲でした。
人生という旅を積み重ねてきた人の「心の居場所」について問いかける、そんな選曲だったように思います。
「51」では、オリジナルに改変も加わり、アメリカだけでなくウクライナ、ガザなどを取り上げる内容になっていますが、これはそれらの地域を旅したというよりは、TVニュースで流れる凄惨な内容に心を痛めるという情景かと思います。
移動距離的には、ハワイから6290km離れた東京に戻ってきたよ、という事にしておきます。
まほろば(近鉄奈良駅 - 16,750km)
「まほろば」の舞台は「春日大社」。もしくはその周辺の春日山、飛火野あたり。さださんも何度か春日大社にて奉納公演も行われています。
今ツアーのセットリストの中、これだけ多くの場所を移動し、様々な出会いと別れ、様々な人生の追体験を繰り返した結果、最終盤に「人生、確かなものなど何もない」とこれ以上ないくらい救いの無い歌を絶唱し、聴き手を全力で突き放すのは、正気の沙汰ではないなと思います。笑。
耳障りのよいポジティブな言葉を並べてるだけのミュージシャンのライブとは、得られる体験の質が根本的に異なるな、と改めて感じさせられる、これがさだまさしコンサートです。

移動距離は460km。ただし「まほろば」は悠久の歴史の中に誘われる旅のため、その距離はマウイ島までのそれよりもずっと長大なものだと思います。
空蝉(??? - ??? km)
そして本コンサートにおける最大の問題作が「空蝉」。最後にこの絶望的で救いの無い曲を持ってくるのか…、という話もありますが、場所特定班からしても極めて特定難易度が高い曲です。
人里離れた、おいそれと人がいないような秘境駅を想起させるような歌詞にはなっていますが、「駅員」が居る事から「有人駅」であることが確か。そして「急行が駆け抜けた」こときっかけにアナウンスが行われるので、「急行停車駅」であろうことが想像できます。(急行通過駅だったとしたら、通過後に「今日の予定は終わりました」とわざわざアナウンスする事は考えにくい)
とすると、イメージと反して、結構大きな駅、ターミナル的な駅、だけれども人影少ない閑散とした駅なのでは…という推理が成り立っていくわけです。
しかし昨今の労働者不足もあり、都会の駅ですら無人化が進む今、この「空蝉」の情景にマッチするような駅を探すのは現実的には難しいのかもしれません。最近は「急行」と呼ばれる電車も特にJRでは激減し、定期運行をしているものはありません。そのことも、難しさに拍車をかけています。
「特急停車駅」も含めてよいだろう、とした場合、私のイメージの中では宗谷本線の「豊富駅」とか、そういう規模の駅を想像しています。しかし豊富駅も今は無人駅となっています。もちろん「空蝉」が作られた1979年ころには有人駅だったとは思いますが。

ということで、あまり細かいことを気にせずに、エピローグの「驛舎」の舞台である長崎駅までの道中のどこかの駅、ということにしておこうかなと思います。
それぞれの旅 / 驛舎(長崎駅 - 17,540km)
コンサートのエンディングは、オープニングで演奏した2曲のインストをBGMに、スタッフロールが流れる、という演出で幕が下ります。
長崎駅から出発し、終着駅も長崎、この演出は非常に素晴らしいなと思いました。様々に巡る人生のミステリーツアーを、さださんありがとう、と心から思える体験でした。

春日大社から長崎までの移動距離はおおよそ790km。
なお、アンコールの最後の曲は、長崎の海を舞台にしている、と私は想像して聴いていました。
まとめ
上記の内容を表にまとめると以下のようになります。

曲の舞台となった場所、移動距離算出方法等々、色々と異論反論はあると思いますが、さだまさし好きをこじらせた人の「戯れ」と甘受いただき、ご笑覧いただければ幸いです。
おまけ:ツアーの総移動距離
おまけとして、実際の「51ツアー」の会場をめぐり、トータルでどの程度全国を移動したかも概算してみようと思います。
距離は車での移動を想定し、会場間の道路の距離を Google Map で調べたものを貼り付けています。

全29都道府県、34会場を巡るツアー、恐ろしい事にこのツアーを完全踏破し「ご当地ワッペン」をコンプリートしたという強者もさだまさしファンの中にはいるらしいです。
楽器をトラックで運搬するスタッフとともに、ツアーを完走されたファンの方々にも「おつかれさまでした」と言いたいです。