犬の話 その5
犬が来てから一年余り、家族として定着してきた頃のある朝、台所にいると犬の居る中庭沿いの縁側から義母が私を呼ぶ声がした。
「ちょっと、早く来て!犬がいるのよ!」
頭の中に?が浮かびながら、慌てて行ってみる。
うちの犬の足元に二周り位小さな犬がじゃれついている。 うちのこはなんだか困惑した様子でウロウロしている。
「あら、どうしたんです、その子」
「雨戸を開けたら、いたのよ。何処から来たのかしら」
2、3ヶ月の子犬に見えるが、痩せて首輪もしていない。うちの子のお腹の下にもぐりこもうと追いかけている。
「お腹が空いているのかもしれないですね」
と義母に言ってドッグフードを出してみる。
目の前に現れた食器にいきなり前足を突っ込むとガツガツ食べだした。二人足す一匹はただ唖然として見守った。うちのこは自分の食器で食べられているのに怒りもせずにポカンと見ていた。
義母は
「だいぶ汚れているわね。うちのこにノミが移ったら困るわよ」
と言って友人に会いに出掛けて行ってしまった。
さて、どうしたものか。義母の言葉を考えながら子犬を撫でてみる。おとなしい。
夕方義母が帰ってきた。
「あの犬どうした?どこかに行っちゃった?」
「まだ居ますよ」
「ふうん。あら、なんかきれいになったみたい」
「はい、洗いましたから」
「えっ、洗ったの」
「ノミが移ったら困るって仰ったから」
義母は苦笑しながら
「そう言えば追い出すと思ったの。貰い手を探さないとね」
と言った。