犬の話 その3
子犬は最初の頃は知らない場所に連れられて母犬も居ないので夜は心細げに鳴いていた。少しでも早く我が家に馴染んでほしいと心を砕いたかいがあってすぐに夜もよく寝て鳴かなくなっていた。
そんなある日、私達夫婦が私の実家に行くことになった。実家は遠く何日か滞在するが、犬を連れては行けなかった。申し訳ないが義両親に留守中の世話を頼まなくてはならない。まだ子犬なので散歩も短時間で良いし、それほどの手間は掛からないはずとは思っていた。義母も大丈夫と言ってくれ、まだ働いていた義父は、勤めの前後に散歩に行ってくれると言う。1週間足らずのことだから大丈夫とは思っても、考え出すとあれもこれも心配になる。
思い余って頼み事を箇条書きにして義母に託した。
食器は食べ残しは捨てて毎回洗ってほしいが洗剤は使わないでとか、水は何回か替えてほしいとか全部は忘れてしまったが、結構細かく注文した。
A4数ページの用紙を受け取ってざっと読んだ義母は
苦笑しながら「まるでナルちゃん憲法ね」と言った。
(恐れ多いことではあるが、その昔現在の天皇陛下が幼少の砌、海外にお出ましになる当時の美智子皇太子妃が留守中の注意書きを示された文章が「ナルちゃん憲法」と呼ばれていました)
無事に帰宅した時には忘れずに迎えてくれた犬と感激の対面となった。元気な様子にホッとしたが、義両親もやれやれと肩の荷を下ろした様子だった。その後しばらくは帰省の度にその文章を活用していた。
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