十條湯-①
これは脚本家の卵、書溜直道の話である。書溜は東十条に住んでいる。家賃5万5千円、駅まで徒歩15分の1Kの家が書溜の根城である。
書溜は目が覚めた。特に夢も見る事もなくいつも通りの朝であった。大体いつもこの様に目が覚める。そして一瞬お昼ご飯の事を考える。
大体こんな感じで書溜の1日が始まる。
今日の書溜はやる気が起きない様で、搾かすの様な仕事も手に付かない。こんな売れない脚本家でも多少なりともそれらしい振る舞いが行える事に残酷さを覚える書溜であった。
書溜は携帯を手に取り自分の予定を確認した、今日は丸々何も予定もない。バイトのシフトも入っていないのでダラダラとテレビを見る事にした。テレビを付けると占いコーナーが流れていた。
テレビの中には最近人気の潔癖系占い師「超潔癖」が出演していた。潔癖と占いをミックスさせてどんな悩みも潔癖に解決するのである。しかし、締めの言葉は「人生綺麗事では済まないよ」である。書溜はなんだこいつと思いながら何故かしょっちゅう見てしまう。
コーヒーを飲みながらテレビを見ていた書溜はテレビの中の朝潔癖は「テレビの前のコーヒー飲みながらやる気なさそうな顔しているお前、今日はサウナ行け、以上」
書溜はコーヒーをぶちまけた。「こいつ、見えてんのか?」辺りを見回して、少し身震いした。
書溜は銭湯に行く事にした。「十條湯」は家から歩いて15分ほどで到着した。十條湯には深海というカフェが隣接しており、お洒落な純喫茶である。サブカルが好きな奴らこの場所に気づいたらはよだれを垂らしながら集まってくるだろう佇まいである。
せっかくなので深海でコーヒーと軽食を頼んだ。全てカウンター席となっておりキッチン側とキッチンを背にした外が見える窓側にそれぞれ6席程座れる場所があった。書溜は窓側の席に座り、カフェオレとツナサンドを注文した。書溜は注文の後、恐ろしくなった。一般的なツナサンドには胡瓜が入っている事が多い。書溜は胡瓜が嫌いである。机の上に置いてあるシーシャの名刺を見るふりをしてキッチンに目を向けようとする書溜。しかし絶妙な具合で見れない、店員さんの手際のいい所作が見え、調理の音だけが聞こえていた。