狛江湯
久しぶりにサラリーマン時代の後輩とご飯に行った。今ではお互い前職から転職しそれぞれ別の仕事についている。もう早いもので自分も転職してから2年が経とうとしている。なんだか全然上手くやれていないなと落ち込む事ばっかりである。悩み事も多いし、フリーランスなんて皆さんやるべきではないですよ、マジで。僕とは対照的に後輩は外資系の会社に就職し、そっちはそっちで激務の中頑張っているようだ。
一緒に働いていた時は、絶妙にポンコツで、というかアホで、よく狂った上司に怒られていた。僕の一年後、退職する事になった彼であるが、僕が受け持っていた得意先を引き継いだ事もあり、よく電話で話していた。前職時代を知っている分、当初は外資系の転職を僕は反対していた、なぜなら外資系といえば実力勝負であり、成績が良い人はその分給料が増えていくが悪ければ肩身が狭く、もしかしたらクビなんて事もあるのではないのか。そんな厳しい環境下でこいつはやっていけるわけないと僕は思っていた。しかし、久しぶりに彼と会って話してみたが、僕が思っていたよりも上手くやれているようだった。相変わらず上司には恵まれていないようだが。
仕事はなんとかやれているようで安心したが僕にはもう1つ気がかりな点があった。それは彼のご両親である。当時同じ職場の時も少し話を聞いていたが、なかなかパンチの効いたご両親で、社会人としてなんとか進み出した我が子をずっと保護下に置いておきたいような親だった。「親バカ」というか今でいう「毒親」という表現に近いのかもしれない。僕が初めてその話を聞いたのは、彼が「父親とゴルフに行く」というイベントがあった時であった。言葉だけを見ると何とも仲睦まじい、世の中の親子のお手本のようなイベントであるが、なんだか父親とのやりとりに違和感を感じたのはその時だった。基本的にやり取りは僕の後輩は父親に敬語なのである、父親も彼に対して敬語なのであればなんとなくわかるのだが、父親はタメ口でしかも命令口調が強い。僕は思わず「華麗なる一族かよ」とツッコんだが後輩はあまり意味もよくわかっていない様子で「なんすか、それ」と言ってきた。少しムカついた。
なぜ敬語でのやり取りになったかというと、後輩が大学生の時に単位が足りず危うく留年する事態になりかけた際、激怒した父親がまあまあの罵詈雑言で罵り、以降怖くなった後輩は父親に対して敬語なのだという。
「それ、ちょっとおかしくない?」と僕は以前から話したいたが、「もう慣れちゃったんで」と後輩は話しており、そこから畏怖の念を込めて会話をしているらしい。
「親御さんとの関係はどうなの?」と久しぶりに聞いてみた、すると、「ほぼ、会話ないですね」と意外な返事が返ってきた。詳細を聞くと、前職を退社した際に、ご両親にお金を借りていたようだ。そのお金を毎月返済していたようなのだが、お盆休みの際に彼が毎日遊び出歩いていた事に対してブチギレたらしい。「遊ぶ金があるならお金を返せ」という事だ。ただよく聞くと後輩は毎月17万円も家にお金を納めているようで、借金額も詳しくは知らないが、あと2回ほど同じ金額を返せば終了するような状況であった。
お盆休み最終日の夜、帰ってきた後輩はご両親に呼ばれ、無茶苦茶怒られたようだ、ただ流石にボロクソ言われた後輩は言い返したらしい、指定のお金はちゃんと振り込んでいる事、仕事はサボらずにちゃんとしている事etc、なんだか中高生の反抗期みたいな話になってきたが、あくまで20代後半の社会人の息子とそのご両親の言い争いである。
そんな中あまりの口論となり途中で帰宅した後輩の妹が間に入って、少し落ち着いたようだが、事情を聞いた妹はお兄ちゃんの味方をしてくれたらしい。しかし、怒りが収まらなかったのは母親で、不意に「あなたを産んだのが間違いだった」と言ってきたらしい、その一言で後輩の中の何かがプツッと切れたらしい。そこからはもう1人暮らしをする事に全てを注いで8月を乗り切った。
僕はまだ自分の子供がいないから親側の目線には立てないが「あなたを産んだのは間違いだった」は間違っても言ってはいけない言葉だと思う。そもそも親が子供を育ててきたわけで、子供が選択する事の何割かは親の影響が色濃く出るものなのではないだろうか。「仮に子供が気に食わない事をするのならばそれはブーメランとして自分に返って来るのでは?」と子供側の有意な考えしか浮かばない僕は少しムッとしていた。そんなこんなで大激動の8月を経て一人暮らしを始めたこの後輩はこの話を誰かに話したくてウズウズしていたらしい。
その後ご両親特に母親とは一歳連絡も口も聞いていないらしい、父親からは謎の「お前なんて一人暮らしできるわけがない」お説教ラインと「産んだのは間違った」発言の謝罪ラインが届いたらしい、メンヘラだなこりゃ。
僕は大きな間違いをしていたようだ、彼のご両親は厳しいとかそいう事じゃない、ただの子離れできていない親だったんだ。
そんな仕事もプライベートも大忙しな後輩と東京都狛江市にある狛江湯に行く事にした。ご飯を食べていた場所から徒歩30分程の虚距離があったが僕たっての希望で徒歩で行く事にした。
最初は徒歩で向かう事にぶりぶり文句を言っていたが、だんだんノリノリになった後輩は全然関係ない場所を指差して「あそこですよね?」と言ってきた。「いや全然違うだろ」と言うと、「なんで違うんですか?」と意味わからない事を言ってきたので少しムッとして、こいつのご両親の気持ちも少しわかるかもと思った。
狛江湯に到着した。今年の4月にリニューアルされたようで、入り口は吹き抜けになっていて凄く洒落た感じになっていた。店員さんも我々と同世代くらいの20代後半〜30代前半方ばかりでいかにも最近のサウナブームに乗りに乗っかっている銭湯のようだ。軽食やお酒を飲んだり食べたりできるスペースもあり、屋根のついたテラス先で風呂上がりにここで小休憩をするのもたまらなさそうであった。我々は閉店時間の1時間ちょい前にきたのでそのおしゃれなテラスを横目に早々に脱衣所へ向かった。
脱衣所も凄く清潔に整えられていてロッカーもそれなりに大きかった地味に下段の方のロッカーの上に物を置くスペースが用意されていてその配慮が凄く粋を感じた。
浴場内は緑色がベースとなりそれぞれの湯船や水風呂などにタイルで風呂の説明が書いてある、激烈視力の弱い僕なんかは全く見えないので手で温度を確かめるしかないが、見える人にはわかりやすいだろう。シャンプーやボディーソープは完備されていて、タオル類は自前で用意しなければならないかレンタルをする。
時間もない事だし早速体を軽くシャワーで流した後にサウナへ入る事にした。サウナ内は銭湯にしては広く1段あたり3人〜4人がけできる広さでそれが3段となっている。ちなみにサウナは人数制限を行っているようで、激混みになることはなさそうだ。温度は少し高めに設定されているようで、一番下の段でも90度近い暑さを体感できる。
水風呂はおそらく18度前後ではないだろうか、サウナ内の暑さに対しては少し温度高めといった所で水風呂があまり得意ではない僕にとってはとてもありがたい。
外気浴スペースはないが浴場内の一角に整いスペースがあり椅子が5個設置されていた。そこに座ると上からブローが吹いてくるのでそれはそれで気持ちがいい。1個注意しなければいけないのがおそらく給水機はないようで(確認不足だったらごめんんさい)自分で飲み物は持参なければならない。
3セットのルーティンを終えた我々は整いスペースでとろけていた。閉店時間間際という事もあり我々以外このスペースを利用する人はいなくなっていた。後輩が「俺、親と全然連絡取らなくなって、正直1人暮らしできるかなって、不安だったんです。でも自分で色々動いてみて初めて光熱費とか支払わなくちゃいけないものとかやらなきゃいけない事がわかりました」と話してきた。皮肉というか今まで全てを把握していないとダメだと思っていた息子が実は放り出した方が1番成長するとはこの後輩のご両親も夢にまで思っていないだろう。いやもしかしたらここまで計算してのことなのだろうか。まあどうでもいいか。
サウナと最近のあった事を話せてスッキリした後輩は嬉しそうに帰って行った、僕も少し嬉しい気持ちになったが、放任されすぎている今の自分はサボりフェーズに突入しそうで完全には気持ちよくなれなかった。困ったものである。だからフリーランスはお勧めしない。
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