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あの頃へGO!

1975年

1975年、バーニングプロの小口健二に誘われジャニーズ事務所を退所したひろみは、シンシアと同じ所属事務所に移った。新規一転、シングルでは作詞陣に試行錯誤が伺える。この年のブロマイド売上が1位となった西城秀樹、桜田淳子とドラマ「あこがれ共同隊」で共演した。そして全曲オリジナルのアルバムがリリースされた。筒美サウンドとシングル「あの日にかえりたい」がミリオンサラーとなった荒井由実とのコラボだった。

4月、シングル「花のように鳥のように/五月の恋人たち」がリリースされた。作詞には石坂まさをが起用された。石坂は、同年リリースされたシンシアのアルバム「人恋しくて」に五大洋光(矢沢永吉)と組み楽曲を提供している。まだ十代だった藤圭子の才能に惚れ込み、デビューを手掛けた人物であった。私的には演歌のイメージのある彼の歌詞に、筒美京平が選んだサウンドは軽快なスウィングだった。一方、B面「五月の恋人たち」は、高田弘のアレンジであるも演歌の匂いが漂う。筒美演歌の名曲といえば、1972年にリリースされた岡崎友紀の「私は忘れない」だろう。新境地でのひろみのチャレンジは、当時のファンにとって複雑な心境だったのではと改めて思う。

6月、ベストアルバム「郷ひろみデラックス」がリリースされた。初のベストアルバムにはシングル「花のように鳥のように」までジャニーズ事務所として集大成となる2枚組24曲が収録された。同月、オリジナルアルバム「ひろみの旅」がリリースされた。A面はオリジナルシングルA B両面の6曲、B面はカヴァー6曲の構成。このカヴァーは非常に興味深い選曲となっている。「ダンシング・セブンティーン」は1968年、オックスのシングルとしてグループサウンズに切り込んだ橋本淳・筒美京平コンビの楽曲だ。このダンスナンバーをジャニー喜多川が気に入り、ひろみのデビューシングルとして筒美に依頼し出来上がったのが「男の子女の子」だった。その原曲をひろみが歌っている。もうひとつ、新御三家の野口五郎の「青いリンゴ」、西城秀樹の「恋する季節」も選曲され違和感もなくひろみが歌いこなしている。いずれも筒美作品だが秀樹にもデビュー曲として提供されていたのには驚いた。つなき&みどりの「夜汽車よ故郷へ」は、1974年にリリースされた。ひろみと同じバーニングプロに所属していた彼等だったが、翌年、元ブルーコメッツの三原綱木(つなき)がひろみのバックバンドのリーダーに就任する。

アルバム「ひろみの旅」収録曲
『題名』作詞(訳詞)/作曲/編曲
1.『花のように 鳥のように』石坂まさを/筒美京平/筒美京平
2.『よろしく哀愁』安井かずみ/筒美京平/森岡賢一郎
3.『ふりむいた君』有馬三恵子/筒美京平/森岡賢一郎
4.『セーターに愛をこめて』安井かずみ/筒美京平/森岡賢一郎
5.『五月の恋人たち』石坂まさを/筒美京平/高田弘
6.『わるい誘惑』有馬三恵子/筒美京平/森岡賢一郎
7.『ダンシング・セブンティーン』橋本淳/筒美京平/筒美京平
8.『青いリンゴ』橋本淳/筒美京平/筒美京平
9.『愛すべき僕たち』不明/不明/不明
10.『夜汽車よ故郷へ』不明/不明/不明
11.『恋する季節』麻生たかし/筒美京平/筒美京平
12.『サンゴ礁の娘』阿久悠/筒美京平/筒美京平

1975年、シングル4枚、アルバム2枚、ベストアルバム2枚リリース。
4月 シングル「花のように鳥のように(石坂まさを/筒美京平/筒美京平)/五月の恋人たち(石坂まさを/筒美京平/高田弘)」
6月 ベストアルバム「郷ひろみデラックス」
6月 アルバム「ひろみの旅」
7月 シングル「誘われてフラメンコ/夏の一日(橋本淳/筒美京平/筒美京平)」
10月 シングル「逢えるかもしれない/ゆれる純情(山口洋子/筒美京平/筒美京平)」
11月 ベストアルバム「郷ひろみヒット全曲集」
11月 アルバム「HIROMIC WORLD」
12月 シングル「バイ・バイ・ベイビー(ボブ・クルー、ボブ・ゴーディオ/日本語詞:安井かずみ)」/夢みる頃をすぎて(林あきら/穂口雄右/穂口雄右)」

7月、シングル「誘われてフラメンコ/夏の一日」がリリースされた。橋本・筒美の青学コンビによるこの名曲は、ベースラインが強烈なアップテンポのナンバー。意表を突くひろみの甘い声のスキャットで始まる。1977年にリリースされるピンク・レディーの「渚のシンドバッド」に影響を与えていると思えるこのイントロ。御三家の一人、西郷輝彦が1966年にリリースした「星のフラメンコ」は、同年、スペインのマドリードで観たフラメンコに感動しハマクラ(浜口庫之助)に制作してもらったナンバーだったことを思い出す。フラメンコが10年周期で帰って来た。10月、シングル「逢えるかもしれない/ゆれる純情」がリリースされた。作詞は山口洋子、筒美作ながらやはりサウンドは演歌に仕上がっている。間奏にはひろみの台詞まで入り迷走感が否めない。

11月、ベストアルバム「郷ひろみヒット全曲集」がリリースされた。デビュー以来のシングルのコレクションとして12曲がセレクトされ収録された。そして同月、実験的且つ革新的なコラボレーションとなるアルバム「HIROMIC WORLD」がリリースされた。全曲オリジナル、作詞は荒井由実、サウンドは筒美京平の組み合わせ。収録曲の各々が個性的な特徴を放っており、初めて流して聴いた時にサウンドのみならずリリックが脳裏に刺さった。「青ひげの男」は一番に特筆すべき個性的なナンバーだ。タイトルからキャッチーだが、筒美の“真面目な”遊び心が想像出来て興味深い。女性コーラスで “アイ・ワナ・ビー”というフレーズが連呼されるが、“青のビー(Beard)”と聴こえてしまうのは空耳か。「君のおやじ」もタイトルからして新鮮で斬新だ。女性をレディと表現している楽曲もあり、リリックも遊び心に満ち溢れている。アルバム全体のサウンドも高品質に感じられ、制作に込められた気合いを感じる。8月に放送が始まったドラマ「家庭の秘密」のエンディングに起用され、ニッポン全国のお茶の間に流れた荒井由実の「あの日にかえりたい」は、ミリオンセラーを記録し当時の記憶が蘇る。筒美35歳、ユーミン21歳、ひろみ20歳の年だった。

アルバム「HIROMIC WORLD」収録曲
『題名』作詞/作曲/編曲
1.『午后のイメージ』荒井由実/筒美京平/筒美京平
2.『20才を過ぎたら』荒井由実/筒美京平/筒美京平
3.『恋のハイウェイ』荒井由実/筒美京平/筒美京平
4.『宇宙のかなたへ』荒井由実/筒美京平/筒美京平
5.『君のおやじ』荒井由実/筒美京平/筒美京平
6.『雨にひとり』荒井由実/筒美京平/筒美京平
7.『ウィスキー・ボンボン』荒井由実/筒美京平/筒美京平
8.『ライトグリーンの休日』荒井由実/筒美京平/筒美京平
9.『青ひげの男』荒井由実/筒美京平/筒美京平
10.『誰もこない世界へ』荒井由実/筒美京平/筒美京平
11.『ガラス張りのエレベーター』荒井由実/筒美京平/筒美京平

12月、シングル「バイ・バイ・ベイビー」/夢みる頃をすぎて」がリリースされた。1965年、フォー・シーズンズがリリースしたオリジナルが、この年、ベイ・シティ・ローラーズがロック調にアレンジしリリースされた。フランキー・ヴァリのヴォーカルのオリジナル版を聴いていると、1980年にリリースされる竹内まりやの「不思議なピーチパイ」が連想される。

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