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「Yシャツ」(番外編17:前編)
私が大学を卒業した後、ずっとアルバイトをしていたCDショップも閉店してしまうと、さすがに私は将来に不安を感じずにはいられませんでした。
一応それまでも男性として就職活動もしていましたし、そうしかないのかなと半ば諦めの気持ちが強く、それなにりにがんばっていたつもりです。もちろん、着たくも無いし似合いもしない男物のスーツを着て。
しかし、なかなか結果の出ないまま、ただ時間だけが過ぎて行きました。
そんなある日のこと、突然父が田舎から出て来るとの連絡がありました。
いつまで経っても就職先の決まらない私に、きっと説教でもしに来るんだろう、その時の私はそんな風に考えたものです。
しかし、久し振りに会った父はそんなことは何一つ言わず、私は父とレストランでご飯を食べ、それから何か買ってやると言う父と一緒にデパートに行きました。
「Yシャツとネクタイでも買ってやるさ」と、確か父はそんなことを言ったと思います。
とは言え、私は男物の服に全く興味もなくブラブラと売り場を歩き、適当なお店に入りました。そこは少し高級そうなお店で、親子連れの私達にすぐさま店員さんが張り付きました。
私はもちろん自分のスーツやYシャツのサイズなど覚えてはいなかったので、その店員さんのなすがままにサイズを測られ、今思えばかなり高いYシャツを勧められました。私同様にあまり人に強く言えないタイプの父はその時も何も言えず、その会計をさせられました。
いそいそとお店を出た父は私に、「んじゃ、がんばって下さい」とだけ言ってその場を去りました。私は呆気にとられて自分のアパートに帰りました。