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OLとしての面接

暑い8月の半ば頃、私は少ない勇気を振り絞って、その会社に私は「女性」として面接を受けに行きました。

結局、その時の(今もですが(^^;)私にはきちんとしたスーツを買うような余裕もなかったし、まあ、アルバイトのお仕事なわけだだし、Hちゃんも「普段着で良い」と言っていたので、私はいつものユニ○ロファッションで家を出ました。確か靴も普通のスニーカーを履いて行ったと思います。

一応、ファンデーションと口紅、眉毛を書いたくらいのメイクだけ。

「ビルの下についたら電話してね、迎えに行くから」
Hちゃんがそう言ってくれていたので、時間を見て電話をすると、彼女はそのビルの入り口まで降りて来てくれました。

その建物は親会社の大手企業の持ち物で、内部では大量の商品を扱うので、きちんと警備員さんもいるようなセキュリテイもしっかりとしたビルでした。

私は警備員さんに「来訪者」と書かれた名札をつけられ、用紙に名前、住所、理由の記入を求められ、慣れないそんなことに思わず緊張してしまいました。そう、もともと私は極度のアガリ症(+赤面症)でもあったのです。気がつけば、少し足も震えてきていました。

私はHちゃんに連れられて、少し広い休憩室に案内され、そこのソファに腰を下ろしました。そして、彼女は私の面接をする上司を呼びに行ったので、私は特にすることもなく回りを見回していました。

そこは透明な板(?)で半分に仕切られた部屋で、それぞれにTVがあり、仕切られた向こうは喫煙室になっていているとのことでした。そして、ソファのすぐ近くの小さな入り口の向こうは化粧室になっていました。当然、そこは男子禁制でした。

やがて彼女は、Nさんという40半ばくらいの男性と一緒に現れ、私はソファから立ち上がり、慣れないながらも挨拶をしました。私を見たNさんは一瞬、戸惑っているような感じでした。

彼女はそのまま仕事は終わりで帰るとのことで、隣の化粧室に入っていきました。彼女がいなくなって、やはり私はさらに不安になってしまいました。でも、後から考えると、Nさんは何だかクセのある人だったので、彼女は隣から面接の様子を窺ってくれていたのではないかと思います。なぜなら、その後、彼女がその化粧室を使うところを見たこともないし、いつも更衣室の方でメイクを済ませていたので。

私はNさんに促され、ソファに座り直し、面接が始まりました。内容の無い履歴書を渡すと、Nさんはまず、私が大学を卒業してから何年経っているかとかを、一人でぶつぶつ計算しているようでした。

そして、パソコンの打ち込みの早さはどれくらいだとか、事務職の経験があるかとかを尋ねられ、配属先での仕事の流れなどをざっと説明してくれました。Hちゃんの言っていた通り、私は彼女と同じ部署の隣のデスクになるとのことで、ただ、担当することはちょっと別ですが、仕事内容はほぼ同じなのでわからないことは彼女に聞けば、とNさんは言いました。

最後にNさんは、アルバイト(雇用)申込書なる一枚の紙を取り出し、私は高さの合わないガラステーブルで苦労しながら、それに記入しました。やはりまだ緊張していたせいか、字は震えてしまいました。

「雇うには、まだ上役の二人の許可がいるんだけどな」
Nさんは少し皮肉っぽい感じでそう言いながら、私の書いている申込書のハンコの欄を指差しました。

「その二人のどちらかがHちゃんの知りあいなのかな?」
私はのん気にそんなことを考えていました。

しかし、ふと私は通勤経路を書く欄で迷ってしまいました。その日、私はその会社のある場所には自転車で来ていたものの、電車やバスで通うことは考えていなかったからです。でも、「通勤費はきちんと出るから何か書いた方がいいぞ」とNさんが言うので、私はNさんの教えてくれるままに電車での通勤経路、運賃を記入しました。

さて、一応、何とか面接は終了したので、私はソファから立ち上がろうとしましたが、その時、ガラステーブルの足に自分の足をひっかけてしまい、私は見事に転びかけてしまいました。

その時とっさに、Nさんは「あんた、大丈夫か?」と声をかけてくれたのですが、私はその「あんた」呼ばわりに少しびっくりしてしまいました。
「あんた」って何?
Nさんの去った後、私はHちゃんはまだいるのかなと化粧室を覗きました。すると、彼女は散乱していた雑誌を眺めながら、ジュースを飲んでいました。

私がついさっきのNさんの言葉を彼女に言ってみると、
「あの人はそういう人なの。上の人にはへこへこするけど、自分より弱いと思った人間にはほんとに強く出るから、Yちゃんも気をつけてね」
と彼女は言いました。

とは言え、その後実感することになるのですが、この時、私がよろけたことで既にNさんの中では、「私はドジな人間」とでもイメージがついてしまったようでした。

その後、私も休憩室にあった自販機でジュースを買って、しばらく化粧室でHちゃんとおしゃべりをしてから帰ることになりました。私は自転車を止める場所を聞いてなかったので、止めていた近くのコンビニまで取りに戻り、彼女と帰路につきました。

「まあ、大丈夫だから安心して待っていなさいね」
別れる時、彼女はそう言ってくれましたが、私はまだ半信半疑でした。

私なんかより、若くてきれいな女の子を雇う方が、職場としては良いんだろうに。今でも資格の一つも何も持っていない私には、何の自信も、その自信を持てるような根拠もありませんでした。

それから数日間、私は会社か彼女からの連絡を待ち続けました。

そして、ふと気がつきました。私の性別の話が全く出なかったことに。そして、「いつからの勤務になるか」を尋ねていなかったことに。

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