異世界転生でまったり
悪役令嬢が、前世の記憶を取り戻す。
なんてことかしら。あたしは、ブラック企業で扱き使われて、過労死だったわ。異世界で貴族のお嬢さまに生まれ変わるなんて。
でも──
このまま進めば、あたしは王太子の婚約者であるのに断罪されてしまう。しかも、その先には悲惨な末路が待っているの。
何故わかるのか。だってこの展開は、前世で熱中した乙女ゲームの物語だから。
なんとか、回避しなくちゃ──
☆☆☆
こんにちは。フジミドリです。
今回の私物語は、異世界ファンタジーを題材に選んで、種観霊してみました。
お楽しみ頂ければ、嬉しくなります。
☆☆☆
ご存知ですか。
異世界ファンタジー♡
例えば──
主人公に訪れる突然の死。天界で、女神からチートスキルを貰う。気づけば異世界に転生しており、そこから始まる冒険の旅。
設定の型は幾つかあっても、似たような物語ばかりですが、次々とラノベのコミック化やTVアニメ、ゲームとコラボ展開します。
何がこれほど、惹きつけるのでしょう?
霊魂の観点から探りました──
☆☆☆
切っ掛けは何だった。よく覚えてない。気がつけば、いつの間にか習慣である。
スマホで無料マンガを見て、面白いと先が知りたくなる。そして、ラノベサイトへ飛び、深夜に至るまで読み耽ってしまう。
朝起きると、目がショボついて腰も怠く、頭はボーッとして頗る悪い寝覚めだ。なのに、また同じことを繰り返す。
負のスパイラル──お陰で、私は随分な量の異世界ファンタジーと親しんだ。
☆☆☆
私は個別進学塾の講師である。
確かに、子供相手の商売だから、異世界物語が役立つ場面も、多かったりするのだ。
私の授業は、学習への在り方を、生徒の好きな遊びと結びつけて進む。だから──
『ハマってるの教えてよ。マンガやアニメ、ゲーム、スポーツ、何でもいいからね』
そんな問いで始まるのだった。
☆☆☆
ならば、異世界ファンタジーと親しむのは、還暦過ぎの塾講師が、孫とも言える歳の生徒たちに話を合わせるための取材か?
いやいやいや。そんなの言い訳だろ。純粋に惹き込まれてハマっているじゃないか!
やれやれ。現実逃避だよ。
情けないことさ。
いい歳をして。
とはいえ、ようやくこのところ、熱が冷めてきた。振り返ると奇妙に思う。
なぜハマったのか。
☆☆☆
道術家である私は、種観霊する。
この場合の種、つまり題材は異世界ファンタジーである。なぜハマったのだろう。
そりゃ面白いから。
うんざりな現実から逃げて──
まぁね。確かに。でもこれは、人間としての観方なのだ。面白いから、で終わり。
嘗ての私ならそれでよい。しかし、種観霊を知ってから、満足できなくなったのだ。
☆☆☆
今の私は、この答えでスッキリしない。何も変わっていないから。ハマった私のまま。
霊魂の立ち位置から観よう!
この3次元を超えてしまう。だからスッキリ紐解ける。心地よく自由自在になるのだ。
☆☆☆
で、私は中真を意識した。
仙骨を感じる。背骨の最下端にある骨。上半身と下半身を繋ぐ、掌サイズの逆三角形。
ふうぅぅぅぅぅぅぅぅ
深呼吸でゼロになる。
☆☆☆
ゼロは、思考や感情から解放された、肉体世界を離脱する異次元。私は、中真を意識するだけでゼロになる在り方なのだ。
──スッと。
答えが浮かんだ。
満たされぬ思いを補うため。
ふむ。なるほど。では、私の満たされぬ思いとは何か。ははぁ。見えてきたぞ。
☆☆☆
例えば断罪イベント。
所謂、ざまぁ物語である。
我が儘な貴族の令嬢は、婚約者である王太子と親しくなる平民のヒロインを虐める。
その行状がバレ、このままでは、学園の卒業パーティーで断罪され、追放されてしまう。
そこで画策する。断罪イベントを回避すると同時に逆襲が始まる。断罪する側に回って、王太子とヒロインをやっつける──
ざまぁみろってわけだ。
☆☆☆
あの場面は、読んでいて痛快だった。
そうか。ふむふむ。改めて振り返れば見えてくる。私にも、断罪したい相手がいるのだ。
これまでの人生を思う。
理不尽な扱いを受けた。正当に評価されていない。貶められてる──そのような思いが、心の底で燻ぶっていたのだ。
☆☆☆
たーしかに確かに。
断罪したい相手の顔が浮かぶ。あれこれ次々と、イヤな出来事が連想されてくる。
あぁなんてことだ!
こんな思いが隠れていた──
だから、取り憑かれたように読み耽っていたのか。根本原因が解消されてないから、時と場所と相手を変えた同じ物語を繰り返す。
☆☆☆
なるほどなぁ。
物語世界にハマって、過去に起こったイヤな出来事を、書き換えていた私。
現実世界で、私が断罪することはない。できないのだ。だから、物語の中で、代わりに断罪して貰っていたのである。
☆☆☆
では、チートスキルはどうだろう。
異世界に転生して、凄まじいパワーや強力な魔法という特殊能力を身につける物語。
すぐ活躍する場合もあれば、使えないヤツと一旦は馘になり、後で素晴らしい異能を持つと判明して快進撃が始まる展開もある。
いずれにせよ、凄まじいパワーや強力な魔法は、比類なく他を圧倒していくのだ。
☆☆☆
なるほど。
観得てきた。
現実世界で、ムリだと諦めた私の願望。こうなりたいああしたい、でもできない。
私は、異世界ファンタジーの英雄に、自分の夢を託し、疑似体験に浸っていたのだ。
☆☆☆
嘗て私はスター選手に憧れた。あるいは囲碁や将棋の名人。そして小説家や俳優。歴史に名を残す傑物や天才科学者。
ところが気づく。
有名になって、多くの人に晒されると、色々な思いで押し潰されてしまうのだ。
憧憬や尊敬ばかりではない。嫉妬、羨望、果ては、八つ当たりな憎悪であったりもする。
☆☆☆
チート能力に恵まれ、持て囃されたいと思う反面、落ち目になった途端、蔑まれる有名人の浮き沈みが思い返されてくるのだ。
想念の醜悪さ、恐ろしさ──
自分が経験したわけでもないのに、深く感じてしまう。不思議な心の作用である。
だから、異世界ファンタジーのチートスキルに、自分の願望を重ね合わせた。
☆☆☆
現実世界で、努力が実るとは限らない。理屈の通らないことも多々ある。誰でも等しく、幸福とはならない現実なのだ。
私は、ざまぁ物語で断罪したい相手を粉砕、チートスキル物語で英雄生活を味わった。
そして三つめは──
スローライフである。
☆☆☆
鍛冶職人、農産物育成、建造物構築、という生産系の特殊能力を持つ物語だ。そして辺境や田舎でのんびりと暮らす。
収入は充分で、ほのぼのとした優しい関係に恵まれ、物造りの楽しさを味わう日々。満ち足りた人生が展開されていく──
そういえば、スローライフ型の物語で、主人公は有名になる事態を怖れている。目立つ境遇が、往々にして安らかではないからだ。
☆☆☆
おや。どうしたのだろう。
フッと楽になる。力が抜けた。
私は広がっていく。肉体の境界を擦り抜け、空いっぱい、宇宙の彼方へ拡大する。
宇宙の果てから見れば、現実と物語に差異などない。全ては一つなのである。
しかしながら、一つを二つに分けて、味わうこともできるのだ。
なるほど。
現実が理不尽で不自由だからこそ、自由自在で心地よい霊界は存在できる仕組みか。
☆☆☆
だから求めてよい。
この場所ではない何処か。この相手ではない誰か。そして、この肉体ではない霊魂を。
人生を輝かせる必要はない。
このままでよいのだ。
現実は、霊界の影に過ぎない。苦悩があるのなら、それは楽園の証明である。霊魂は、今ここで楽園に在るのだから。
現実と霊界は合わせ鏡──
☆☆☆
ああそうか。そういうことか。
スーッと見えてきた。スッキリ爽やかだ。
靄が晴れて、世界はくっきり鮮やか。晴れてようやくわかる。靄の中に佇んでいたと。
☆☆☆
靄の正体は思い、想念である。
想念という靄が、霊魂に纏わりついていた。だから異世界ファンタジーにハマる。
種観霊で、霊魂の観点から理解して、想念は晴れる。もうハマる必要がなくなった。
これから、自由に楽しめるだろう。
☆☆☆
☆☆☆
次回、5月29日午後3時。
残り4回となりました。
明日午後6時、西遊記で創作談義。
お相手は、イラスト担当の朔川揺さん♡