神出鬼没の白虎笑う①
ボクらは回る。ぐるぐる回る。青龍の周囲を海水と一緒になって。ボクとサクヤは、螺旋に渦巻きながら、海の外へ飛び出した──
🌊 🌊 🌊
こんにちは。フジミドリです。ファンタジー連作短編第7回、森の守神である白虎の攻略が使命です。ミツヒロ&サクヤ13歳コンビは、どう乗り超えるのでしょう。
🔫 🔫 🔫
海水と一体化したボクらは、螺旋に回りながらも、元気溌溂だった。普通なら、眩暈がすると思うけど。何故だろうね。
《流れに乗るからです。気球と同じ──》
AIの声は、螺旋に回る海水の中で、明瞭に聞こえた。爽やかに透き通る声だった。気球の仕組みを詳細に説明してくれる。
《風と一緒に動くので、風を感じません》
🌀 🌀 🌀
なるほどね。気球は風で動く。風の流れに乗るから、気球の中では風を感じない。
流れに逆らえば疲れる。逆らえないと諦めるけど、流れに乗れば、力が抜けて楽だ。
《流れに乗るという意識を持つだけです》
ふーん。水が主体と思えば、逆らうか合わせるか。でも、自分が主体と意識すれば、流れに乗る。二つの捉え方を一つにするのか。
《賛成と反対。そして、統合です──》
🚶 🏃 💃
《物事は、三つの統合で進化のです》
そうか。説明を聴いて、わかってきたかも。同じことでも、心構え次第では、違うものになるってわけだね。例えば──
宿題を強制されると思うから辛くなる。仕様がないと諦めれば、元気は出ない。
でも、自分のためになるって捉えたら、楽しんじゃってもいいんだよ。
どう捉えるかで真逆になる☆
これが在り方だ。
🔮 🔮 🔮
あれれ。フワッと軽いぞ。
どうしたんだろう。
ボクらの体はあるんだ。けど、ぐるぐる回る海水に溶けて、なくなったみたいな感じで。なのに、ないけどあるんだ。ヘンなの。
わ。わ。何コレ。
水蒸気になっていく。上昇気流が、空で冷やされる。真っ白な雲になっていく。
そして雨となった☔
ボクらは無数の雨粒となって、地上に降り注ぐ。森の枝葉を潤す。川の嵩は増える。土に辿り着くと、ボクらは吸い込まれた。
🌷 🌷 🌷
あちこちで笑い声。お喋りするみたい。騒めき。ボクは誰だ。ミツヒロ。意識が戻る。
体を起こす。ゆっくり。手足を確認。装備もそのまま。短剣と防具だ。立ち上がる。長靴を履いた足が、蹌踉けてしまう。
「ミツ君、大丈夫❓」
🌸 🌸 🌸
「ここ、何処だろね」
『サクヤは、大丈夫かい』
「うん。あたしも今、目が覚めたの」
にっこり微笑むサクヤ。なんかヘン。服装も装備も変わらない。髪色も顔も同じだけど、違って見える。なんだろ、この気持ち。
同じ中学生に見えない。急に大人びた感じ。高校生かそれとも──お化粧してるってわけじゃないんだけどね。
《白虎の住む森は、時間を超越します》
🍀 🍀 🍀
ボクらは周辺を探索した。深い森だ。柔らかな土。木々の緑は豊かに繁茂、香りが鼻の奥に馴染む。冷涼と澄んだ空気は肺を満たす。落ち葉さえ、息づくようだった。
足音が響く。鼓動の音までが聞こえるような静けさだ。サクヤは饒舌に話す。
饒舌ってなんだ。お喋りのことか。ボク、こんな言葉、知ってたっけ。ヘンだな。どうしたの。スッと浮かぶ。サクヤはきっと、不安なんだ。大丈夫さ。ボクが守ってあげる。
🍒 🍒 🍒
《探査スキルを推奨します》
AI声が響く。ボクらは顔を見合わす。探査したら、あちこちで白虎の印が点滅。あれれ。どうなってんの。攻略対象って一頭だよ。
《今回の案内人は、森の妖精です》
途端に、さっきのクスクスが聞こえた。だんだん、お喋りっぽくなる。僅かに単語が拾える音量。でも、なんとなくわかった。
👼 👼 👼
「 白虎は一頭よ」「いや」「無限にいるの」「一頭で無限」「わけわかんない」「そういうものさ」「全部で一つ」「一つが全部」
ボクらは顔を見合わせる。サクヤは小首を傾げて微笑む。可愛いけど落ち着いた感じ。
「やぁね」「すぐこれよ」「人間だからさ」「幾つになっても恋する」「それでいい」「よくない」「あっという間」「理解しろ」
🐯 🐯 🐯
妖精たちが現れた。羽を生やす人形みたい。ボクらの周りを飛び回る。赤や黄色や緑やら鮮やかな色。夢でも見てるのかな。
「夢なの」「夢が現実さ」「現実って何」「夢が現実で現実が夢」「あははあはは」「人生は夢さ」「そんなことないもん」
クラクラしてくる。ボクがボクでなくなる感じだよ。ふわふわする。なんだろ、コレ。
「人生なんて意味ない」「意味ある」「どんな意味」「意味がないって意味」「不毛ね」「毛が無いの」「怪我ね」「毛ガニ」「美味しい」「おなか減った」「なら死ねば」
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《イデアルームを推奨します》
スッと風景が変わった。静かな音楽が流れて暖かな空気に包まれた。気持ちが鎮まる。
お腹が鳴った。やれやれ。ちょっと恥ずかしい。サクヤも同じだといいな。何も言わないけど、うんと頷いて歯を見せる。
ボクらがイスへ座ると、テーブルの上に料理が出てきた。前菜とスープ。ピザとスパゲティ。美味しい。締めのデザートで満腹。ボクらはゆっくり食べてから少し眠った。
🌈 🌈 🌈
目が覚めると、頭がスッキリしてる。心は空っぽだ。随分と長い時間、眠ったようでもあるし、ほんの数分だった気もする。
人生ってなんだろう。改めて思う。妖精たちの声が響く。やれやれ。これまで考えたことなかった。考え出すとやめられない。
《はい。その通りです。意味ありません》
💧 💧 💧
産まれて生きて死んでいく。何故こんなことするの。生きることに意味ないなんて。白虎の攻略どころではなくなった。
《真奇力存のスキルを推奨します》
えっとこれって何だっけ。青龍とは一つになって、真の奇跡が起こったよね。玄武は全てが素粒子だった。うーん。よくわからない。
😅 😅 😅
10月31日の午前10時へ続く💖
イラストは朔川揺さん💞
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ありがとうございます🎊