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2023年1月 美術鑑賞東京遠征② マリー・クワント展

1月の東京遠征がよかったので、美術レビューを書いてみました。ちょっと説教臭いところはご容赦ください。でも、どうやって観れば美術を深く理解できるかをちょっと書いたところはご参照していただければと思います。

③ Bunkamura ザ・ミュージアム『マリー・クワント展』

1960年代のロンドンで生まれたサブカルチャー、スウィンギング・ロンドンを象徴するファッションデザイナー、マリー・クワントの展覧会です。

日本では化粧品会社がマリー・クワントの製品をライセンス販売しているので、「マリー・クワントといえば化粧品」というイメージを持たれる方が多いと思います。実は、60年代を代表する偉大なファッションデザイナーだったんです。

本展はマリー・クワントの偉業を見るだけでも十分価値はあるのですが、当時流行したスウィンギング・ロンドンや服の素材、ファッションビジネスなどにも関心を持っていればより興味が持てる展覧会です。視野が広くなればなるほど、鑑賞の面白みが増す。そんな展覧会でした。

スウィンギング・ロンドンは、前述の通り1960年代に流行した若者向けサブカルチャーです。大きなキーワードが三つあって、それが「モッズ」「ビートルズ」「マリー・クワント」です。ビートルズと並んでいるというだけでマリー・クワントの偉大さがわかると思います。

スウィンギング・ロンドンについては、10年以上前に北浦和で展覧会がありました。行っていませんが。

展覧会の最初のほうでは、階級社会をからかうデザインが展示されていました。これは「モッズ」という1950年代に労働者階級で起きたファッションの流れを受けてのものでしょう。若者が手に入る服を身につけることで、労働者階級とは別の文化を創りあげる。まさに、マリー・クワントはサブカルチャーの旗手だったわけですね。

ここから先、画像がないので、以下のV&Aのサイトの画像をご参照ください。というか、情報が豊富すぎますね、V&Aのサイト。

素材に関して言えば、ウール素材の服が多いのが印象的でした。PVC(ポリ塩化ビニル)のレインコートやウール以外の素材の服を集めたコーナーもありましたが、それ以外はほとんどウールでした。それゆえか、1着だけかなり虫に食われている服がありましたね。動物性素材は虫に食われやすいのです。
それもそのはず、この展覧会、展示にあたりマリー・クワントの服を一般募集していたみたいです。だから保存状態の悪い服も展示されていたのでしょうね。美術鑑賞を極めるとこんな「謎」まで発見できるわけです。

上から七番目の写真の服は、ルームジャージーなのですが、素材はウールだったと記憶しています(図録は買えていません)。家のなかでウールの服を着るというのは、メンテナンスなどの面でどうかとは思います。けれども、ちょっとした用事で外出するときにも着られる部屋着を1960年代に生んだと考えれば、やはり斬新なことなのかもしれません。私もよく間違いを犯しがちでですが、作品と接するときは当時の視点で見ることが重要です。

話は前後しますが、PVCのレインコートはいまの時代から見ても斬新でした。先ほどのリンクの、下から二番目の写真にある、黄色い服です。全体をすっぽり覆うようにして着て、脇から手が出せるようにしたデザイン。当時はPVCの品質がよくなかったですし、いざというときに腕が動かせないので安全面に不安があります。けれども、これらの問題はいまでは解決できそうなので、復刻版があれば面白いんじゃないかなとは思いました。

展覧会ではマリー・クワントの世界展開やブランド拡張(アパレル以外の製品を発売すること)にも言及されていました。ここにはいささかの疑問を抱きました。現在での売上の中心は日本ですから、超一流メゾンのことを考えれば下火になったと言わざるをえません。ただ、ライセンス販売というビジネスモデルを考えると失敗ともいえないんですね。

マリー・クワントに限らず、イギリスのブランドは日本企業に買収されていました。アクアスキュータム(レナウン;現在は撤退)、DAKS(三共生興)、フレッド・ペリー(ヒットユニオン)。ポール・スミスも伊藤忠商事が40%の株式を取得しています。コートで有名なマッキントッシュは八木通商の子会社。ライセンス販売だけに限って言えば、2015年に三陽商会とライセンス契約を解消したバーバリーが最も有名ですね。そう考えると、イギリスのブランドは日本企業と縁が深いんですね。

そのなかで、マリー・クワントは一定の地位を獲得しています。いまでも街で化粧品やファッション小物をよく見かけます。それに対して、フレッド・ペリーは2000年代中葉に日本でモッズの再流行(リバイバル)が起きたときはよく見かけましたが、最近はあまり見なくなりました。DAKSはフィギュアスケートのテレビ中継のときにしか出てこないです。ほぼ日本だけとはいえ、マリー・クワントは流行に左右されず売れているのですから、ビジネスとして成功しているといってもおかしくはありません。

まとめですが、本展は規模が小さいとはいえ、ファッションの美観だけでなく、素材や文化的背景、ファッションビジネスにまで追究した展覧会といえます。ファッションというかデザインの展覧会を開くときのお手本、という感じがしました。さすが、V&Aといったところです(本展はV&Aで開催された展覧会の国際巡回展です)。

本来、こういう展覧会こそ六本木(国立デザイン美術館を建てたがるひとたちがいるのです)で行われるべきでした。マリークワントの日本法人は渋谷にあるので、渋谷で行うのは最適ではありますが。

国立デザイン美術館を建てたいというのなら、「デザインをここまで多義的に展観しなくていは意味がない」と考えるひとが多くなくてはいけません。どうせいまの日本の識者、観客のレベルで国立デザイン美術館を建てると「かわいいもの」だけを並べておしまいになるのは目に見えています。デートスポット程度にしかならない。そんなものに公金を出すのはおかしいと考えています。それならまだ、「国立マンガ喫茶」でも建てるほうがマシです。マンガの展覧会のほうがより多面的に研究されています。

最近はカップルのデートスポット化する目的かなにかで、物販と「かわいいもの」展示目的の展覧会が多くなった気がします。主催者側はそっちのほうが客が呼べるし、物販で稼げるし、カップルは自分は文化的だとアピールできるし……。win-winなのかもしれませんが、美術館のそもそもの社会的役割が犠牲になっている気がしますね。win-win の影には、プレーヤー扱いされていない誰かの「負け」があるものです。カップルが勝ち、イベントの主催者が勝って、負けた分はデザインにまつわる研究成果がすべて背負いこむ(デザイン研究の発展に寄与しない)。これでいいんですか?

もし仮にマリー・クワント展がイベントとして開催されていたとしても、ここまで内容的に優れ、研究価値の高さも伝えた展覧会であればそれはそれでいいと考えています。美術館としての仕事をきちんとしていることには変わらないわけですから。

デザインにおいて、本当に美術館が美術館としての仕事をしているのか?
国立デザイン美術館を建てたい主張するのは、そのことを自問してからにしてほしいと考えています。

これだけでほとんど3000字。本当は眼窩裏の火事も取り上げたかったのですが……。

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