おれ、100万稼いだら、50万お母さんにあげるんだ
タイトルのこの言葉、話してくれたのは中一の男の子。
彼と初めて出会ったのは、彼が小学5年生の時だったかな。
私は放課後や夏休み、週に一回、校庭を借りてプレーパークをやっていた。
プレーパークのない日は、うちを開放していて、
近所の子が毎日のようにうちに遊びに来ていた。
夏休み、初めてプレーパークにやってきた彼は、
一人ハンモックにくるまっていた。
水鉄砲で水をかけられると、
「ちょっと。おれにかけないで。おれ、一人になりたいんだ」と。
みんなには、「そっとしておいてあげて。水鉄砲、あっちでやってちょうだい」と、お願いして、
「どしたの?」って聞いてみた。
そしたら、近所に嫌なこという子がいて、
その子から逃げてきたと。
その子が家の周りにいるから、帰りたくないと。
「先生に言おうかなって思ってるんだけど、言う勇気がない」
そんなことを、ぽつりぽつりと話してくれた。
私は、「そっか~・・・」と、黙って彼の話を聞いていた。
「ここでよかったら、時間ぎりぎりまでいいていいからね。」
そんな話をしたと思う。
それから、彼はプレーパークに良く来るようになり、
週に一度のプレーパークがない日も、
「うちに来る?」って声かけたら、
我が家に姿を現すようになった。
プレーパークでは、一人黙々と剣を作る子だった。
みんながうらやむような、精巧な、カッコいい剣を作るから、
そのうち、年下の子からも、
「剣作ってちょうだい」と、頼まれるようになった。
優しい子で、みんなにカッコいい剣を作ってあげてた。
最後まで残って片付けもよく手伝ってくれたので、
「ありがとう、助かるよ」って言いつつ、
「ごめん、向こうに落ちてるボール持ってきてもらえる?」
なんて、頼み事もよくした。
家に遊びに来ると、魚の水槽にまっすぐ向かった。
当時、息子が捕まえたヌマチチブという魚を飼っていた。
ヌマチチブくんは、ミミズをあげると、人なつっこくぴょんぴょんはねて食べてくれた。
それがかわいくて、彼はうちに来るたびにヌマチチブくんにミミズをあげた。
ミミズがないときは、庭からミミズを掘ってきてくれた。
ヌマチチブ君にミミズをあげながら、
「おれ、魚釣りとかよくいくから、魚好きなんですよ」
と話してくれていたので、
子ども達が何人か遊びに来ていた夏休み、
「午後、海に行く?」って、海に磯遊びに連れて行った。
うちは時々、その日の思い付きで子どもたちをいろんなところに連れて行く。
午前中遊びに来た子ども達には、
「午後、新藤さんと海に行ってもいいか、おうちの人に聞いて、大丈夫だったら一時にうちに集合ね」と。
ヤドカリ見つけたり、魚がいたと言ってはつかまえようと躍起になった。
夏休みの子ども達の、楽しい思い出になったらいいなと思った。
またある時は、「もうお昼だから、おうち一旦帰る時間だよ」
って言ったんだけど、
「おれ、別に昼ご飯食べなくていい。」と、そのまま庭で遊んでいるから、
「冷やし中華でよければ、一緒に食べる?」って、
うちの家族みんなと食卓を囲み、
にぎやかに話しながら、冷やし中華を食べた。
うちの家族の中で一緒にご飯を食べることに若干緊張していた彼は、
「おれ、今日のこと、きっと一生忘れない」と言った。
そして、彼が6年生になった頃、
「そういえば、前に嫌なこという子がいるって言ってたけど、あれからどうした?」
と、聞いてみた。
そしたら、
「ああ、あれね。おれ、昔は弱かったんですよ。今は全然大丈夫です!」
って、顔を輝かせながら答えてくれた。
彼の顔は、なんだか自信に満ちて、かっこよかった。
気弱で、頼りなさげに見えた彼は、
今は頼りにされるような存在になっていた。
そんな彼も、夏休みの後ぐらいだったかな。
引っ越して、うちからちょっぴり遠くなったら、それっきりうちには来なくなっていた。
学校で読み聞かせの時、時々顔を合わせると、
「新藤さ~ん!お久しぶりです!」って、手を振ってくれたけど、卒業して、彼と会うことはなくなっていた。
そんな彼と久しぶりに会ったのは、つい一週間ほど前。
犬の散歩しながら、遊びに来てた近所の子を送って、
団地まで言った時、
中学生になり、たまたま部活帰りだった彼が、
私達の姿を見つけて近寄ってきてくれた。
「新藤さん!お久しぶりです!!」
「何ヵ月ぶりかな~!ムック~!久しぶり~!あれ?新しい犬ですか?」
「そうなの。3月に拾った子犬を飼い始めたんだよ。ラッキーって言うの。」
懐かしそうに話しかけてくれる彼は、
背も伸びて、声も変わっていて、
ちょっぴり大人びた感じになっていた。
懐かしい話をいろいろしていたら、
チリンチリン♪
と、向こうで友達が「早くしろよ、まだかよ」みたいな感じで待っていた。
「ちょっと待ってよ~!!久しぶりに新藤さんに会ったんだからさ~」
という彼に、「声かけてくれてありがとね。またいつでも遊びにおいでね。」と声をかけ、
友達にせかされつつ、名残惜し気にその場は別れたのでした。
その二日後のこと。
いつものように、近所の子どもたちがうちで遊んでいると、
ピンポ~ン♪呼び鈴がなる。
玄関を開けると、彼が立っていた。
「ほんとに遊びに来ちゃったけど、大丈夫ですか?迷惑じゃないですか?」
そう話す彼に、ラッキーが吠えまくる。
「ごめんね、初めての人には、五分ぐらい吠え続けるけど、におい嗅いだら落ち着くから。まあ、あがって」
遠慮がちな彼に、「一緒に卓球やろう!」って、遊び相手が来たと喜ぶ小学生。
遊びながらも、
「新藤さんと海に行ったの、あれ、一番楽しかったな~」っていうから、
「今度、魚釣り、教えてよ。うちは素人だからさ~、釣れるポイントとか、どんな仕掛けがいいとか、一緒に釣りに行こうね」と、私。
「ああ、そういえば、一緒におれ、お昼ご飯食べましたよね~」と、彼が言えば、
「あ、俺も、新藤さんとこでそば食べたことある」って、小学生が話しに割り込んできたり。
そんな子供たちに、おやつでも作ろうかなって、台所で料理し始める私の姿を見て、
「いいな~。手作りでおやつ作るなんて、なかなかないですよ。家庭的ですよね。うち、お母さん頭痛もちだから、あんまりそういうの作らないんですよね~」というから、
「仕事もしてたら忙しいだろうしね。体調悪かったら、なかなか作れないいだろうしね。」と私。
「あ、でも、お母さんのことは大好きなんですよ。男はみんなマザコンだと思いますよ。おれ、働いて、100万稼いだら、お母さんに50万あげようと思ってます。それぐらい、世話になってるというか、恩返ししなきゃって思ってます」
中学生の彼がそう話してくれてるのを聞いて、なんか、ジ~ンとしちゃいました。
彼のお母さんは、彼を大切に想って育ててきたんだな~というのが、彼を見ていると、よくわかります。
世のがんばってるお母さんたちへ。
お母さんが忙しくて、子供に手をかけてあげられなかったとしても、
おやつ、手作りで作ってあげられなくっても、
想いをかけてさえいれば、愛情はちゃんと伝わっています。
子どもは、自分のこと大事に思ってくれているのはちゃんとわかってます。安心して。
お母さんは、恩返しして欲しいなんて思って子育てしてるわけじゃないんだけど、子どもは十分すぎるほど想いを受け取っていて、いつか、自分がお母さんにその想いを返せるようになったら、返したいと思ってるんだな~って、思いました。
今度、彼に魚釣り教えてもらおう。
一緒に釣りしながら、またいろいろお話聞きたいな。