見出し画像

「ラインズ」(ティム・インゴルド著)と「Lines」(金沢21世紀美術館の展覧会)と「lines」(松田行正構成・文)

私は、このところたくさんの線を描いた作品を作っています。ですので「ラインズ 線の文化史」という本があると知った時は、これは読まねば!と思いました。
『線』をあらゆる角度から考察し、そこから人間の歴史や生活を紐解くという大変興味深い本です。
張り切って取り掛かったはいいけど、これがまた私には読みづらくて。
どの章も内容は面白いのだけど、考察が次から次に湧いてくるというか、言葉がどんどん進んでいってしまう。それを追っていくと、その章を読み終わったときに「さて、なんの話だったっけ」となってしまうのです。
だからまた戻って、の繰り返しを続けて、いつまでも読了できずに数ヶ月経過。

そうしたら、金沢21世紀美術館で、この本をテーマにした「Linesー意識を流れに合わせる」という展覧会が開かれているというではありませんか(会期は2024.6.22~10.14)。
この内容をどのように考察して、どんな作品が集められているのでしょうか。私はそれを理解できるのでしょうか。とても知りたくなって金沢を訪れました。

大巻伸嗣(手前)とエル・アナツイ(奥)

展示はとてもおもしろかったです。
自分に響いたもので言いますと、
まず大巻伸嗣さん。大きくて、きれい(語彙が少なくてアレですが)。昨年の国立新美術館での個展でも同じように思いました。圧倒的な質量で見せる。動いている物体がずっと見ていられる。距離感、床面に描かれた、大陸を表すたくさんの線、変化する土地と海の関係。
エル・アナツイの巨大タペストリー。細部も、全体も、胸を打つものがある。繋がれた無数の金属片。つなぐ線。
ティファニー・チュンの映像作品、線がベトナムからのボートの軌跡を表していて衝撃を受ける。事実の重み。
マルグリット・ユモーの作品には分かりやすい線が有るわけではなく、生き物の繋がりを表しているところが、「ラインズ」での”系譜的ライン(第4章)”にあたるのだろうか。立体も、映像も、非常に有機的なものを表している。
通路のような場所にそっと置かれていたオクサナ・パサイコの小さな作品は、まさに「ラインズ」だった。石鹸にうめこまれた数本の髪の毛。人間の存在、人種や国籍、そして争いを、数本の線で表すことができると教えてくれる。

オクサナ・パサイコ

本の理解も不十分にしかできなかったのに、作品の理解ができているのかは分からない。説明する言語化能力も足りない。
ただ両方があったことで、深く楽しめたことは確かだ。
他の文脈で同じ作品たちを見ていたら、私は別の感想を持ったと思う。考察と、物(作品)と、解釈との絡み合いを体験できた。とても感覚的な部分でしかできていないけれど、感覚で捉えるのもアートの楽しみだ。感覚を磨きたい。

そして帰りに寄ったミュージアムショップで購入した「lines」。たくさんの記録された線を集めたもの。バッタの移住経路から、ポロックまで、たくさん!インゴルドの本よりこちらのほうが早く出版されている(1995)。見ているだけで楽しいけれど、インゴルドの文と重ねあわせるとより面白い。
線というものに浸りきることができた3点セットでした。

オシャレで楽しい構成の「lines」


兼六園もキレイでした

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?