![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/49567753/rectangle_large_type_2_4da97ec88fb78ab02616b8fcb2c26fe0.jpeg?width=1200)
サウナのサチコのサウナじゃない話② 『焼肉コンプレックス』
こんにちは。サウナのサチコです。
今日もサウナじゃない話にお付き合いください。たぶん短いですから。
テーマは私のコンプレックスについて。コンプレックスは山ほどありますが、その中でも40過ぎてから初めて気づいた自分のコンプレックスについて、お話ししたいと思います。それは、、、
焼肉。
正確にいうと、焼肉屋さんです。
私、焼肉屋さんに40過ぎまで行ったことがなかった・・・と思う。以前にも散々お話ししていますが、私の家は明日のご飯に困るほどではないけれど、余裕はない。外食は年に1、2回程度で、西武新宿線沿いにある「おおむら」という定食屋で食べるのが常でした。そこで食べるものは皆決まっていて、兄は「カツ丼」私は「オムライス」。これ以外のものを頼んでは両親に申し訳ないという、幼いながらも配慮のできる子どもでした。
高校に行った頃の外食はほとんど、友達とロッテリア。その先はさすがに色々なお店に行ってはいるのですが、なぜか焼肉屋さんだけは行ったことがなかった。初めてできた彼氏も、私を焼肉屋さんに連れて行くほどのバイト代はなかった。もちろん焼肉、食べたことはありますよ。家で。でもそれはいつも野菜と絡まっていたので(すき焼きなど)、肉だけを焼くということがなかったんです・・・いや、あったかもしれないけれど、とにかくそれは「家」でのこと。外で肉を焼いたことはありませんでした。
そして時は流れ・・・。
シナリオを学んでいた頃、あるCMディレクターと知り合いました。見るからにオシャレで、ちょっとお茶するにもランチするにも、素敵なところでご馳走してくれました。その方がある日、「うまい焼肉屋があるから行ってみよう」と誘ってくれたんです。「肉、好き?」と聞かれて「大好きです!」と答えました。それは本当のことなので。
代官山かなんかの(記憶が曖昧)、坂道をおりた角にその店はありました。庶民的な店を装いながら、実は高い・・・という雰囲気がムンムンしていました。「なにが好き?」と聞かれてメニューを見せられた私は、、、答えられませでした。知らない肉の名前が、いえ肉の名前かどうかもわからない名前が連なっていたんです。
肉といえば、モモ、バラ、小間切れ、合挽きくらいはわかります。もはや後半は肉の部位ですらありませんが。
肉が好きだと言っておいて、どうしよう。選べない。分からない。メニューを意味もなくめくる私に、D(ディレクターだから)は、「適当に頼んでいい?」と言ってくれました。
「お願いします」
ホッとしてメニューを置きました。Dは店員さんに、訳のわからない肉の名前を次々と言ってました。店員さんもふんふんと聞いて、鉄板に火をつけて奥に入って行きました。まずビールで乾杯。ビールはわかる。美味しい。
そして肉登場。銀皿にのっているお肉のどれを見ても、「これは〇〇だね!」と言えるものが一つもありませんでした。多分知ってるものもあったと思うのですが、おしゃれに切られたそれが、食べたことのあるものかどうか、私にはまったくわかりません。Dは次々に肉を鉄板にのせていきます。私はその手元をじーっと見てるだけ。そのうち「これ、焼けてるよ」と私のお皿に肉をのせるD。「ありがとうございます」とは言ったものの、今度はその肉をどのタレにつけて食べたら良いのかわかりません。Dが塩につければ、私も塩。Dがニンニクだれにつければ私もニンニクだれ。それを繰り返すだけで精一杯でした。そんなだから、シナリオの話もよく頭に入ってきません。
しばらくして、Dが言いました。
「何で自分で焼かないの」
それは・・・。
40すぎて「焼肉屋に来たことないんです」と正直に言ったら、どんな顔されるんだろう。他にはどんな言い訳があるんだろうと考えながら、黙り込んでしまいました。Dは私を、男に何でもやってもらうだけの女だと受け取ったか、気が利かない女だと受け取ったか。どちらかだと思います。そういうのは大抵お金持ちの家で育った女性が陥りがちなことですが、お金持ちでなくてもそうなるんです。
「・・・すみません」
私はとにかく、目の前の生肉を鉄板にのせ始めました。でも今度は、どのくらいで焼けたと言えるのかが分からない。Dは結構レアでも鉄板から引き上げて食べていたり、しっかり焼いてから食べているものもあったり。「それ、もう焼けてるじゃん」と言われてから、慌てて箸を動かす私。
もう飲むしかないと、ビールばかりガブガブ飲みました。笑顔でこの場を乗り切ろうと思いました。酔ってくると確かに肉のことはどうでもよくなって来ましたが、肝心のシナリオの話まで出来なくなってきました。
肉が焼けない女ということより、シナリオに真剣に取り組んでいない女だということに対して、Dは怒り出しました。私はただただ、謝るしかありませんでした。
その後も、
男性に焼肉屋さんに誘ってもらう機会は何度もありました。この時のDとの経験がさらに自分のコンプレックスを強くして、回を重ねてもやっぱりなかなか肉に手が出ないことが多かった。でもある日、ある男性が言ってくれました。
「焼けばいいんだよ」
おそらくその人には、どう焼いたらいいのか分からない自分のことを、正直に話したんだと思います。その答えがこれだった。そうか、ただ焼けばいいのか。肩の力が急に抜けました。
それからは「このお肉、なんて名前なの?」「どのくらい焼けばいいの?」「どのタレにつければいいの?」と聞けるようになりました。
・・・て、自分で覚えようとしないんかいっ!
コンプレックスって、何でも乗り越えなきゃいけないって思ってました。焼肉屋で恥をかきたくないなら、もっとよく調べて知って、経験を積んで出来るようにならなきゃって・・・大げさではありますが、Dに嫌われたあとはそう思ってました。でも別に「焼けばいい」「やればいい」だけのこともあります。その方がずっと楽しいって場合もあるんだと教えてもらいました。
今年は丑年だし(もう4月だけど)、さっきスーパーマーケットに行って「焼肉用」というお肉を見たので、この話を思い出して書きました。
ちっちゃな話ですみません。それではまた。
サウナのサチコより。