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はなこはやべえよ

熱波師の宮川はなこさんと、サウナに行ってきた。

もうそれを言うだけで誰かに刺されるんじゃないかと怖い。はなこさんにはファンが多いから。何ではなこさんは私を誘ってくれたのだろう。その理由もわからなくてずっとモヤモヤしていた。はなこ粘土を何度も作っているからかな、はなこさんのこと月刊サウナに書いたからかな。いや、そういうギブアンドテイクみたいな人じゃないし。

行ったのはサウナ錦糸町。はなこさんと初めて会ったのもここだった。でもその頃は男性専用で、レディースデイでお互い客として来ていただけだった。そのサウナ錦糸町に女性サウナができたので、はなこさんは行ってみたいと思っていたらしい。おそらく、サウナ錦糸町→サチコと会ったところ→サチコを誘う、ということになったのだと私は想像している。なんでいちいち理由がないと、誘われることに納得できないんだろうな私は。

錦糸町駅

いつものように早く着いた。私はものすごい方向音痴で、駅から数分のところでも迷う。しかも以前に行ったところでも同じように迷うという自信がある。しかし今回はなぜかうまくいった。うまくいったので約束の時間まで40分くらい余ってしまった。ここで駅なんかに戻ったらまた迷いそうなので、サウナ錦糸町の目の前のファストフードに入った。落ち着かない。初デートかというくらい落ち着かない。沖縄にいるサフレにラインした。はなこさんに今から錦糸町で会うよと言われても困るだろうけど、ラインした。それでもまだ時間が余って、はなこさんにプレゼントしようと思っていた起き上がりはなこをテーブルに置いて、写真を撮ってみたりした。そして気がついたら急に10分前になっていた。サウ錦の前ではなここぼしの写真を撮っておこうと思っていたから、慌ててサウ錦に戻る。こぼしと写真。なかなか映える。

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そこに「サチペソ」という声が聞こえてきた。はなこさんだ。はなこさんの顔を見て声を聞いたら、一気に緊張が解けた。普通は会ってからの方が緊張するはずなのに。不思議な人だ。

私の手のひらの起き上がりはなこを見て、はなこさんは気持ちが悪い的なことを言った。それはないだろう。私は差し上げるきっかけを失い、まぁ荷物になるし帰りに渡そうと、そのままこぼしをカバンにしまった。この時はなこさんは、「くださらないパターンか!」と思ったらしい。そんなわけない。

サウナ錦糸町

中に入ると、誰もいなかった。全てセルフサービスだった。私はカッコつけてショートブーツで行ったため、小さな下駄箱に入らず、右足と左足で二つの下駄箱を使わせていただいた。さて、どのように入館すればいいのか。カウンター前に大きな立て看板がある。そこにしっかりとわかりやすく入館の流れが書いてあるのに、残念なことに私もはなこさんもそういうのを読まないタイプの人間だった。でもどちらも読まないのはまずいので、二人で声に出して読んだ。そして券売機にお金を入れてタオルを手に地下に行った。なにやら細長い。細長い廊下の左手にロッカーが並んでいる。反対側、右手前の扉を開くと岩盤浴。右奥の扉を開くといくつかのカランが並んでいて、その奥に浴槽があった。しかしその浴槽に手を入れてみて驚いた。水風呂なのだ。つまりここには風呂がないということがわかった。じゃあサウナは・・・と探すと、岩盤浴に一度入ってからすぐ左手の扉を開けたところだった。なんか動線がおかしい。これは開いたノートをそっと閉じるパターンかと私は固まった。はなこさんもそんな感じの顔をしている。

「いや、楽しもうよ」と私がいうと、「そうだね」とはなこさんも頷いた。

まず体と髪を洗う。それから一度外に出て、岩盤浴の扉を開き、サウナ室の扉を開いて中に入る。熱っ。私と会うからなのか、はなこさんはなにけんのサウナハットを被って確かタオルもなにけんでキメていたと思う。私のタオルは駒込のロスコだった。そういうの考えないことが自分でわかった。

サウナ室も細長い。そしてよく見ると上段奥に小さな扉がある。なにやら貼り紙がしてあって、ここから水風呂に直接入れるようなことが書いてある。ただ勇気のある人はどうぞ的な感じでもあった。入っていいのかいけないのか、どっちなの。「ここからそのまま水風呂に行けるみたいよ」と私が言うと「それって汗を流さずに入るってことじゃん」とはなこさんは間髪入れずに言った。あ、ほんとだ。全く気づかなかった私は、冷静なはなこさんに感心した。

サウナ室ではなこさんといろんな話をした。運良く二人きりだったから。私は基本的に、相手が開いた分だけ自分の心を開くようにしている。はなこさんはどんどん心を開いて話してくれるタイプ。だから私もつられて話した。おそらく9割がた開いてしまったように思う。その内容はもちろんここには書けない。個人情報だというのもあるけど、私の記憶の量は非常に少なく、しかも大事なことは忘れてしまってくだらないことだけはよく覚えているという、役に立たない脳を持っているからだ。

この後の内容も、そのくだらない方の記憶を綴ることになると思う。

「今なん分くらい経ったかな」と聞くと、はなこさんは「6分くらい」とすぐに答える。こういう時、熱波師だなと思う。6分で9割も心を開いてしまったよ。そろそろ出ようかと私たちは立ち上がった。結局あの水風呂に通じる小さな扉を利用することはできなかった。二人とも常識を破ることができない小さな人間だった。サウナを出て、岩盤浴からも出て、廊下を数歩して洗い場の扉を開く。おかしな動線も慣れれば楽しい。シャワーで汗をしっかり流してから大きな水風呂に入った。明らかに普通のお風呂を水風呂にした感があり、男湯の水風呂ほどではないが、それでもかなり大きい。一つだがしっかり打たせ水もある。脳天を直撃する強さが気持ちいい。打たれながらサウナ室に続く小さな扉を見る。修行僧のような格好をしながら、いつか非常識なことをしてみようと心に誓う私だった。

せっかくなのでサウナ錦糸町womanで一番大きなスペースを占める、岩盤浴も楽しむことにした。私はどこの温浴施設に行っても岩盤浴には殆ど入らない。入ったことはあるが、すぐに出てきてしまうのだ。どうもじっと寝ていることができなくて落ち着かないから。しかしはなこさんは岩盤浴も好きらしい。体の水滴を拭きながらガラス越しに岩盤浴の中をのぞいている。ご婦人が一人、気持ちよさそうに寝ているのが見える。はなこさんにはそのご婦人が、岩盤浴用の何か特別なものを体に巻いているように見えたようで、それがどこにあるのか探し始めた。すると棚にいくつも同じ形をした巻物が並んでいる。ロープで縛られているその反物のようなものが、あのご婦人の使っている岩盤浴用の着衣なのではないかと、はなこさんはロープを解いた。出てきたのはどでかい麻袋だった。障害物競走じゃあるまいし、これに入って岩盤浴をするとは到底思えない。これは明らかに使用済みのタオルを入れる袋だ。はなこさんは慌てて元通りの反物の状態に戻そうとして、「これどうやって畳むのか」と言いながら苦戦していた。さらにはなこさんに反応した近くの蛇口から自動で水が出てきて、私は笑ってはいけないが笑ってしまった。そして「丸めて縛っておけばいいんじゃない?」と適当に言うだけで手伝わなかった。

岩盤浴

ゴロゴロと大きめの石の上にバスタオルを巻いた体を横たわせる。初めはイタタタと思っていたが、次第に慣れてくる。目を閉じて深呼吸してみた。気持ちがいい。が、いつものように数分で落ち着かなくなってきた。でもここには風呂がないから、選択肢は岩盤浴かサウナしかない。するとはなこさんは隣で漫画を読み始めた。え、漫画読むの?と私は驚いた。これまで入ったことのある岩盤浴はどこも室内が暗く、何かを読めるようなところではなかった。しかしここは場所によっては明るい。「外に漫画あるよ。終わってるけど」とはなこさんに言われて、私は一度廊下に出て本棚の中から適当な本を探した。本当に終わってる感じの本しかなかったが、その中から無理やり一冊選んで岩盤浴に戻った。一応はなこさんに何を選んだか報告した。デヴィ夫人の「選ばれる女になりなさい」とかいうタイトルの漫画だった。「それ選ぶか」とはなこさんは鼻で笑った。戦争から始まるデヴィ夫人の半生は非常に雑に描かれていた。ちっとも選ばれた感がなかった。そして最後のページをめくって私は驚いた。ページが途中で切れていた。「これ途中で終わってる」と声に出してはなこさんに言ったくらいだ。せめて結末くらい知りたかった。

そのあとは名探偵コナンを読んだ。これもアニメより話が雑だった。岩盤浴には私とはなこさんの二人きりだったので、私ははなこさんにコナンの悪口ばかり言った。「普通にビルから突き落とせばいいものの、なぜわざわざ地上からロープで一度引き上げて落とすのか」とか、「ネクストコナンズヒントは漫画ではないのか」とか。はなこさんは「ぶっ」とか「そうか」とか「そうだね」とかいい感じで適当に返してくれた。私はこれが丁度いい。気を使って「どれどれどこがそんなにご不満なの」とか言われると、自分から話しかけておいて辛くなってくる。私は目につくものや頭に浮かんだものをどんどん口に出す性格なので、無視しない程度に適当にあしらって欲しいのだ。はなこさんはその辺が絶妙だった。

おそらく1時間近く石の上に横たわっていたと思う。女優並みに汗をかかない私がしっかり全身に汗をかいていた。こんなに岩盤浴にいたのは初めてだ。漫画読んだり雑談したり。とてもリラックスできた。はなこさんは時間の楽しみ方を知っている。それを教えてもらった気がした。「そろそろ時間だから(3時間制)、サウナにもう一度入ろうよ」私が言うと、はなこさんは立ち上がった。「ここ、リピするかも」と、どちらともなく言った気がする。

誰もいないサウナ室で私は入り口近くに座った。はなこさんは温度計を見に奥に行った。するともう一人、若い女性が音もなく入ってきた。はなこさんはその女性に気づかず、温度計を見ながらでかい声で「おい、112度ってバカかよ」と言った。振り返って女性を見たはなこさんは「あ、すみません」と頭を下げていて私はクックックと笑った。熱くて早々に退室した私は知らなかったが、その後、はなこさんはサ室でコケたらしい。

5階のパウダールームは真っ白な世界だった。そしてやはり細長かった。私とはなこさんは二人して「ニベア1本派」だとわかった。サウナ錦糸町を出るとまだ15時を回ったところだった。はなこさんは私が差し上げた「はなここぼし」を恥ずかしげもなく自分の手のひらに乗せたまま、錦糸町を歩き続けた。そういうところに私は胸が熱くなる。はなこさんお目当の居酒屋はまだ開店しておらず、その近くの馬力に入った。埼玉のリキには何度も行ったことあるけど、馬力は初めてだった。

「嫌いなものはあるか」「胃弱なのか」とはなこさんに聞かれた。牛乳丸呑みだけができないけど他に嫌いなものはないこと、一度痩せてから胃が小さくなってしまったことを告げた。はなこさんは「食べられなかったら私が食べるから」と非常にカッコ良いことを言って、その言葉の通り、驚くほど飲んで食べていた。しかし私もつられて飲んで食べた。いつもの頭痛も胃もたれもなかった。シメのラーメンやおにぎりまで食べた。塩で結んだご飯と味噌汁がめちゃくちゃ美味しかった。ずっとはなこさんと喋って笑っていたように思う。途中から隣に座っていたご婦人まで私達の話を笑って聞いていた。競馬新聞を持ってテレビでレースを観戦しているお客さんを見て、はなこさんは「生きてるって感じ!」と興奮していた。私は馬より、テレビの下で青いベレー帽をかぶって座っているご婦人が気になっていた。「ペソが気になるのわかる」とはなこさんに言われて、なんとなく嬉しかった。

自分の方が飲んだからとはなこさんは多めに払ってくれたけど、同じくらい私も飲んで食べていた。店を出た足で、はなこさんはニューウイングに突っ込んで行った。「ここ男性専用だからまずいって」とか言いながら途中まで笑いながらついて行った私も、まさかはなこさんが靴を脱いで本当に中まで入り、カウンターで吉田さんを呼び出すとは思わなかった。吉田さんがいないことがわかると今度は「書くものをください」と頼んでいる。どうやらメッセージを残すつもりらしい。泥酔した女二人の乱入にニューウイングのスタッフさんは完全に押されている。はなこさんは私を振り返り、「ほら、ペソも書いて!」と言い出した。「いや私は吉田さんと一度しかお会いしたことないし、吉田さんは私のことを知らないと思うし」と拒むのだけれど、はなこさんはメモの上部に一本線を引いて、フリースペースと殴り書き、「ここになんか書きなよ」とペンを差し出してくる。ショートブーツを片方だけ脱いで、ケンケンしながら私はペンを受け取り、百合子の顔と「なにけんでお世話になりました」というわけのわからないことを書いてサインした。そのあとはもう、レデースデイかと思うほどニューウイングの入り口で記念写真を撮り、笑いながら駅まで歩いた。JRの改札に一緒に入ったところで私は自分が地下鉄だったことに気づいた。間違えたと言うと「そうだね」とはなこさんは普通に返してきた。じゃあまたねと手を振り合い、私は改札にいる駅員さんに地下鉄でしたと言ってパスモを渡した。

かなり酔っていた。電車に揺られながらはなこさんとサウナに行ったことをツイートした。明日ツイートするとかはなこさんに言ったような気もするけど、嬉しくて寂しくてすぐにツイートしていた。もう誰に何を思われるかなんて考えることもなかった。はなこさんもそのあとツイートしてたけど、ちゃんと私の顔にスタンプをつけてくれていた。ちゃんと顔出ししてる人の横で、自分だけ顔出ししないのって本当は嫌だとずっと思っていた。失礼だなと思っていた。後日、はなこさんは私に、粘土でサチコの仮面を作れと言ってきた。公の場で顔出しするために必要だと。そうだねと私はお面用の型を文房具屋で注文してから気がついた。別にサングラスにマスクでいいんじゃね?と。

でも多分、紙粘土で自分の顔のお面作ってはなこさんの横で写真撮る方が、かなり面白い。「それで一緒に巡業しようよ!」と言うはなこさんに「うん、しよう」と言ったけど、私がサウナ室で出来ることあるだろうか。

はなこさんに色々お土産もらった。それを自分の部屋で広げて思った。どれも暮らしを楽しくするもの、自分を楽しませるものだなと。そしてそれは今の私に、とても必要なものばかりだった。



最後になりますが。

私は宮川はなこという熱波師も、宮川はなこという女性も大好きでして、推しと言っても過言ではないほどですので、これを読んでくださったあなたは何だ自慢話かと思われたかもしれません。そうです。その通りです。でもたとえ今回のサ活の相手が私でなくても、これを読んでくださっているあなただったとしても、はなこさんは私と同じようにあなたを大事にしてくれると思います。はなこさんがそういう人だと、よーくわかっております私は。

はなこさんがいくら私をサチペソと呼んでも、私がはなこさんを「はなちゃん」と親しげに呼ばないのは、ずっとはなこさんのことを尊敬しているからだと思ってきました。確かにそれもあるんですけどもう一つ、理由があることに今回気づきました。

やべえんだよ、はなこさんは。

あんまり親しくなると、あるいは親しいと勘違いすると、いないことが寂しくなりそうでそれが嫌なんです。何を言ってるんだろうな私は。

一緒にいて腹から笑った。心から安心できた。このペソペソした自分のまんまでいられた。本当に楽しかった。はなこさんありがとう。


サウナ錦糸町、一人でも楽しめるようにしよう・・・としみじみ思うサチペソなのでした。


サウナのサチコ




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