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ある日の伊豆スカイライン #3


帰りに伊豆スカイラインを走ろうと
たった一人、峠道を上り、料金所に着いた時
切符を切りながら、おじさんが言った。

『これから走るのかい?

 今日はね。4回も事故があったから。
 気をつけた方がいいよ。

 4回もあったからね。

 本当に。気をつけてね。
 4回も事故があって大変だったから。』


4回も事故!?

『4回も』って、何回言うんだろう。
3回言ったよね!!今・・・


この人、わたしが事故に遭ったこと
知ってるんだろうか。

5日後に、鎖骨の再手術をすること。
わたしのどこかに書いてあるんだろうか。


「わたしは事故に遭いました!」
と書いたたすきでも肩からかけているのかと
一瞬、胸元を見てしまうほど

料金所のおじさんの言葉は
わたしの心に強烈に刺さった。


事故。

なぜ、わたしに言う?
なぜ、事故の話を強調して言う?

わたしにだけ言ったのか?
わたしが事故に遭ったとわかるのか?

そんなに見てて不安な走り方をしてる?


不安がパンクした。
頭の中がぐちゃぐちゃだ!!



「走るの止めます。」というのを
期待するような雰囲気で渡された切符を
意を決して受け取る。

切符をグシャッとウエストポーチに突っ込む。
なんだかちょっと腹立たしい。


料金所を通過し
バイクのアクセルを開けた。


事故・・・


Uターンしてきたバイクに
突っ込む瞬間を思い出す。

動き出すのはわかっていた。
見てたんだ。そう。

ミスったのは
並走すると勘違いしたこと。

あの時、目の前を横切る想定を
頭の中でイメージしていたら…


怖さと悔しさで身震いしそうだ。


事故が4回
事故が4回


お経のように、何度も唱えてしまう。

5回目の事故に遭ってはダメだ。絶対に。



前後に車はいない。
一人、スカイラインを走っている。


足先が震えてきた。
力を入れてステップを踏み過ぎている。

景色が見えない。

横から出てくる何かを
必死で見つけようとしている。


怖い!


でも、料金所は通過してしまった。
進むしかない。



料金所で折り返す気持ちにはなれなかった。

さっきの寂しい気持ちになる道を下り
また、海沿いの国道に戻るのは
振り出しに戻るみたいで嫌だった。


帰るには、ここを通るしかないんだよ!


身体中に入った力を
抜くことができないまま
心の中で叫ぶ。


恐る恐るバイクを走らせる。

傍から出てくる何かを必死で探す。


何かが出てくるかもしれない。
車、バイク、動物。
一体、何が・・・?


頭が少し動き始めた。
走りながら、考え始める。


事故が1日に4回。
4回も事故があった。
どんな事故があったんだろう。
Uターンもあったんだろうか。

目の前を横切る車と当たるとしたら
展望台から出てくるか、路肩に停まっているか。

ここは、尾根伝いの道で
交差する道路はない。

Uターン事故は確率としては
少ないんじゃないだろうか。


山の尾根を走るこの道は
少しアップダウンもあるが
山の連なりを縫うように、ほぼ平坦に走る。

周りに他の道はない。

頭がだんだん冴えてきた。


スカイラインでよくある事故って
どんな事故?

さっき、聞いとけばよかった。

Uターンじゃないとしたら
対向車とぶつかるパターン?

バイクが転んでこっち車線まで
すべってくるとか。

Uターンは無くない?


不安はあるけれど
現状把握の方が大事だ。

想定しないと。
イメージを増やさないと。

想定外のことが起こるから
対応できないんだ。



伊豆スカイラインは事故が多い。

noteで教えてもらうまで知らなかった。


この前、箱根ターンパイクを走って
大観山で休憩した時に

置いてあった『伊豆』と書いた雑誌に
『伊豆スカイラインはなぜ事故が多いのか?』
という記事が載っていて

「事故が多いって本当なんだ。」と思った。

そのくらい、何も知らなかった。
そして、昔は知らずに何回か走っていた。


その時の、雄大で心洗われるような景色を
心のアルバムに大切にしまっている。

もう一度、見られるのか。







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