バイクツーリング　群馬　榛名　その3

富士山を見て
少し勇気が湧いた。

車の流れに乗って走る。
少し車が増えてきた。

信号で停まる。
怖いから前には出ない。

先頭で走ると
ぶつかる可能性が高くなるから。

路肩から出てくる車
Uターンするバイク

車が増えてくると
途端に用心し始める。

事故の後遺症だ。
少し、心がかたくなった。

まっすぐの道を進む。
車の後につく。

気持ちよい道なんだけど
周りが怖い。

予測するものが増えると
空が見えなくなる。

必死で周りを見る。
走り始めは特に目が追いつかない。

ドキドキしながら
広い通りを走り抜ける。

橋が見えた。
左端を走る。

橋は安全だ。

路地が無いから。
Uターンもできないから。

やっと安心して左右を見る。

右に、お日さまが見えた。

ホッとして
少し力が抜けた。

橋を渡り、左折。

ここからが、大好きな道。
川沿いを走る。

初め、左右にカーブする。
ここが好き。

いつだったか
帰り道に通ったとき
道沿いに洒落たお店があって

カフェテラスで
お酒を飲んでいる人たちが
とてもいい雰囲気だった。

今は朝早いから
誰もいない。

そこだけは林のように
木が密集してるんだけど
すぐに道の両側が開ける。

ここからは
堤防の尾根部分を走る。

両側が下がっている。
わたしの通る所が一番高い。
片側一車線の道。

ここが大好き！
また通りたかった。

バイクで通るのは初めて？
スクーターで通ったことがあるかも。

榛名に行く時に
大好きだった道がいくつかある。

その一つ目がここ。

道の両側の下がった部分。

片方には広い河原。
グラウンドになっていたり
草原で犬の散歩をしていたり。

もう片側は住宅街だ。

道の脇には、桜並木。
春は最高だ。

川の向こうには
マンションが立ち並ぶ。

そのまた向こう。
山並みが連なっている。

走りながら、探す。
いないかな？いるよね？

ここからも見えるはず。

いた。富士山だ！

心の底からホッとする。

この間
あの近くを走ったんだよなぁ。

あの山の
中腹まで登ったんだよなぁ。

今は
白くなってしまった富士山を見つめる。

今は登れない。
あの時走れて、本当によかった。

富士山を見つけた後
目線を戻し、正面を向いたら…気づいた。

あっ。お月さま。

朝、玄関で逢ったお月さまがいる。
ちゃんとついてきてくれてるんだ。

走っても走っても
目の前にいる。

行き先を
示してくれているみたいだ。

ついてきてくれる相手がいて
嬉しくなってしまった。

ありがとう。一緒に来てね。

お月さまに
お礼と挨拶をした。

そういえば
さっき右手にお日さまが見えたな。

そう思い、
バックミラーを見てみた。

あっ。お日さまも！

ミラーにピッタリ収まる位置で
お日さまがのぞきこんでくれていた。

もう一度
くり返してみた。

左前方に、富士山
正面に、お月さま
後方に、お日さま

三方から
見守ってくれている。

あたたかいものが込み上げてきた。

気づくと、視界が滲んでいた。

ああ。守られてるんだ。
一年前、事故に遭った日に
走っているわたしを… 守ってくれている。

今日、走るかどうか
ずっとずっと悩んでいた。

そんなわたしに
富士山と月と太陽が

『大丈夫だよ。行っておいで。』

と言ってくれた気がした。

じわっと
込み上げるものをこらえながら

「ありがとう。行ってくるね。」

と心の中でつぶやいた。

今日、走りに来てよかった。