バイクツーリング 群馬 榛名 その9
コンビニが見えてきた。
これでやっと
今どこにいるかわかる。
新しい店だ。
駐車場が広い。
店の左脇にバイクを停める。
ヘルメットを脱いだ。
スマホを見た。
娘からメールが来ている。
時間は数分前だ。
さっき起きたんだな。
娘を待たせなかったことにホッとする。
すぐに聞かれたことをメールで返す。
今日、娘は一人で留守番をしている。
いつも家に誰かいるので
娘が一人になったことはほとんどない。
今日が初めてか、あっても2回目か。
「ピースがいるから
何かあったらピースのところに行ってね。」
と昨日伝えておいた。
朝起きて、誰もいない家にいて
娘は平気だろうか。
なるべく早く帰ろう。
心に決めて、店に入る。
お手洗いを借り
お昼用におにぎりを一つ買った。
さて・・・
ここはどこだ?
地図を出す。
じっと見る。
手前で右折してしまったようだ。
高速の向こうを走っているはずの国道が
周り込んでこちらに来ている。
ここも25号なのか。
新道に同じ番号を振る
バイパス的な道ということか。
もう少し左か。
この先の信号で左折したら
行きたかった道に行けるようだ。
その先をじっと見る。
《井出》という交差点を探す。
この辺りで唯一わかる場所だ。
井出の交差点を通りたい。
井出から先が、大好きな道なんだ。
高架をくぐるようだ。
この辺りを
帰りに通った時のことは覚えているのに
行きは…全くダメだ。
地図が何ページかにまたがっていて
かつ拡大できないので
信号がいくつあるのかわからない。
仕方なくスマホの地図を開く。
現在地から井出を探す。
次の信号で合ってる。
混む前に帰りの高速に乗った方がいいから。
娘のことを思い出す。
先を急ごう。
コンビニを後にする。
きれいな道だ。
どこに向かうのか知りたい気持ちも湧く。
でも、井出に行きたいので
我慢して次の信号で左折する。
道なりに走る。
車はあまりいなくて静かな道だ。
高架をくぐる。
くぐると右折だ。
地図上は黄色い道路。
県道だと思う。123号線。
畑と高架の間を走る。
一気に視界が開けてきた。
ここは覚えている気がする。
上を新幹線が通っていた。
視界が開けると、大きく息が吸える。
井出の交差点に来た。
いよいよだ。
ここから民家の軒先を走り抜ける。
写真を撮りたいけど無理だろう。
ここに来ると
タイムスリップしたような気持ちになる。
路側帯がない。
道路のすぐ脇が民家の壁だ。
路地から顔を出すと
通り過ぎる車に当たれるくらい
道は細く、道路と近い。
道はまっすぐで上っている。
その先に山々がある。
でも、まだよくは見えない。
どうしてこの道に惹かれるんだろう。
なぜ、またここを通りたいと
願っていたんだろう。
峠道ではない普通の道。
でも、昔懐かしい江戸のような道。
わたしの好きな道は数少ない。
その中で、また通りたいと思っていた道。
その道を通ることができて
ああ。榛名に来たんだなぁ。
やっとバイクで来ることができたんだなぁ。
しみじみとした。
停まる路肩はなく
写真も撮れないまま
ゆっくりとバイクで通り過ぎた。
いかにも裾野を上っているという風情の
真っ直ぐな上り坂を走っていくと
《柏木沢》という交差点にぶつかる。
ここは直進できないので右折。
次の《広馬場》ですぐに左折。
この辺りのスナックに連れて行かれて
バーの女の人やみんなと飲んだなぁ。
スナックに入ったことはなかったので
男の人たちの楽しそうな様子を
静かに観察していた気がする。
わたしがいる時は
みんないつも気を遣ってくれて
下ネタを言わないようにしてくれていた。
多分そう。
わたしがその手の話に乗れないから。
それが、スナックの女の人とだと
ああなるのかっていう違いが
面白かった記憶がある。
そして、カラオケで一曲と言われて
中西保志さんの『最後の雨』を歌ったら
みんなに喜んでもらえたことも。
カラオケで上手く歌えなくて
いつも恥ずかしい思いをしていた。
この時初めて
「男の人の歌なら歌えるのか?」
と思ったのは、後の今につながっている。
ほとんど呑み食いしていないのに
払ったお金がたくさんで
食べ物代ではなく
場所と人に対してのお金なんだろうな
と思ったことも思い出した。
広馬場を左折。
ここから先の風景はよく覚えている。
店や家が少なくなり、一気に山が近づく。
坂道を走りながら
周りの畑と近くなった山を眺める。
気持ちがいい。
景色を堪能して
楽しく走っていたら
T字で突き当たる交差点に
コンビニが新しくできていた。
ふもとを見下ろせる位置に
自転車を停めた二人組が座って
休憩をしている。
ここからの景色、いいかも!
ふと思い、バイクを停める。
ふもとの見えるところまで行く。
思ったほどではない。
急ぎたいと思ってはいるけれど…
せっかくだから、少し戻って写真を撮ろう。
バイクにまた乗って
今来た道を下りて行った。