九州ツーリング その19 城島高原
海沿いを走っている。
空は今にも降ってきそうな色。
でも、嬉しい。
九州にいるのだから。
だんだん実感が湧いてきた。
日本地図を思い出す。
関東から四国を経て九州へ。
ずいぶん走ったものだなと思う。
今日から九州を走る。
九州の道はどんな顔をしてるんだろう。
景色が変わってきた。
海沿いを離れ、よくある郊外の道へ。
車の列に混じって走る。
R197。道は広く、平坦で走りやすい。
ひと区間だけ高速に乗ろうとしていた。
雨が降ってくる前に、城島高原に着きたいから。
雨が降ると、路面が滑る。
山道を雨の中走るのは怖かった。
街の中に入ってきた。
整備された道で、まっすぐ進んでいく。
緑の看板が見えた。
高速のインターを示す看板だ。
インターの名前が違う。
ここでは左に曲がらない。
乗りたいインターは『大分』だから。
まだ先に進む。
どこに行っても同じような景色を見る。
広く整備された道。周りに同じような店。
走りやすさを考えると、こうなるんだろう。
街の顔というより移動手段の趣。
また、緑の看板が見えた。
また違う。
3つめの看板も名前が違った時
何か間違っているのかな?と不安になった。
県道21へ。
カーナビはない。
記憶を頼りに走っている。
覚えているのは、道の名前と交差点名だけ。
不安が増すと、景色が目に映らなくなる。
この間、覚えているのは緑の看板だけだ。
余裕がなくなっている。
今は、大分インターを見つけるしかない。
不安を押し込めて、先を急いだ。
緑の看板が見えた。
東九州自動車道『大分』インターの入り口だ。
側道から入り口のゲートへ。
ETCなので、一瞬で通り過ぎる。
目の前に分岐がある。
両方の看板に目を走らせた。
知らない地名ばかり。
どっちの道かわからない。
バイクは進んでいる。
道路の真ん中過ぎて、路肩に寄れない。
分かれ道が迫ってきた。
どっちが行きたい道かわからない。
今ここでは止まれない。
唯一知っていた地名
『別府』と書いた看板の道に入って行った。
本線に入る。
走るごとに後悔が募る。
大分から高速に乗ると覚えたが
『ひと区間だけ乗って降りる』としか
記憶していなかった。
降りるインターの名前は
何だったんだろう。
ひと区間だけ乗って降りればいいやと
たかを括ってしまった。
恐ろしい予感が
心をひたひたと覆い尽くしていく。
周りの山もたまに見えているはずの
遠方の景色も何も目に入らない。
高速はいわゆる山間区間で
わたしの好きな雰囲気の道だった。
高速は脇道も対向車もないので
本来、心休まる道なのに。
曇り空を恨めしそうに見上げる。
お日さまが出ていれば…
陽の光があれば、方角がわかるのに。
そう思う自分に驚く。
そうか。長く旅をしている間に
自分の進む道が合っているかを
太陽で確認していたのか。
今は、灰色の空しかない。
他の方法を考える。
今まで3つのインターを通過してきた。
元に戻る方向に走っていたら
次のインターはさっき見かけた名前のはずだ。
間違っているかは
次のインターの名前でわかるはず。
そう決めた時、ようやく心が落ち着いて
周りを見られる余裕ができた。
周りを見渡す。
山の尾根を繋いだような道だ。
両側には山の木々が見える。
桜はなさそうだ。
緩やかにカーブしていて楽しい。
ようやく道を楽しむ余裕が出てきた。
雨が降ってきていないのが
せめてもの救いだ。
それにしても、次のインターが来ない。
もう既にだいぶ走っている。
さっき街中で見たインターの案内だと
もうとっくに次のインターに来ている頃だ。
希望の光がひとつ心に灯る。
フェリー乗り場が別府だったはずだから
戻ってる気がするんだけど。
九州の地図をちゃんと見ていなかった
自分を激しく悔やむ。
地名の位置関係がわからない。
四国佐田岬から来て
着いた港は別府だと思う。
別府から下道でようやく『大分』まで来て
高速に乗ったのに
今また『別府』へと戻ろうとしている。
県単位でしか位置の把握をしていない
自分を心から恨めしく思う。
社会の地理みたいになってきた。
でもちゃんと覚えないと、今みたいな目に遭う。
命懸けだ。地理は大事。
ようやく諦めがついて
景色を楽しみながらバイクを走らせる。
街の中はつまらなかった。
木々が近い方がいい。
灰色の空の中、緑が映える。
次のインターの名前は何だろう?と
ワクワクしながら走っていたら
書いてある文字をじっと見つめる。
『別府』・・・で降りるのか。
だから、地名に記憶があったのか。
自分の記憶力を褒めるべきなのか
その記憶に変な推測を混ぜて
勝手に不安を募らせていた自分を叱るべきなのか
よくわからない感情が渦巻きながら
別府インターを降りた。
馬鹿馬鹿しくなると出る関西弁。
自分で自分にツッコミを入れて
自分で回収するしかない状況に
ちゃんと落とし前をつけて
と先の看板を見つめる。
次は間違えられない。
いや、間違えたくない。
正しい道を安心して走りたい。
信号で停まっている間に
目の前の看板をよく見る。
看板に城島高原の文字が見える。
雨が降り出した。
ポツポツとヘルメットにしずくがつく。
願いながら、県道11号線を走り出した。
道はどんどん標高を上げていく。
素直なカーブが続くいい道だ。
一度降った雨で濡れてはいるが
滑るほどの路面ではなかった。
タイヤの接地面を気にしながら走る。
地面にちゃんと食いついているか
バイクの挙動や振動から感じられる。
ゆっくりとトラクションをかけながら走る。
急な加減速は厳禁だ。
周りは木々が立ち、昔見た風景とは違う。
草原のような丘の谷間を走る、あの道。
車はほとんどいない。
対向車も来ない。
道は合っているはず。
右手にロープウェイ乗り場があった。
天気が良くて時間もあれば
乗ってみたい気もするが
今は旅の途中。先を急がねばならない。
通り過ぎて、停まるところを探す。
展望台がない。
だいぶ上まで来たなと思ったら
道が平坦になった。
登りきったんだろうか。
左手に曲がり道と旗が見えた。
右手には、茶屋と自販機。
駐車できる開けた場所があった。
一瞬考えて、右手の開けたところに入る。
ヘルメットを脱いだ。
雨は降り始めのような
ポツポツがずっと続いていた。
目の前の看板を見る。
茶屋はやっていないようだ。
この先、どのルートを走ろうかと
スマホのマップを開く。
geekさんに言われた言葉を反すうする。
雨の降りそうな中、走って感じたことは
「案内板が読みにくい」こと。
知った道は、雨でも行き先がわかるが
知らない道は案内板に頼るしかない。
その看板が見にくいのだ。とても。
自分に問う。
無理じゃないかと感じる。
地名がわからないと、どちらが正しいのか
とっさに判断できない。
晴れていたら停まってスマホで調べたり
何よりお日さまがいれば方角がわかる。
ここから先は分岐が多い。
100km増えたとしても
高速の方がいいかもしれない。
温かい飲み物を飲んで
ゆっくり考えて、結論を出した。
知らない道は危ないから。
不安なまま走っても
周りの景色は入ってこないから。
出る前に、マップをスクショしてみた。
最寄りのインターは『湯布院』
そのインターから乗るために
この先のどこかで右に曲がらないといけない。
曲がり角までの距離をスマホで調べて
バイクのオドメーターの数字を見て
と心に誓った。
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