バイクツーリング 群馬 榛名 その1
朝5時半、ピースのさんぽに行く。
月がきれいだった。
ピースと空を見上げる。
「走りに行ってくるから
留守番よろしくね。」
今日は走りに行くと決めていた。
前日の気持ち。
今日は10月の第4日曜日。
前の年、事故に遭った日。
悩んで悩んで…
でも、行くことにした。
行き先は、榛名山。
行きたかった最後の場所。
今回は
楽しく走るって決めてた。
事故を気にして
怖がって走るのもつまらないし
この間の富士山ツーリングみたいに
孤独の中にとっぷり浸かって
走るのも嫌だ。
せっかく走れるんだよ!
元気な身体と
頼れる相棒=バイクがいる。
走る機会があって
お天気が味方をしてくれている。
兄と父は泊まりで
前日から出かけてしまったから
家には娘と私とピースだけ。
娘には前日に聞いていた。
「明日走りに行くけど、いいかな。
ピースと2人だけど大丈夫?」
『うん。わかった。』
「朝起きたら、もういないかもよ。」
『えー。・・・了解。』
娘のために
なるべく早く帰って来よう。
お昼を食べたらすぐ。
明るいうちに戻れるように。
今日はもう寒いだろうと思って
洋服を着込むことにした。
でも、日中暑くなるかもしれないから
大きなリュックで行くことにした。
脱いだ服を入れられるように。
お土産を入れて帰れるように。
事故に遭う前に買った
完全防水のリュック。
鎖骨を骨折したので
大きなリュックは背負えなくて
せっかく買ったのに
もう使うことはないのかな?
と思っていたリュック。
腰にもベルトがついていて
肩だけじゃなくて
腰で背負える。
鎖骨の痛みが和らいだから
これなら一日背負えるかもしれない。
そう思って出してきた。
上着には
ベストと長袖フリースを着る。
中はタートルネックだ。
残念ながら
ヒートテック類は着られない。
皮膚がかゆくなるから
化繊の衣類は着られない。
だから重ね着。
空気の層で保温する。
下はゆるめのジーンズと
防寒パンツ。
なんとなく雨の心配をして
防水のものを買った。
これで
それなりの雨はしのげる。
足首には
レッグウォーマーと
バイク用の風避けグッズ。
(レッグウォーマーの分厚いやつ)
つま先とかかとが空いていて
くつ下みたいに履いて
足首に絶対風が入って来ないもの。
20年前に買ったもの。
今日も大活躍しそうだ。
手首の締まった
長袖のタートルネック。
袖は長めが好き。
グローブと袖の間を
隙間なく埋めるために。
首にはネックウォーマー。
昔はこんなのなかったなぁ。
マフラーはほどけてしまうので
不安になるから今はつけない。
首と名前のつくものを
しっかりガードしないと。
首、手首、足首。
曲げても隙間があかないように
少し長めにセットしておく。
しゃがむ。両手は前に。
ライディングポジションだ。
走る時の姿勢で
風が入って来ないように
よく考えて衣類を身に付ける。
さて
うちの中では
暑いくらいの防寒対策。
外で走るとどうなるのかな。
娘は寝ている。
荷物を持って
静かに家を出た。
6時、日の出だ。
空は透き通るような青。
夏の空とは違う。
空気が冷たい。
頬がひんやりする。
このくらい着込んで正解だ。
ピースに挨拶をする。
「いってくるね!」
バイクを出す。
防寒パンツの裾が引っかからないように
気をつけてまたがる。
ライディングポジションをとってみる。
大丈夫そうだ。
膝を曲げると
裾が持ち上がって足首が出る。
バイク用のブーツを履いていたら
足首は出ないから
そんな心配は無用なんだけど
ブーツを買ってなくて
ハイカットのバイク用シューズだから。
足首が出ると寒い。
でも
バイク用のレッグウォーマーも
その中に
毛糸のレッグウォーマーもしてるから
防寒パンツも長めのを買ったから
足首は出ない。
うん。大丈夫。
リュックのベルトを確かめる。
あっ。
胸元のベルトをし忘れてる。
グローブをつけた手だと
うまくベルトを止められなくて
結局またグローブを外して
胸のベルトをつける。
これで
風圧で後ろに押されても
リュックは肩からずり落ちない。
腰のベルトもつけた。
バイクに乗ると
大きいリュックはちょうど
底がシートにつき
結果、背負っているのではなく
後ろのシートに乗せている
というラッキーなポジションになった。
一年前に買ったリュックを
ようやく使える嬉しさ。
榛名へ行ける喜び。
あの紅葉がまた見られるなんて。
グローブをまたつけ直し
手首の風対策を万全にしたら
エンジンをかけて出発した。
いつもとは違う方向に走り出す。
それだけで
新しい道への期待感と
走ったことのない道への不安感が
ないまぜになる。
榛名には
バイクで行ったことはない。
いつも車で行っていた。
富士山の時より
少し遠い。
右手が持つかな。
腰は大丈夫かな。
不安が募る。
ふと空が見えた。
日陰の
両側に障害物がある道で
切り取られた青空を見た。
快晴の空。
透き通る青。
目線が上がる。
頭も少し上を向く。
途端に、口元に
冷たい風が入ってくる。
風の冷たさと空の青さが
同時に五感を刺激する。
すぅーっと
身体を覆うベールが
取り払われたかのように
目の前も
頭の中も
身体の中も
全てが澱みなく
クリアになっていく。
あぁ。
バイクに乗るってこういうことだ。
一瞬で心洗われたかのような。
悩みも不安も
ふっと消え去る瞬間。
陽の光が当たる道に出て
右肩にあたたかさを感じながら
まだ
車の少ない朝の道を
バイクで走っていった。