ある日の伊豆スカイライン #4
伊豆スカイラインを走っている。
せっかく走っているのに
料金所のおじさんのありがたい事故への忠告で
景色が全く頭に入って来ない。
尾根伝いの道を走る。
Uターンしそうな車はいない。
カーブで転んだバイクが
こちらに向かって滑走してくる。
そんなイメージで頭がいっぱいになる。
対向車が中央車線を割ってくる。
つまりカーブの後半が危ないってこと?
想定する事故の様子が変わってきた。
つまり、Uターンじゃない形で
何かがこの車線をふさぐかもしれないってこと。
思いつくシーンを
片っ端から予測してみる。
景色を見る余裕なんてない。
カーブを曲がると
誰かがバイクごと倒れているかもしれない。
オーバースピードの車が
こちらの車線まではみ出てくるかもしれない。
夕暮れ時、幻想的な景色のはずが記憶はなく
頭の中は事故のことでいっぱいだ。
気がつくと、前に一台の車がいた。
車がいれば、動きでわかる。
前の車が不審な動きをしたら
一緒によければいいんだ。
ホッとする。
身体の力もちょっと抜けた。
白いワゴン車は
いい塩梅で減速しながら
カーブを抜けていく。
ペース車が現れると、走るリズムも整う。
糸でつながれたように
白い車とシンクロして走る。
いつの間にか、車を盾に
事故から距離を置こうとしている。
それでも運転は忙しい。
白い車の挙動、対向車が来た時の対処。
全ての神経を運転と予測に費やしていて
やっぱり周りは見られない。
停まって景色を見るところがある。
でも、停まると白い車と離れてしまう。
また、一人で走ることに
不安と疲れを感じていたわたしは
展望台に停まらずに通過する。
いくつかの展望台を通過した。
車が停まっている。
その向こうに一瞬見える景色。
どの展望台も「あっ!」と思うのに
白い車と離れて、一人で走るには不安が強すぎて
停まる勇気が出ない。
陽が落ちてくるのも気になった。
ここで、暗くなるのは困る。
先を急がねばならない。
夕飯を作らないといけないのだから。
十国峠に来た。
ここをホームコースと言う人がnoteにいた。
いつだったか、「走りに行ってきます!」と
言っていたな。
ここも昔、通ったことはある。
でも、あまり記憶には残っていない。
カーブが急に細かくなる。
峠道のようだ。
スカイラインという名のつく道は
カーブが緩く、片側が谷で下がっていて
山肌に沿って走っているような
そんな雰囲気の道が多い気がする。
でもここは、両側の視界が
木と背の高い草のようなものではばまれ
峠道を思わせるロケーションだった。
相変わらず、白い車の後ろについて走る。
あおっているように見えないよう
少し距離を開けて走る。
加減速で急激に近づかないように気をつける。
(急に近づくと、自分が遅いと勘違いして
ペースを上げてしまう場合があるから)
なるべくシンクロして走る。
こういう時、上手い車につくと本当に楽だ。
そう思いながら
十国峠に入ると、少し攻めたくなった。
直線で車間を開ける。
少しゆっくり走れば、車間が空く。
カーブに入った後
アクセルをしっかり開ける。
カーブを味わうように走る。
カーブの終わりで、また車に追いつく。
直線は、またアクセルを戻す。
カーブ中で車に追いつかないように
車間を開けておいて、また次のカーブに進入する。
カーブ中に離される車は、まあいない。
普通は車の方が遅い。
ぐるっと一瞬まわり込む感じ。
路面には気をつけているが、いい気分だ。
あんまり近づくと
直線で左に寄って譲ってくれる車がいるから
後ろについていたい時は車間に気をつけないと。
カーブの先は見えにくい。
視界は良くない。
目の前の景色が変わり始めた。
丘と言えばいいのか。
木がないむき出しの地面。
でも、表面は草に覆われている。
目の前を丘が立ちふさがって
左に大きく回り込んだ先に
森の中ではない
山のてっぺんだから見える景色が
目の前に現れた。
全体的に、少しかすんでいる。
そう思いながら
やっぱり停まることはできずに
雄大な景色を横目に
一人、バイクで通り過ぎた。