バイクツーリング 〜静岡 富士山〜 その10
水ヶ塚パーキングを後にする。
正面を通過する時に、看板が見えた。
『森の駅富士山』
あれ?
もしかして、やっぱり開いてるのかな?
さびれた地方のパーキングみたいに
平日は閉まっていると思い込んでいた。
どっちにしても
お店に入れる心持ちではなかったけれど。
木立の中を走り始める。
木の密度が濃い。
お日さまを背にするからか
行きより薄暗く感じる。
路面はいい。
カーブのR(曲り具合)も走りやすい大きさ。
右に左に、カーブをさばいていく。
しばらく走る。
少し明るくなった。
木々の間が少し空いた。
下りのカーブで
少しイン側に体を傾けて入っていく。
タイヤに体重を載せながら
アクセルを開ける。
カーブを抜けた。
次のカーブに備えて
反対側に体の重心を持っていく。
ふと気づくと、視界がにじんでいた。
あれ?
なぜ、視界がにじむの?
涙だった。
ヘルメットの中なので
涙は拭えない。
わたし、泣いてるの?
視界がにじまないように
軽くまばたきした。
強く目を閉じると
涙がこぼれてしまうから。
涙があふれないように
目頭に力を入れる。
走っていて泣いたのは、初めてだった。
バイクに乗っていて
泣いたことなんて今までなかったのに。
どうして涙があふれてきたんだろう。
悲しいの?
自分に問いかける。
寂しい。
そんな気持ちが湧いてくる。
この気持ちは何だろう。
なぜ、さみしいの?
自分に問いかけてみる。
浮かんだ言葉は
富士山 さみしい
そうか。
富士山から遠ざかることが寂しいのか。
だから、五合目から下る時
心が空っぽになった気がしたのか。
かけがえのない友と
別れる時のような寂しさ。
走れば走るだけ
富士山から離れていくのを
体でリアルに感じる
《バイクを操作する》ということ。
このバイクを走らせると
富士山から遠ざかっていってしまう。
この道を進むと
富士山から離れていってしまう。
あぁ。離れるのが寂しいのか。
それなら…
また、逢いに行けばいい。
逢いに行こう。富士山に。
気づくと
行きにバスを抜いた直線に来た。
振り向けば、富士山が見える場所。
路肩にバイクを停めた。
バックミラーをのぞいてみる。
雲と富士山が半々くらいに見える。
山頂は見えているだろうか。
バイクから降りて、振り向いてみた。
こちら側からは、山頂が見えない。
道路を渡ってみた。
あぁ。山頂が見えた。
富士山が顔を出してくれている。
行きより霞んで、遠く見える富士山。
さっきまで、あの中腹にいたんだなぁ。
大丈夫だよ。ここにいるから。
心配しないで。
見守っているから。
そう言っているように見えて
少しホッとした。
道路を渡り、バイクにまたがる。
行かなきゃ。
行きたかったところへ。
ずっと行きたかった場所。
この時期にしか見られない風景。
それを見たかったんだよね。
自分に言い聞かせる。
そう。
その景色を見るために、ここに来た。
涙はこぼさなかった。
富士山は待っててくれる。
待っててね。富士山。
バイクをスタートさせ
元来た道を下っていった。