バイクツーリング 群馬 榛名 その8
バイクで走りながら
世界にとけこむ。
地球に
同化していくような気分。
はじめて感じる気持ちは
身体が透明に透き通っていくような
重さを持たないものになるような
そんな不思議さを秘めていた。
富士山に向かう時は
そんな気分じゃなかった。
行きの東名で
御殿場まで高速を走ることを
「面倒くさいな。」と思った自分がいた。
思った自分に気づいた別の自分が
心の底から驚いていた。
バイクで走るのを
面倒だと思うなんて。
高速を走るのが面倒なら
もう遠くへは行けない。
行きたいところがあるなら
そこに行くまでの高速を
我慢して走ることはできるかもしれない。
でも、新しい場所はどう?
行った先も知らないところで
そこに行きたい理由もなかったら
新しい場所に行こうなんて思うのかな。
富士山へ向かう
行きの高速で思ったこと。
高速も楽しめないと
遠くへは行けない。
富士山ツーリングの時は
タイムアタックをすることで
高速を楽しむことに決めて
ワクワクした気分を生み出したけど
それは何回もは通用しない。
そう思っていた。
次、榛名に行く時は
高速道路も楽しもう。
タイムアタックをしなくても
走ることを楽しもう。
速さだけじゃなくて
乗っていることそのものを楽しもう。
そう思って乗ることにした。
そして今日榛名へ。
そう思いながら乗ってみたら…
世界にとけこむ感じがした。
これからは
知らない所に行く時だって
きっと大丈夫。
知らない高速だって
楽しく乗れる。
きっと平気だ。
大切なのは
心を開くこと。
世界に向かって
自分の心を開くことなんだろう。
行きたかった最後の場所。
群馬県榛名。
そこに向かって
高速道路の車の流れに乗りながら
バイクに乗れる幸せを
そうやってかみしめていた。
しばらく走る。
飛ばすでもなく
無心に高速を走っていたら
ふと、排気音がうるさいことに気づいた。
耳を澄ます。
左のハンドル下付近が
一番うるさい。
マフラーの根元が緩んでいるのかな?
何度も耳を澄ますが
やはり、左のハンドル下みたいだ。
どうしよう。停まって診るか。
もう少し走ってみる。
音が静まる気配はない。
仕方ない。
次のサービスエリアで停まろう。
次のサービスエリアは…
看板が見えてきた。
《上里サービスエリア》
休憩から走り出してそんなに経ってないけど…
整備不良だと心配だ。
側道を上る。
サービスエリアに入り
駐輪場に停める。
左前からカウルの中をのぞき込む。
マフラーとエンジンが合わさる部分。
見た目、ナット(ネジ)は緩んでいない。
昔、四国の山の中で
ここのナット緩んでたよなぁ。
19の夏に行った
西日本一周ツーリングを思い出す。
あの時は
ガソリンスタンドで
Tレンチを借りたんだった。
CBRのナットは見た目緩んでない。
熱いからグローブのまま触ろう。
グローブをつけたまま
左のマフラーのナットを触る。
緩んでない。
どこかにぶつけたわけではない。
穴が開いた時の音はもっとひどい。
排気漏れだとすると
今、見た場所以外は…
エキゾーストパイプと
サイレンサーのつなぎ目かな?
場所を移動して
横からのぞき込む。
緩んでいる様子はない。
エンジンを一度かけてみる。
左だけ大きい感じはしない。
気のせいだったのかなぁ。
大体、こんな新車が
排気漏れするなんてこと
そうそうない。
ないから余計、心配になって
わざわざサービスエリアで停まったんだけど。
大丈夫そう…だね。
先は長い。
よし、行こう。
バイクにまたがり、出発した。
高速道路を走る。
排気音に耳をすます。
マフラーを社外のものに変えているので
いい音がする。
左だけ…うるさい感じはない。
耳がおかしかったのかな?
標高が変わると
ダイビングと同じようなことが起きる。
耳抜きが上手くできないので
耳の聞こえが悪くなったりする。
そういうことなのかなぁ。
どちらにしても
今は左だけうるさいわけではないので
良しとしよう。
普通、新車は排気漏れなんてしない。
ほどなくして
下りるインターが近づいてきた。
高崎インターだ。
懐かしい。いよいよだ。
榛名に行く時は
色んなインターから行っていた。
初め、よく降りたのは前橋インター。
そこから西にまっすぐ上がったところに
目的地があった。
次に渋川伊香保インター。
ここは行きにも降りたが
ずっと帰りに、ここを使っていた。
インター近くに面白い温泉がある。
近くの線路を走る蒸気機関車が見えた。
伊香保温泉に寄ったこともある。
帰りに日帰り温泉に寄るのは
必ずやることだった。
最後に使っていたのが
この高崎インター。
関越自動車道では
一番手前のインターになり
単純に高速料金が安くなるのでは?
と思ったのがきっかけだ。
高崎インターを降りて
目的地に向かうようになったけれど…
行きは、わたしは運転していなかった。
二人で一台の車で行っていたので
行きと帰りの運転を分担していたからだ。
そうだったなぁ。
と思い出したのは
インターの料金所を過ぎた後。
周りの景色を
きちんと覚えていないのだ。
料金所を出た瞬間の左カーブ。
下の一般道へ合流する瞬間。
そこから直線が続く感じ。
周りの建物と地形から
横に平たく、空が広いところ。
ああここね。という
部分部分では記憶があるんだけど
それがつながっていない。
そもそもこの後
どう走っていたのか思い出せない。
これはヤバいぞ。どうしよう。
走りながら
昨日見ていた地図を思い出す。
直進の次は右折だ。
そして25号線を右折。そこまでは道なり。
あー。右折までの距離
見とけばよかった。
仕方なく走っていると
突然知っている交差点に来た。
青い看板も
ここが右折場所だと示している。
よかった。ここは覚えていた。
大きな交差点だ。
角の建物をいくつか覚えている。
車の列に並んで曲がる。
また二車線の直線を走る。
高崎環状線
地図にはそう書いてあったけど
合っているのかな?
道路脇の看板を探す。
それらしい看板がない。
仕方なくそのまま走る。
周りをよく見る。
右折時の交差点周囲の記憶がない。
今走っていても、懐かしい景色がない。
行きは寝てたんだなぁ。
実際そうだったんだけど
改めて実感する。
さて、どうしたものか。
このまま、おぼろげな記憶で進むのか。
そう思いながらしばらく走ると
突然、よく知った場所に来た。
ここ知ってる!
この高架下で、何かの研修受けたことある!!
何だったかなぁ。
ヘルパーの資格だったかなぁ。
バイクを降りて
しばらくしてからここに来て
とっても懐かしくて
しみじみしていたことを思い出す。
高架を上り、下りる。
下りた先にある建物も覚えている。
この後、少ししたら右折のはずだ。
一生懸命、記憶を呼び戻す。
知っている交差点はないか?
んー。わからない。
結局わからず、だんだん焦りが募る。
どこで曲がればいいんだろう。
昔、どこで曲がっていたんだろう。
本当は懐かしいはずの景色が
道順がわからないことで楽しめない。
どうしようか…と思い悩み
ええい。曲がってしまえ。
と少し見知ったような記憶のある道を
右折することにした。
右折する。
曲がったけれど
曲がった先にも懐かしさはない。
ここじゃなかったな。
そう思ったが
とりあえずバイクを停められるところまで
行くことにした。
すぐ、国道にぶつかった。
あれ?ここにこの国道って…
交差点が新しい。
道が変わっている気がする。
ここは、きっと昔はなかった。
交差点を直進する。
あまりにも新しく
きれいな道を走りながら
知らないところに来たような
錯覚におちいりながら
道上に
コンビニが見えた時の嬉しさよ。
助かった!あそこで地図を見よう。
ようやく
迷子のバイク乗りは
軌道修正する時間を与えられたのだ。
よかった。