バイクツーリング 〜静岡 富士山〜 その11
行きに走った道を
車について下っていく。
気づいたら
中畑の桜も通り過ぎていた。
途中、近道できるところがあると
地図を見て確認していたけれど。
そこも
あっという間に通り過ぎてしまった。
仕方ない。
R246まで戻ることにする。
富士山が見られて、少し落ち着いたけど
まだ、気持ちは沈んだままだ。
まだ、何かあるの?
自分に聞いてみる。
もし
これで満足してしまったら?
そんな思いが、心をよぎる。
バイクにまた乗れたら
行きたいところがあった。
西伊豆スカイライン
西湘バイパス・箱根・芦ノ湖
富士山
榛名山
ここに行けたら
もう何も要らないと思っていた。
今、富士山のふもとを走り
あとは、榛名山だけだ。
榛名に行ったら
もう行きたいところはなくなって
バイクに乗りたいとは
思わないんじゃないのかな。
そう思うと
あと一回のツーリングで
終わってしまうような
そんな寂しさを感じていた。
そんな寂しさに、気づいた。
「バイクに乗りたい!」
という気持ちを上回る事故への恐怖。
『怪我だけはしないように。』
と言った父との約束。
現実世界の周りの視線。
どれを取っても
乗った方がいい要素なんてない。
それでも乗ってしまうのは
青空が呼んでいたり
どうしても行きたい所があったから。
バイクに乗らなければ
バイクの事故には遭わない。
その当たり前のことを
いつも考えてしまう。
今日乗って後悔しない?
乗って事故に遭っても
何かあっても
乗る選択をした自分を責めない?
いつも、乗る前に自分に聞く。
後悔しない。
その決断ができた時だけ
バイクに乗っている。
その決断をするのに
けっこうな勇気が要る。
もう止めたら?
そうささやく自分もいる。
その自分と闘うのも消耗する。
起こらないかも知れないものに
考えなくてもいい恐怖を感じているのか。
そう言う人もいるかもしれない。
でも、怖いことから
目を逸らしてはいけないと思う。
怖さを認めることは大切だと
教えてくれた人がいたから。
だから、毎回悩むんだ。
走るか走らないか。
その後押しをする
「行きたい!」って衝動がなくなったら
走りに行けなくなっちゃうのかな。
そう思うと、あと1箇所で
行き先が無くなってしまうことに
言いようのない寂しさを感じた。
そういうことだと思う。
そう思いながら、R246に出て
ぐみ沢丸田で右折。
R246を少し走って
川島田を右折。
いつもの道を曲がる。
この先のコンビニから
富士山がよく見えるんだよね。
緩いカーブを曲がる。
そう思いながら進むと
なんと、コンビニがなかった。
路肩が広いので
停めて写真を撮る。
もう少しだ。
民家の間を抜ける。
この通りは、お肉屋さんが多い。
馬刺しを売ってるんじゃなかったかな。
何年経っても変わらない風景。
ここからは、よく
自衛隊のジープと一緒になったなぁ。
このゴルフ場は
有名なところなんだよね。
秋になると、街灯にフラッグが飾られて
一気に華やかになる。
原っぱのようなところを抜けて
少し大きなRのコーナーを抜けたら…
着いた!ここだ。
ずっと来たかった場所。
息子が産まれる前だから17年ぶり。
ずっと、心の中にあったんだよ。
この風景。
秋になると見たかったんだ。
このススキ野原。
あぁ。
どこに停まれば
ゆっくり眺められるんだろう。
ふと
左に車が停まっているのに気づいた。
横が少し空いている。
お隣に停めてしまおう。
少し砂利が浮いてるけど
地面は固くしっかりしている。
ここなら、バイクを停められそうだ。
下り気味の道に
転ばないようにしっかりバイクを停めて
恐る恐る、富士山の方を見る。
いた!見えてる。
よかった。
心の底からホッとする。
しばらく、辺りを見渡す。
間に合った。この季節に。
やっと来られた。このススキを見に。
さっきまでの
寂しかった気持ちは
消えてなくなっていた。
ずっと来たかった場所。
秋になると
夢を見るように思い出していた場所。
そのどこまでも続くススキの大海原に
心ごと放り出して身を委ねるかのように
広い広いススキ野原を
いつまでも見つめていた。