今日という日が終わって
朝、久しぶりに寝坊した。
娘の目覚ましで目が覚める。
ってことは7時だ。
スマホを見る。
やっぱり・・・
壁には陽の光がオレンジ色に輝いている。
あぁ。バイクで出かける時の朝の光だ。
カーテンを開ける。
雲ひとつない青空が見えた。
今日は走りに行くはずだった。
会議が入らなければ・・・
娘の弁当を作りながら大音量で曲をかけ、娘を起こす。
娘を送り出して…
洗濯物を回し、終わったら『おおぞらをとぶ』を弾いた。
しばらく弾いていたら…
あっ。ピースのさんぽを忘れてた。
ごめん。ピース。
かばんを肩から下げて外に出たら、ピースが小屋から飛んで出てきた。
さんぽに行こう!
ピースはウキウキしている。
リードがピンと張るか張らないかで歩みを緩めて、わたしを引きずったりしない。
空が青い。
快晴だ。雲がない。
ピースは相変わらずウキウキ歩いている。
ピースのさんぽに出たから、この青空に気づいたんだなぁ。
帰ろうとして、いつもの帰り道に行こうとしたら、ピースが止まってこっちを見た。
わたしもピースを見つめる。
こっちに行きたいって言ってる。
さて。どうしよう。
ピースが目線を外した。
そして、もう一度わたしを見る。
わたしも見る。
視線が絡まる。
じーっ。
ピースがまた目線を外した。
さて。どうするのかな?
もう一度、振り向いてわたしの目を見た。
じっと見つめ合う。
わかった。そっちに行きたいんだね。
「よし」と言うと、耳がピンと立った気がした。
背中を向けてワクワク走り出す。
ピースの勝ちだ。
ピースに連れて行かれて、しばらくウロウロに付き合った。
あっちにウロウロ。こっちにウロウロ。
そして、少し遠くに目をやった。
あっ!富士山だ。白い!
雨上がりだから、くっきり見えている。
やっぱり今日は走りに行くべき日だったんだ。
ウズウズしてくる。
どうする?走りに行く?
あと1時間で会議始まるよ!
富士山の写真を撮りたい。
んー。
自転車で行こう。
バイクは止めよう。
秋ちゃんを抱っこした青ちゃんを肩から下げて、自転車に乗る。
風が気持ちいい。
空が透明だ。
どこまでも青い。
こぐ足が心地よい。
ハンドルを持つ手が嬉しい。
空に吸い込まれそうだ。
橋に着いた。
振り向く。
富士山は・・・
雲がかかって見えなくなっていた。
わざわざ来たのに。
こんなこともあるさ。
そう思おう。仕方ない。
元来た道を戻ろうとして、ふと思い、Uターンした。
止めて、堤防を走る。
空に近い。
風に吹かれながら堤防を走った。
しばらくして何気なく前方を見た。
あっ!富士山!
富士山が顔を出してくれた。
腐らずにいたら、こんなこともあるんだな。
会議を2つこなして…
夕方、西の空を見たら、真っ赤な夕焼けと富士山が見えた。
今日、朝出かけていたら、今ごろ帰り道を走っているんだろう。
夕焼けの中を。
富士山に見守られながら。
西には、雲も広がっていた。
黒い雲と対照的な空。
うごめくようなまだらな陰影のある雲に対して、どこまでも均一で透明な、藍〜橙のグラデーションの空。
旅先で見たような空を、電線と家々の屋根で切り取られながら、それでも走っているような心地になる。
旅に出なくても、バイクで走らなくても、この感覚と心もちを覚えていれば、バイクにしばらく乗れなくても、いつか乗れなくなる日が来ても、きっと思い出せる。
それが、バイク乗り・・・ってことなんだろう。
そう思った。